SS2-4、アリスのレストラン暮らし~アリスとお寿司その2

「これは!生魚とは違う弾力のある不思議な食感………カズト殿、実に美味であります」

「今まで食べた事のない味わいにて美味なのじゃが………結局、何の食材か分からんのじゃ」


 やはり、分からんか。一応タネ明かしというか正解発表のために実物を持ってきてる。生きてる新鮮そのものをアイテムボックスに仕舞ってるのだ。


「お二人が召し上がった正体はこれです」


 カズトの手の中には、まだ二枚の殻が付いてる状態の新鮮なホタテが握られている。

 それを見た二人は首を傾げ見事に頭の中は???がいっぱい浮かんでいる。だってそうだろう、硬い殻?に覆われるなのだから。

 こちらの住人が初見だと何かの魔物モンスター由来の鱗か別の何かだと勘違いする者が多いのだそうだ。


「これは貝という種類の生物でして、ホタテ貝と言います」


 カズトはホタテ解体用のナイフで、ほんの数秒の速さにて殻を見事に開放し、プリプリの貝柱を殻から取り外したのである。


「これが先程お二人が食した部分でございます。私の故郷でも頻繁ではありませんが………そこそこ食される食材です。嫌いな人はいないと思いますね」

「ほぅ、初めて見るが手際の良い解体じゃった。見事である。して、ホタテとやらの事は聞いた事あるかのぅ?のぅ、シャル」

「すみません。私も聞いた事ありません。おそらく、シェールにあるどの文献にも載っていないかと」


 感心してたからホタテを見た事あると思ったら、ないのかよ。

 それでも、もしかしたらシェールの文献とやらに載っているものだと思っていたが、載ってないという事は幻中の幻の食材なのかもしれない。


「おいっ、妾達に幻の食材を使って怒られたいのか!これにどれだけお金が掛かるのか、そなたに分かるのか?!」

「いえ、こちらの相場に疎いもんでして」

「姫様、料理長シェフ殿は異世界の者です。怒りたい気持ちは分かりますが…………酷だと」

「それは分かっておる。分かっておるが、何かこう胸の奥からモヤモヤと這い上がって来るような感覚があるのじゃ」


 納得はしていないが、どうにか怒りの矛を納めてくれたようだ。

 カズトは鬼人族オーガに関して詳しくないが、こう高級品や珍品に敏感に反応されると、魔王を倒すため冒険してる時に出会った一人の男を思い出す。

 アイツも高級品や珍品に敏感で短期間だが、一緒にパーティーを組んでいた時期がある。いつも酒場では、お酒を一切飲まず人が頼んだお摘みを分けてやった。

 野宿時は、詳しく聞かなかったが種族の特性か狩りが非常に上手く酒場で分ける代わりに、狩りの戦利品を分けてくれた事を昨日のように思い出した。


料理長シェフ殿、どうした?急に黙って?」

「いや、大丈夫だ。次から次へと作ってやるぞ。これからが、お寿司パーティーの本番だ」


 いけねぇいけねぇ、冒険時代の事を思い出して………ボォーッとしてたぜ。まだ、ネタはたくさん用意してあるのに集中切らして不味いものだしちゃ洒落にならない。

 お寿司だけじゃないが、繊細な料理は一歩間違えりゃゴミに早変わりする。


「さぁお待ち、〝イクラの軍艦巻き〟だ」


 シャリの周りに海苔を巻き付け、その上に鮭の卵であるイクラを醤油漬けにしたものを乗せた。

 イクラを含めた魚卵は噂程度だが、この世界では海沿いの街や村の一部しか食されない珍味らしい。

 一応、食される所があるなら幻ではなさそうだ。これなら怒られずに済みそうだ。


「ほぉ、これは見事に宝石みたくキラキラしておるのぉ」

「えぇ、こんな綺麗な食材は見た事ありません。食べるのが勿体無い」

「これは鮭という魚の卵でして、とある一部の地域でしか食さないと聞きます」

「私は見た事ないですが、昔若かりし父上が食したと言っていたのを思い出しました」


 これはセーフだろう。珍しいだろうが、親戚に食べた者がいるなら幻ではないはずだ。


「うむ、口の中でプチプチと弾け美味の液体が口の中いっぱいに広がるのぅ。実に面白い食感じゃ」

「はぁ~、これを父上も食べたと思うと何処か懐かしい思いになってきます。グスン、父上ぇぇぇぇぇ」


 涙を流す姿など想像出来ないシャルが、今涙を流してる。嬉し涙か悲しい涙か判断出来ないが、もしかしたら両方かもしれない。


「シャルが涙を流したのは何年ぶりかのぉ」

「はっ!お騒がせ致しました。姫様、こちらを見ないでください。お恥ずかしゅうございます」

「良いではないか。のぉ、勇者もそう思うでござろう?」

「私の立場から何とも言えませんが、美しい事だと思うのは確かでございます」

「う、美しいなど料理長シェフ殿は冗談が過ぎます」

「照れてるのか?照れてるなか、シャル」

「姫様!」


 照れてるシャルの姿にアリスとカズトは思わず笑みが零れてしまう。

 が、シャルも吊られ涙を流しながら笑いが混み上がって来たようだ。

 一緒に笑ってるシャルの涙は何処かキラキラと星のように輝いていた。


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