36食目、獣耳従業員ゲットその1

 二月も終盤に差し掛かった頃の太陽が西へ傾き初めた時間。

 カズトは休憩がてら普段行かない薄暗い路地裏へと足を踏み入れた。

 レストラン〝カズト〟がある大通りとは違い、ここの人達は活気がないし、服が薄汚れスラム街みたいだ。

 こういうところの店には、何か掘り出し物があったりするもんだ。まぁ無い可能性の方が高いかもしれないが。

 そう考え適当に歩いてる最中、フードを深く被った一人の子供が裸足で反対側から歩い来て━━━そして、俺とスレ違い様ぶつかる。子供は転びそうになるが、そのまま去ってしまった。

 何かのノベルで読んだ展開でスレ違い様に財布等をすられる事に酷似してると思い急ぎで自分の財布をチェックした。案の定、財布がない。


 や、やられたぁぁぁぁ!こんちくしょぉぉぉぉ、今ならまだ間に合う。勇者の索敵サーチ能力なめんなや。さぁてと、追跡開始といこうか。


「ハァハァ、ここまで来れば大丈夫かな?」


 迷路の様な路地をまるで庭の感覚で迷わずにスイスイと進んで行き、人混みが無くなる辺りで歩みを止めキョロキョロと誰もいない事を確認する。

 そして、戦利品を確認するとニヤケ顔が止まらない。

 男の子?は財布を懐に仕舞い、ここを去ろうと腰を上げた瞬間、後方から声を掛けられた。声の主はこの一帯を牛耳る不良グループメンバーだ。


「おいおい、誰に許可貰って〝スリ〟をやったんだ?」

「ここが誰のシマと分かっての狼藉か。その懐に隠したのを渡せや」

「キャハハハハ、大人しく渡した方が身のためだぜ?俺達のリーダーは気が短いんだ」


 相手は三人、隙を見つけ運が良ければ逃げられるかもしれない。

 ただし、逃走失敗した時は死ぬ。ここはそんな世界だ。


 男の子?が取った選択は━━━


「い、嫌だ。誰が渡すもんか」


 渡さない選択を取った。どうせ渡しても報復という暴力に合うのだから。それなら、その運命に足掻いてやる。

 男の子?は、周囲の状況を子供ながらの目線で観察し考察する。

 相手は男の子?よりも、1.5倍程身長は高く明らかに力は強いのが目に見えている。

 魔法やスキルを使用可能ならば、一矢報いる事や逃走の助けになるだろう。

 だが、男の子?が取得してるのは簡単な強化魔法のみである。


「なめられたもんだぜ。おい、野郎ども殺ってしまえ」

「うふふふふ、大人しく渡せば良いものを。後悔しても後の祭りですよ」

「ヒャッハー、殺しても良いよな良いんだよな。殺しちゃうぜ」


 不良の三人は男の子?にジリジリと歩きながら詰め寄る。

 一方、男の子?は唯一取得してる強化魔法を足に掛け速さスピードを上昇させ駆ける。不良達の隙間から抜け出すべく全速力で駆け抜ける。


「ふん、ガキに使える魔法が俺らには使えないと思ったか。甘いな………そりゃぁ」


 バキッバキと肋骨が折れるような音がする。

 不良のリーダーが男の子?の速さに軽々とタイミングを合わせ腹に蹴りを喰らわせた。その結果、後方に吹き飛び行き止まりの外壁へと激突し、咳き込みながら小さく丸まり動けないでいる。


 ドッカーン


「ゴホッゲホッ(クソッ動けねぇ)」

「キャハハハハ、リーダーよ、折角の楽しみを奪わないでくれよ。殺せないじゃないかよ」

「悪いな、まさか一発KOと思わなくてな」

「だが、まだ息があるみたいだぞ」

「ヒャッハー、分かってねぇな。俺はな、刺激が欲しいんだよ。ただ殺すだけなら、そこらの赤ん坊でも出来るが………戦って殺す、これが良いんじゃねぇかよ」


 不良リーダーは、部下の話をスルーし微動だにしない男の子?に近づき懐を探ろうと手を伸ばした瞬間、誰もはずの場所から急に声がした。


「面白い事してるじゃねぇか。俺も混ぜろや」


 声がしたのは、不良リーダーと部下がいる入り口間にある外壁からだ。いつの間にか外壁に背中をつける形で腰に帯刀してる男が立ってる。

 入り口は不良リーダーの部下二人が固めてるので、入る事はほぼ不可能に近い。

 男が声を掛けた事で不良リーダー男の子?に伸ばしている手を引っ込め男の方へと視線を向ける。


「誰だ?てめぇ………一体何処から湧いて出て来やがった?おい、お前ら、ちゃんと見張ってたのか?ウソつくと後ではっ倒すぞ」

「へい、ここは誰も通ってないぜ。う、ウソはついてねぇ」

「あぁ、誰も通ってないと断言しても良いが、その男が妙な魔法を使ったかもしれないしな」


 男は魔法を使ってない。が、技術スキルは使った。技術スキルで音もなく、部下の二人の間を通り今の場所に立ってるだけだ。

 特に特殊な事はやってないと男は思ってる。ただ、男にとって不良が雑魚に過ぎないだけだ。


「おい、てめぇ良いもん持ってるじゃないか。それを渡せばここは見逃してやる」


 不良リーダーは男が所持してる武器に気付き、それを渡せと強要し、手を伸ばし奪おうとする。

 だが、男は不敵に笑い不良リーダーの手を払いのける。


 バシン


「フフフフ、エクスカリバーに汚い手で触ろうとするなよ。お前らみたいな連中が触ると穢れる。それより、君大丈夫か?」


 不良リーダーの死角から男の子?のところへ駆け寄りケガの状態を診察する。

 触れた状態で回復魔法ヒールを掛け後ろに庇う。その行為に不良リーダーは侮辱されたと思い、額に血管が浮き出て怒り心頭になる。


「うっ………(この兄ちゃんは………)」


 男の子?はウッスラと開ける瞳に自分を庇う人物を目に焼き付けた。その後、安心感から意識をゆっくりと手離した。


「何様だ貴様!もう良い、殺して奪えば良いだけだ」

「キャハハハハ、今日は運が良いな。活きが良いヤツが飛び込んで来やがった。これで気ままに殺せるぜ」

「うん?ちょっと待て!そいつの顔………何処かで見た事ある…………そうだ、そいつは勇者だ」

「はん?何言ってやがる。こんなクソ溜まりに勇者がいるはずねぇじゃねぇか。どうせ、ただの他人の空似だろうよ。やっちまえ」


 不良の三人は男に飛び掛かり、男は返り討ちにしたのである。

 しかも、武器を使用せず手刀だけで圧倒した。


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