1食目、プロローグ

「グハハハハハ、勇者ご一行よ。長旅ご苦労なこった、わざわざ死ぬために、ここまでやってきたのだからな」


 こちらを見下し豪快に笑うのは何を隠そう世界中を混沌の渦に巻き込む根源、魔王なのである。様々な魔族や通称魔物と呼ばれしモンスターを使役する親玉が魔王であり、世界最強の生物とまで言われている。

 その魔王に挑むのは、禁呪の魔法として封印されていた【異世界転生魔法】によって、この異世界アグドに転生された勇者"スメラギ和人カズト"だ。愛称でカズトと呼ばれている。

 人類最後の希望として勇者カズトを率いる五人の勇者パーティーが魔王を倒すため旅に出て早五年、ようやく魔王が住まうと言われる魔王城に着く事が出来たのだ。


「なぁ、これが魔王なのか?ただの木偶の坊にしか見えないんだがどうなんだ?レイラ」

「えぇ、カズト間違いありませんよ。確かに木偶の坊ですが、これでも魔王なんですから油断禁物ですよ」

「わははははは、簡単な話これを倒せば済むんだろう。早く倒そうぜ」

「お前の方がうるさいですよ、ゴン。あれでも魔王なんですよ?でもまぁ早く倒そうっていうのは同感です。早く帰って風呂に入りたいです」

「…………カズトなら楽勝、魔王なんて死ね」


 魔王を目の前にして怯むどころか罵倒との嵐というか眼中に無いような感じです。そんな勇者パーティーの様子に魔王の逆鱗に触れたのかワナワナと震えている。


「お、お前らいい加減にしろよ。今直ぐにでも、こ、殺してやるからな」


 怒ってるよりは、目頭から涙が溢れ出てるような風に見える。勇者和人達はそんな魔王を見るやいなや呆然と立ち尽くし、そして「「「「「ぷっくくくくく、わははははは」」」」」と何処か笑いのツボに入ったのか笑い出した。

 この世界には娯楽が少なく、カズトが少しでも旅を楽しくしようと休憩中の時間帯の合間を見て日本の〝お笑い〟を徹底的に叩き込んだ結果、スキル【笑いのツボ】というヘンテコなスキルを五人共に取得してしまった。


「ぐぬぬぬ、笑うでない」


 そう言われても可笑しくて笑ってしまうのはしょうがない。技術スキルのせいかもしれないが笑ってしまう。


「だってな、世界最強と言われる魔王が泣くなんてな」

「これが笑うなんて言う方が無理ですよ」

「確かにな、これじゃ拍子抜けだぜ。ぷっくくく」

「同感です。これならまだ魔物の方がマシです」

「…………ふわぁ、眠い」

「こうなったら、全員跡形もなく消し飛べ!究極魔法【黒い殲滅魔法ブラック・ノヴァ】」


 魔王の掌から黒い埃みたいのが地面に落ちた瞬間、目の前に居た勇者一行は黒い爆発に飲み込まれ、魔王後方以外の魔王城は跡形もなく消し飛んだ。


 ピカッ…………ドッゴオオオォォォォン


「うぅむ、やり過ぎたか。我のお城に風穴を開けてしまったわい」


 見事に八割程壁が崩れ勇・者・達・は消し飛んだ風に見えた。


「魔王よ、何処を見てんだ?」

「全くよ、私達に気づかないなんて。まぁこの威力は賞賛に値するわね」

「俺達が強すぎるんじゃねぇ?」

「それも同感です。もうこのまま倒しても構わないのでは?」


 土埃が止むと勇者達全員が何もなかった風に立っている。埃は兎も角、傷一つもついてない。


「ねぇ、もうお家帰って良い?」


 ミミが眠そうに瞼を擦りそう訪ねる。だが、ミミの専用杖・天命の杖の先に付いてる宝玉に今直ぐにでも暴発しそうな黒いエネルギーが貯まっている。『それ危ないから絶対に落とすなよ』とカズトは不安げにドキドキしてる。


