第84話 昼食を忘れた場合
まえがき
更新が遅れて申し訳ありません。
最低でも月に一度は更新できるよう、頑張ってまいります。今後ともよろしくお願いいたします。
正午。
普段の高校生活では切り良く正午に昼食を迎えるというケースは珍しい。
すべての学校に当てはまるわけではないだろうが、俺が通っていた高校では12時40分という少しばかりキリの悪い時間帯が昼食休憩であった。
だがしかし、体育祭等の行事の日限定で切りの良い時間帯に昼食を迎えるケースがあった。この学園が普段どうなのかはわからないが。
というわけで、昼食休憩タイム。
おそらく、高級食材をふんだんに使ったお弁当やら高級店からお取り寄せのお弁当が視界に入ってくる。
それらは俺たちに提供されるということはないので、どういったものなのか少しばかり気になるが、さっと視線を逸らす。
そういったなかで、俺とお姉さんは見慣れたロゴが入った弁当容器を取り出す。
コンビニ弁当である。
生憎、レンジが使用できないので少し冷めたままである。
冷めた弁当を食べるのは高校生ぶりだ。たまに冷めたご飯やらおかずを食べると意外と美味しく感じる。
冷や飯にお茶漬けやらカレーをかけるとベストマッチだったり。
そんなわけで意外と冷めたコンビニ弁当も嫌いではない。
お姉さんが冷めたコンビニ弁当か好きかどうかは不明だったが、箸を割り気にせず食べだそうとしていたので特に問題なさそうだ。
「弁当の格差が激しいですね」
周りの弁当(弁当といっていいのかわからないレベルのものもあるのだが)と比較して思っていたことを口に出す。
「たしかに。でも味は負けてないはず。そもそも周りと比べる必要なんてないよ。身の丈にあったものをいつもは食べて、たまにお高いものを食べる生活の方がワクワクするんじゃない?」
たしかに。普段はカップアイスを食べて、特別な日にハーゲン〇ッツを買って食べる日なんて高揚感を憶えるものだ。まあ俺はレディー○ーデンを食べるが。
それにである。
最近のコンビニ弁当は美味しい。
そういうと、高級食材を使って一流シェフが作った料理を食べたことがある人たちからは俺たちの考え方、味覚に対して疑問を抱くかもしれない。
だが、俺みたいな一般人はそれでいい。
それに、かつてはお高いものを食べていたお姉さんがコンビニ弁当を当然のように食べているのだから、周りの保護者たちも意外とハマるかもしれない。
可憐さんだってコンビニのおにぎりを美味しく召し上がってるわけだし。
と、脳内でひとまず変な思考の整理がついた。友だちが多くないゆえに、時間潰しに最適だと気付いてから習慣化しているのだ。
大学でも試験に関係ない部分を教授が話す時に、くだらないことをテーマに自己完結させたりするものである。
今回はお姉さんがいたため1人で考え込んでいたわけではなかったが。
「ねぇ、私のチキン南蛮とその唐揚げ交換しよう」
「言う前に取ってましたよね」
お姉さんは既に口の中に唐揚げをポイッと放り投げ喉元を過ぎ去っていた。
まあ、対等なトレードだから文句はないのだが。揚げ物の下のスパゲティと交換だったら間違いなく破談されていただろう。
食べ始めて数分が経過した頃だった。
数時間ぶりに見かけた可憐さんが、俺たちと目が合うとゆっくり近づいてきた。
「えっと…お弁当を忘れてきまして…朝からコンビニに寄ろうと思ってたんですけど、亮さんがいないので寄るのをやめてしまって」
つまり、昼食がないということである。
崩していた足を戻して立ち上がる。
「今から買ってくるからちょっと待ってて」
「え、でも…」
「お腹空いてるでしょ?俺もお姉さんも結構食べちゃってるから、分けようにも難しいから」
昼食がない状態で俺たちのもとにやってきた理由は、何か分けてもらうためくらいに限られる。
可憐さんの性格だからクラスメイトに分けてもらうのは気が引けたか、保護者と一緒に食事をとる生徒も多いみたいだからそれも理由か。
そもそも、生徒が途中で学校の外に出ていいのかわからないので、
そんな中で俺に声をかけてくれたのは嬉しかった。
親友という存在意義を実感できたからだろう。
しかし、それでも申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、口を開き何か言おうとしてやめての繰り返しを可憐さんは数度行ってた。
「亮くん、炭酸飲料を買ってきてくれると嬉しいな」
お姉さんの発言から数秒。可憐さんが落ち着きを取り戻した様子で口を開いた。
「ありがとう…。亮さん、申し訳ないんですけども何か買ってきていただけますか?」
「うん。おにぎりにする?それとも初のお弁当?」
「う~ん…お弁当をお願いしてもよろしいでしょうか」
「わかった。急いで買ってくるから待っててね」
「急ぐ必要はないですよ?!ゆっくり事故に遭わないようにお願いします」
というわけで、最寄りのコンビニへ小走りで。
最寄りのコンビニ=バイト先に足を踏み入れ、買い物を済ませる。
パートの従業員と軽く言葉を交わしつつ会計を済ませた。
「…癖で買ってしまった」
買い物袋の中には、お弁当とコロッケが。
おにぎりを手に取ろうとしてやめたまではよかったのだが、会話のついでに流れるようにコロッケを注文していた。
そして気づいた時には会計を済ませていた。
可憐さんの買い物に対しておにぎりとコロッケというイメージは、フライヤー什器にこびりついたしつこい油汚れに負けないくらい染みついているんだなと。
「恥ずかしながらお腹がものすごく空いていたので…差し支えなければ全部いただきたいのですが…」
「うん、どうぞ」
そういうと可憐さんは普段通り行儀良く食べ始めたが、普段よりも箸の動きが少し早い気がした。たしかに、頑張ってたしな。それに、炎天下の中外にいるだけでもカロリーは消費するだろう。
誤ってではあったが買っておいてよかったなと思う。
早歩きと小走りを挟みながら学校まで戻ってきたので、折角コンビニの冷気で冷えた身体だったが服に汗が染みていた。
「お姉さんもどうぞ」
そう言って買った炭酸飲料を差し出す。
「あ、買ってきてくれたんだ」
「お姉さんだから本当に飲みたいのかなと」
「ちょっと私のイメージについて問いただしたいところだけど…飲みたくないわけじゃないし、ありがとう」
お姉さんは軽く息を吐き出しながら首をカクンと落としていた。
本当に飲みたいのかもしれないと思ったので買ったまでで…。
決して、お姉さんが飲料を飲みたいという欲望のためだけに、俺をパシッたなんて思ってはないことを手を振ってアピールする。
「一応、あまり揺らさないように気をつけたので中身が思い切り飛び出すことはないと思いますけど」
「あ、気遣わせちゃったね。それならお茶とかにしておけばよかったか…でも自販機にあるだろうしな…」
「2リットルの水やお茶でよかったんじゃないですかね。ちょっと重いですけど」
「それでよかったね。私たちで分け合って飲めばいいし」
キャップを開けたら軽く中身が飛び出してきた。溢れた先が幸いにも俺の服でよかった。
ちらっと可憐さんを見たら食事に夢中だったが、俺の服についた甘い匂いに反応したのかこちらに視線が向いた。
小動物みたいで面白くて俺とお姉さんが軽く笑い声を漏らした。
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