16食目、唐揚げのち焼き鳥
「ほれ、他のも食べてみな。このカレー風味なんかスパイシーでなかなかいけるぞ」
他のも勧めるユニは異世界アグドでは珍しい箸で器用に使い次々と食べて行く。
ユニに箸を教えたのは、およそ五年前召喚されたばかりで右も左も分からなかったカズトだ。
ユニは直ぐにマスターし、それ以降フォークやスプーンよりも箸の使用頻度が増した。むしろ、教えた本人よりも上手になってる始末であり、いつの間にかマイ箸を持ち始めたのである。
「あっ!隊長ぉぉ、ズルいですよ。私はこのタレが掛かったヤツで………うん♪甘辛なタレが絶妙で何個でも食べられますよ」
「リーダーもズルいです。勇者様が言ってたじゃないですか。このタルタルソースを掛けたら、もっと美味しくなるかもそれないですよ」
「あっ!忘れてた」
「この塩唐揚げも美味しいですね。しょっぱいかと思いましたが、そんな事ないですし旨さ倍増です」
ユニの部下達にも各鶏の唐揚げを気に入ってくれたようで生ビールを片手に全部ユニ達六人の腹の中に入ってしまう。カズトとしては十分な量を用意したつもりだが甘くみていた。
常に訓練か魔物討伐してる騎士達は例外なく大食漢なようで、最初の内だけ勇気が必要なだっただけで食べ始めれば数分の内に無くなってしまうのだ。
「おーい、こっちに生追加と唐揚げだ」
「「「「「流石、隊長~分かってる♪」」」」」
くっ、速すぎだろ!まるでユニが五人増えたみたいだ。
なら、俺も負けてはいられない。剣の勇者ならぬ料理の勇者として、ユニ達の腹を満足にさせてやる。
この瞬間、誰も知らない戦いの火蓋が切って落とされた。
「はーい、お待ちど。生に鶏軟骨の唐揚げだよ。そして、焼き鳥五連盛りだ。良かったらお試しを」
「焼き鳥?なんだ、ただ鶏を焼いただけかい。それじゃぁ話に━━━」
「いやいや、分かってないな。隊長さん………焼き鳥は奥が深いんだぜ。それにこれは俺が独自にブレンドしたタレに浸けて焼いてある。旨くない訳がない」
カズトの説明に何人かはゴクンと唾を飲み込んだ。そして、食べたくてソワソワし始めた。
今回の味付けに塩は止めといた。焼き鳥の塩味は素人には厳しいだと判断した。よって、醤油タレと味噌タレの二種類で責める。
焼き鳥の部位は一番人気であるモモ、間にネギを挟んだネギマ、ミンチ状にし丸めたつくね、何気にカロリーが集中してる鶏皮、そして鶏の肝臓であるレバーの五種類にした。
「そういや、勇者殿の料理はハズレがないのを忘れていたよ。どれ、食べてみるか」
普通常人が串のまま焼き鳥を食べる際、長い串が相まって一口ではなかなか食べられないものだが………ユニは串の根元の肉を咬み、全ての肉スライドさせ一気に一口で口の中に消えた。まるで、大食い選手を見てるかのようだ。
そこでカズトに素晴らしいアイディアが頭に浮かんだ。定期的に大食い(又は早食い)大会にデカ盛りや激辛を時間内に食べきれた者には無料と賞品を与える事を企画したら、さらにこの店は評判がうなぎ登りになるかと考えが浮かんだのだ。
まぁこの企画をするには、もっと周囲に認知させないとしょうがないだろう。それに、今は目の前の大食漢娘達との勝負だ。
「ほう、何とも唐揚げとは違った咬みごたえがあり、このタレが香ばしく食欲をそそるな。こっちはパリパリと言ったら良いのかプニプニと言ったら良いのか、ずいぶんと変わった食感で面白い。同じ肉のはずなのに、こんなに違うとはな」
ユニが手に取ったのはド定番であるモモで純粋に肉の食感と醤油タレの香ばしい匂いが鼻を擽る。
モモが美味しかったのか違う部位を試そうと次は鶏皮を手に取った。鶏皮は脂身が多くそれ故にカロリーが最も多いとされる部位だ。だからこそ、美味しいのだ。だが、好みが別れるかもしれない部位でもある。
「私は、このダンゴ状に丸めてあるヤツが好きです。食べやすくて年配の方や子供でも楽々食えるんじゃなかしら。それに………このタレ何ともいえないわ。
何て表現したら良いのか分からないわ。今まで味わった事のない味なんですもの」
新人リーダーが手に取ったのは、つくねの味噌タレである。一回ミンチ状にしてるから柔らかく食べやすい。
醤油と味噌という調味料は地球の日本では何の珍しくないのだが、異世界アグドでは幻の中の幻の調味料であると一週間前シューリー出身のシャルに怒られもとい注意されたばかりだ。
それなのに惜し気もなく醤油も味噌も使っている。この事をアリスとシャルは、もちろん知っている。最初の内は注意していたが、何回も使うに連れ諦めたようだ。なので、今は何の躊躇もなく使っている訳だ。
「私はこれね、色が血の色に似てますわね。でも、ゲテモノ系な程美味しいと相場が決まってますわ。それでは頂きます………やはり、美味ですわね。活力がみなぎって来るようです。
しかし、何処の肉か分かりませんわ。料理長シェフ、何処の肉ですの」
「………鶏の肝臓でございます」
それを聞いた部下は「うっ」と一瞬吐きそうになるが留まった。どうにか吐かずに飲み込む事に成功した。
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