15食目、鶏の唐揚げその2

 ユニの赤裸々な恋愛事情を暴露させられた中、ちょうど注文したものが運ばれてきた。


「お待たせしました。まずは生ですね」


 冷たく冷やされたジョッキに実に美味しそうなビールが注がれている。

 この生ビールを見たユニの部下全員の喉がゴクンと音を鳴らす。


「そして、こちらが今回の主役の料理です。左からスタンダードな鶏の唐揚げのですね。レモンを絞り掛けて召し上がって下さい。

 次に塩唐揚げです。塩をまぶしてありますので、そのまま召し上がって下さい。

 そして、こちらが唐揚げカレー風味になります。ちょっとピリ辛が後を引きます。

 最後にチキン南蛮でございます。そのまんま食べてもよろしいですし、このタルタルソースを掛けるとまた変わった味に変化を楽しめますので、ご堪能下さいませ。それでは失礼致します」


 テーブルに並べられた四つの皿を見た部下五人は口の中ヨダレでいっぱいだ。溢れそうになるが女として有り得ない行為なので、全員すんでのところでヨダレを飲み込んだ。


「どう?予想以上の料理でしょう。最初見た時は私も食べる事を忘れる程だったわ」

「「「「「食べても良いですか?」」」」」

「えぇもちろん♪そのためにここで歓迎会を開いたんだから。あっとその前に乾杯しましょうか」


 ユニと部下五人はジョッキを持ち上げ『チアーズ』と乾杯の掛け声と共にジョッキを軽く当て一気に飲み干した。


「プハー、私はこのために生きてるのよ」

「う、ウマイ!!とても冷えてて、これを飲んだら他のエールが飲めなくなるわ」

「えぇ、今まで飲んできたのは何だったの!」


 異世界アグドには、冷蔵又は冷凍技術なんて存在しないから驚くのも無理はない。

 物を冷やす発想事態がそもそもあんまりないらしく、高額な運送賃を払って魔法使いを雇い物を腐らにくくする程度だ。


「ふぅー、こっち生一丁だ」

「「「「「私も生を」」」」」

「はーい、ただいま」


 空のジョッキは下げられ、キンキンに冷えた人数分の生のジョッキが運ばれ来た。

 ユニはスタンダードな唐揚げにレモンを絞り掛け器用に箸で口の中に放り込み咀嚼した後、生ビールを流し込んだ。


「今度は唐揚げを食べて生を飲むのがウマイんだな。はむ、モグモグ………ゴクゴクプハー………くー最高だ」


 まるで何処かの居酒屋で飲んでる酔いどれオッサンみたいだ。

 カズトの故郷地球でも異世界アグドでも変わらない風景の一つかとカズトはユニを見てそう思ってる。

 ユニは美味しそうに唐揚げを食してるが、部下五人は躊躇している。隊長を疑いたくはないが、今までの常識の一つが崩れ去ろうとしてるのだ。


「お前達も騙されて食ってみろ。驚くぞ」


 ユニに急かされ新人リーダーが勇気を持ってレモンを掛けてある唐揚げをフォークで口の中に放り投げた。


 サクッじゅわり


「こ、これは!!」

「「「「大丈夫?」」」」


 あまりの味の衝撃に新人リーダーは、数秒間フォークが空中に浮いたまま体が固まってる。今までの常識の一つが崩れ去る瞬間だった。


「はっ!お前らも食べてみろ。これはウマすぎる。食わないと後悔するぞ」


 新人リーダーの意識が戻り他のメンバーの前に唐揚げの皿を押し付け勧める。ユニだけではなく、新人リーダーまでもが「ウマイ」と言う目の前にある食べ物の味が想像出来ない。

 だが、他のメンバー四人はお互いに頷き一緒にスタンダードの唐揚げを口に放り投げた。


「「「「!!!」」」」


 先程の新人リーダーと同じような格好で四人共体が固まってしまっている。そんな様子にユニは大爆笑である。厨房から見てるカズトも口を抑えながらバレないように笑ってる。


「ぷっあはははははは、どうだ?美味しいだろ?勇者殿が作る飯にはハズレはないからな」


 それは言い過ぎだと………カズト本人はそう思━━━いや確かに今まで失敗した事ないな。初見な食材でも見事に調理していたな。周囲が何故か引く程に………。

 勇者冒険時、地球にいた頃よりは味を落としていたが、それでも異世界アグドの住民にとってはご馳走みたいなものだった(胡椒や砂糖等簡単に手に入るはずもなく、身近な物で代用していた)。

 自覚はなかったが今さら思うと何気にスゴい事やっていたかもしれない(調理関係で)。


 カリッじゅわぁ


「外はカリッと歯ごたえがあるが、中はジューシーで肉汁が溢れて来る。それにレモンとやらの果汁が良い感じに油を中和するかの如くサッパリしてる。これが鶏肉だというのか!」


 新人のリーダー、食レポ上手すぎないか。アリスやシャルの時でも思ったが、何故か日本の芸能人やアナウンサーみたく上手いんだ?というか、ここの住民って最初食べた時に食レポするだろうか?

 まぁその謎は永遠不明になるかもしれないが、それは兎も角近い将来同じ地球人出身者と出会うとはカズト自身は思いもよらずにいた。



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