「「「「それはダメ」」」」

「ですよねぇ、はぁ疲れた」


 いつもの事なのか?と息がピッタリなツッコミを見せる。魔王の魔法を防いだのは、怠惰そうでたまに毒舌を吐く女魔法使いであるミミが、聖なるバリア【全反射する障壁リフレクション】を瞬時に張ったからである。杖に貯まってる黒いエネルギーはそれである。


「面倒くさいから、もう跳ね返して良い?ふわぁ」

「あぁ良いぞ。自分の技でもくらいやがれ」

「もう、カズトったら自分でやった訳でもないですのに…………でも、そういうとこも素敵です」


 レイラがうっとりとした表情で瞳をハートにしねっとりとカズトを見詰めながらそう呟く。


「ガッハッハッハ、ミミが守ってくれなきゃ危なかったがの」

「あれくらいは防げたんじゃありません?ゴン」

「俺を何だと思ってるのだ!俺でもあれを喰らえばただじゃ済まんじゃろう」

「それでも死なないのよね」


 ドロシーの言う通りゴンは見た目に反してゴツい顔をしていながら、とんでもない回復能力を有してるようで手足を千切れても、植物のように生えて再生する。

 重症具合によって治る時間が遅くなる場合があり、少しの間リタイアする時もある。


「ほ、誉めても何も出んぞ」


(((誉めてない誉めてない)))


「もうしんどいから、返す。ほい、【黒い殲滅魔法ブラック・ノヴァ】」


 ピカッ…………ドッゴオオオォォォォン


 全く同じ魔力と威力でそのまま時間差で跳ね返したのである。攻撃魔法も使用出来るが、得意魔法の一つが防御魔法全般だと本人が証言してる。証言してる通りに防御魔法でミミの右に出る者など存在しない程なのだ。つまり、魔王でもミミの魔法は敗れないのに等しい。


「ぎゃああぁぁぁぁ、何故俺様の魔法を━━━━」


 ミミが跳ね返した魔法で魔王とその後方に残ってた魔王城の壁も消し飛び、まるで見晴らしの良い屋外庭園?みたくなっていた。


「おぉこれはこれは絶景かな」

「何か魔王って言うからもっと骨のあるヤツだと思っていたのだけれど、全然弱かったわね」

「あっ!俺ほとんど戦ってねぇぞ」

「同感です。ミミしか戦ってません」

「なら、カーズートおんぶ」


 カズトの背中にミミが寄り掛かってきた。仕方ないとおんぶした途端にミミは「スゥスゥ」と寝息を数秒の速さで寝てしまった。


「相変わらず早いな」

「今回の功労者はミミなので、譲ってあげます」

「王都に帰ろうぜ。きっと俺達の帰りを首を長くして待ってるからな」

「同感です。たんまりと報酬をせしめてやるのです」

「そうだな。うん?空から何か降ってくるぞ」


 キラーンひゅーーーーん、ズボっと何かが降って地面に突き刺さった。落ちてきたのは、魔王の左右に生えていた角の片方らしい。魔王に限らず、魔族という種族は必ず頭の左右に一対存在するのだ。その角が折られたり、片方でも失うと死んでしまう。つまりは魔族の急所であり魔王が死んだ証になるのである。


「これは…………魔王の角だな。持って帰るか」


 カズトは【鑑定】によって間違いなく魔王の角だと確認するとアイテム収納技術スキルである【アイテムボックス】に仕舞った。


「さてと、本当に帰るか…………うん?」

「賛成♪」

「グワッハッハッハ、久々のエールでも飲むか」

「それにも同感です。早く帰るのです」

「スゥスゥ」


 カズトが何か…………見た事のない宝石みたいな石?を拾った。これをミミは寝てるから、もう一人の女魔法使いであるドロシーに聞いた。宝石類は宝石商か魔法使いが一番詳しく知ってる事は相場が決まっている。




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