5食目、プロローグ5
カズトは今、商人ギルドに来ている。何故、来ているのかというと理由は二つある。
一つ目は商売するには、商人ギルドに手続きをして商人ギルドのカードを発行しなくてはならない。手続き事態は簡単で自分の名前と拠点になる場所と所属する商人パーティの名前を書くだけだ。まぁ年一回、会費を払う必要があるが問題ない。
拠点になる場所はもちろん旧都、パーティ名はレストラン〝カズト〟だ。商人パーティ名はほぼ店の名前を書く者が多いのだ。まぁ分かりやすくて良いと思う。
俺以外ギルドカードを取得しなくても良いのだって?それも大丈夫だ。代表者一人だけが持っていれば問題ないらしい。次いでに言うとギルドカードはキャッシュカードの役割も持っていて何時でもお金を落とせる訳だ。正確にはお金専用のアイテムボックスになっている。それに、登録した者以外は使えないよう魔法が掛かってある。
二つ目は飲食店なのだから、安定かつ安心に食材を調達しなくてはならない。そこで商人ギルドだ。ここに頼めば金が払える限り調達してくれるのだ。まぁ無理な物は無理だ。例えば、伝説の鉱石であるオリハルコンだったり、高級食材であるフカヒレや香辛料等だ。
「すみません。登録したいのですが」
シソシソガヤガヤ
「登録ですね、こちらに…………あの~失礼ですが勇者様ではないですか?」
カウンターの受付嬢にそう言われ、やっぱり冒険者ギルド以外でも有名なんだな。まぁあんな派手に凱旋パレードをやれば当たり前か。
それに周りの人がこちらを見て話してる。冒険者ギルドよりかは静かなようで助かる。冒険者は喧嘩早いヤツが結構いるからな。それはそれでしょうがない気がする。
「はい、勇者カズトです。俺…………私はそんなに有名なんですか?」
俳優や芸能人じゃないと"自分は有名なんだ"と自意識過剰になれないとカズトは思っている。
「それはもう、ファンなんです。サインお願いします」
紙は貴重なのに色紙あるんだ。まぁ欲しいっていうなら良いけどね。サービス精神は大事だ、飲食店にも云えるとカズトは思う訳だ。
サラサラっと渡された色紙にサイン風に自分の名前を書く。あくまでサイン風でだ。だって、サインは今回初めて書くし、適当とは言わないが汚くても文句は言われないだろう。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。家宝にいたします。それで、勇者様はどんなご用なのでしょうか」
うん、感動しすぎて忘れたのかね。普通は文句を言われても仕方がない場面だが、俺は勇者だ。そんな事で怒ったりしない。まぁここで文句言ったらレストランに影響を与えかねないからな。
「商人ギルドに登録をお願いしたいのだが」
「こちらの用紙にご記入をお願い致します」
「これでよろしいかな」
「はい、大丈夫です(夢のようだわ。今、勇者様と話してるなんて)」
ギルドカードを渡され、一つ目の用事はこれで済んだな。もう一つの用事も済ませてしまおうかな。
「ギルド長はいるかな?商談の話があるのだが」
「は、はい!今呼んで来ますので、少々お待ちを」
受付嬢が奥の方に急いで駆けて行った。そんなに急がなくても良いのに。
「これはこれは勇者様ではありませんか!してここには何の用事で?」
うん?受付嬢に聞いてないのか?まぁいい。
「商談をしにきたのだ」
「はぁ勇者様が、お目にかかる物はないと思いますが…………こちらへどうぞ」
ギルド長の後を追いかけ案内されたのは執務室だ。椅子じゃなくソファーだし、テーブルも木材ではなく金属で豪華な内装である。
カズトも旅の間、たまに貴族の会食に呼ばれる事もあり、その感じに似ている。
「さぁお座り下さい」
ソファーに座るが、座り心地が思った以上に悪すぎる。これは素材が悪いし、これは綿や羽毛は入ってないな。硬くて尻が痛くなってしまう。
「それでご商談というお話でしたが、どのような商品をお求めですかな?」
「なに、大した物ではないから安心したらいい。まずは小麦粉を100キロをお願いする」
「小麦粉ですか?」
「あぁそうだ。冒険者は続けるが、店を持ちたくてな。それも飲食店だ」
「おぉそれなら確かに小麦粉は必要ですな」
小麦粉は多くの料理に欠かせない万能に近い食材なのである。しかもアグドでは、どの植物系の食材は美味しい物ばかりで地球よりも美味しいとカズトは断言する。
その代わりとして海鮮と動物系はダメダメである。
海鮮は海か川の近くでないと鮮度がみるみる落ちて食べられた物では無くなってしまう。
動物系は例えば牛は牛乳を生産出来なくなったのを肉にする。それによって捌かれ痩せた牛肉は美味しいだろうか。
否、美味しいはずがない。鶏も同様である。豚だけは成長したら直ぐに解体するので肉には影響はないがな。
まぁ滅多に出回らないが冒険者が討伐したオークやドラゴン等の魔物という手もあるにはあるが美味しい。ただし、喰える魔物は、大抵高レベルになってしまうのだ。
その結果、商人ギルドに頼むのは植物系の食材のみである。
小麦粉の他にジャガイモ、ニンジン、大根をチョイスして各100キロを頼んだ。量が量なので直ぐには無理らしく、三日後に各10キロは届くようにと手続きをした。
「それとこれを売りたい」
カズトが取り出したのは、白い粉が入った小瓶だ。それを十個テーブルへ並べる。
「これは?…………!少々お待ち下さい。おい、鑑定士を今直ぐに呼べ!」
ギルド長は見習いを怒鳴り鑑定士を呼びつけ、カズトが持ち込んだ品を鑑定する。その結果、とある希少品である事が分かる。
「これは売れるのか?売れないのか?」
「いえいえ、とんでもありません。売れますが、可能であるなら出所を聞いても?」
「それは企業秘密だ。ここに定期的に卸すから、俺が売ってる事は秘密にしてくれ」
ギルド長は即座に頭を回転し、これからも勇者カズトと友好な関係を築いた方が将来安泰で稼げると結論を出した。
「えぇ、もちろんですとも。カズト様、我がギルドをご贔屓にお願い致します」
ギルド長とガシッと握手をし自分の店城に帰るのであった。
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