35食目、メンチカツVSトンカツ
アテナと王様の一悶着が無事に決着した日の太陽が真上に昇ってくる時間。
そんな時間帯、仕事の休憩がてらに寄る者がいるとすれば昼間から酒盛りをしてる者が少数いたり、中には冒険者が依頼失敗したのかリーダーを慰めてるグループがいる。
そんな時間の中、バンッと扉を無造作に開け放ち店内を潜る者が同時に二人いた。そんないつもの光景が流れる。
「いっらしゃいませ。二名様ですか?」
「「一人だ」」
これもいつもの光景、大抵二人一緒に入店するのに別々の席へ座る。
テーブル席じゃなく、カウンター席なので店側としては特に困る事はないが、この二人はどうしてこう犬猿の仲なのか分からない。
気になるが客のプライバシーに関しては、客側がわざわざ話されるのであれば聞くが店側からは失礼に当たるとして絶対に聞かない事にしている。
「「注文だ。真似すんなや」」
「はいはい、順番ね。まずはそちらからどうぞ」
「俺はまずはナマだ。それにメンチカツを頼む」
「ふん、相変わらずメンチカツかいな。ワシはナマとトンカツだ」
「偉そうに、そちらも変わらないじゃないか。トンカツよ」
この二人はいつも同じ物しか頼まない。この二人だけではなく常連客になる程、その傾向が何故か強いようだ。
常に同じメニューしか頼まないお客様に、いつの間にかこの店限定でメニューの名前がそのままニックネームになっている。
誰が初めたのは定かではない。いつの間にか定着していたのだ。
メンチカツのお客様は、ムハンマド━━━木工職人ギルドの頭領を任されてる男だ。家具類から始まり家屋の建築までやり遂げる極めて大きいギルドだ。
このギルドがないと、この国は成り立たないと言って過言ではない。
トンカツのお客様は、ジャック━━━硝子職人ギルドの頭領を任されてる男だ。
食器類から始まり硝子窓や教会のステンドグラスを作成している。
木工職人ギルドよりは規模は小さいが、切っても切れない関係となっている。
それ故に、頭領同士が犬猿の仲になってしまったのだ。
周囲からしたら、ただ単にケンカする程仲が良いという解釈でいるらしい。
前にも両ギルドからそれぞれ婚約者が出た時なんかは、二人揃ってお祝いの品を贈答し、二人仲良く酒を酌み交わしたと耳にした事がある。本当は仲が良い事は周囲の者が知ってる事実である。
「よく厭きずにメンチカツとやらが食べられるな。柔らか過ぎて歯がダメにならないか心配だ。それと比べトンカツはどうだ、歯応えがあってしかも肉本来の味が楽しめるってもんだ」
「なにお~!俺からすれば、トンカツとやらがよく食べられると思うがな。トンカツは硬くて噛み切りずらい。それに比べメンチカツは噛む度に肉汁が溢れ出てくるぞ。ナマに合うし、そんなメンチカツが一番だ」
「何を言う、ナマに合うものこそトンカツだ」
「メンチカツだ」
「トンカツだ」
「「ぐぬぬぬぬぬ」」
バンッ×2
お互い席を立ち、胸ぐらを掴み今直ぐにでもケンカに勃発しそうな勢いだ。
このままでは、周囲のお客様に迷惑を掛かる恐れがある。そのケンカ寸前の言い争いを止めたのは━━━
「周囲のお客様にご迷惑が掛かりますので、お静かにお願い致します。ニコッ」
従業員ホール担当のレイラだった。他のお客様は『止めとけ』と視線を送り続けるだけで自分で止めるには勇気がない度胸無しの者か、興味無しと言う風に自分の食事に集中してる者の二パターンに別れていた。
前者は初めて来た者で、後者は常連客だ。
常連客は、この店でたまに起きるイベントだと気にする事なく、逆にこれを肴に食事と酒盛りをしてる。中には『学習しねぇな』と呟く者もいる。
「何じゃお前は!小娘は引っ込んでおれ。これは俺とこいつのケンカだぞ」
「そうじゃそうじゃ、小娘は引っ込んでねぇとケガするぞ」
ブチっと何かが切れた音がした。
二人は頭に血が上り、誰にケンカを売ってるのかまるで気付いてない。ていうか、売った事にも理解していない。
この店でケンカを売ってはいけない者の一人に売ってしまった。
バキバキ
カウンターテーブルの一ヶ所にヒビが入っている。これをやった犯人をケンカしてる二人はパチクリと見て呆然としている。
少しずつ状況が理解出来、徐々に二人の体が震え冷や汗が止まらないでいる。
「………今、小娘と言ったか。言ったよな。どぅなんだ、あぁ~ん(怒)」
レイラに言ってはならない禁句が何個か存在する。その一つが小娘という単語だ。
下に見られるのを極端に嫌い、小娘と言ったら最後性格が豹変し誰にも止められない。
この性格の豹変ぷりからとある二つ名が付いた。それは"爆炎姫"だ。性格の件が大半だが、炎魔法の使い手とそれに関するスキルを所持してる事も起因してる。
ただ、本人はこの二つ名が恥ずかしいようで自分からは名乗っていない。
「「ひぃぃぃぃぃぃ、すみませんでしたぁぁぁぁぁ。仲良くしますので、お許しをぉぉぉぉぉ」」
レイラが怖すぎてお互い抱き合い許しを請う。もう二人とも大の男が涙目になってる。だが、何時かは忘れまたやるのが、この二人だ。
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