第71話 キャンプ当日

「おはようございまーす」


「おはよう。ぐっすり眠れた?」


「なんですか、この前の遅刻を弄ってるんですか?」


ぶすーっとほっぺを膨らませ、抗議の意を示された。


「そういうわけじゃなかったんだけど…ほら、奏を見てよ」


そう言って隣にいる奏に視線を向けさせる。


「眠そうですね」


「寝る気はあったけど、宿題が終わらないから寝れなかった姿だ」


「うわぁ…しんどいやつだ」


こちらの会話に気づいた、眠たそうに奏も加わってきた。


「私もまさか、寝る直前にやり残していた自由研究に気づくとは思わなかったです…」


普通科目の宿題は全部終わらせるのに、自由研究とか作文って後回しにしがちだよな。

今回は直前で気づいたからよかったが。



「ところで、可憐ちゃんと夏織さんは?」


「お姉さんが可憐さんを乗せてからウチに来るって」


「そうなんですか〜。え、乗せるって、夏織さん車持ってたんですか。てっきり、電車やバスで行くのかなぁと」


「それだと結構時間かかるみたいだったから。あ、来たみたい」


話をしているとあっという間にお姉さん達が到着。


「おはよ〜。待たせちゃったかな?」


「いや、全く待ってないですよ」


「それならよかった。よし、じゃあ乗って乗って〜」


そう言われてから、三人とも一斉に車に乗り込もうとする。


後部座席に可憐さんが座っていることに気づく。

目があって、軽く手を振られる。

後部座席にいこう、そう思ったときだった。


「亮くんは、助手席だよ?」


「は、はい」


既に座席は指定されていたらしい。

後部座席にも既に奏と碧さんが可憐さんを挟むように座っていたので、残りは助手席しかなかった。


「私の隣は嫌だった…?」


「全くそんなことはないです」


「じゃあ、早く座ってね」


助手席って緊張するんだよなぁ。

そもそも人の車に乗ること自体少ないが、どことなく落ち着かない。運転席と助手席って肩がくっつくような至近距離じゃないのに何で緊張するのだろうか。


「一応地図渡しておくね。何かあったら教えてね」


「わかりました」


渡された地図を手に取り、軽く目を通す。

一応昨夜ルートは確認したので問題ないと思うが、万が一に備えておく。







「それにしても皆楽しそうだね」


「ですね。思いつきで提案した身ですけど、こんな風に楽しそうな姿を見ると嬉しくなります」


ミラー越しに見える後部座席に座る三人を見た、俺とお姉さんとの会話。


「可憐のあんなに楽しそうな顔見るのも久々だよ」


「そうなんですか?可憐さん、いつもあんな感じですけど…」


「ふーん…亮くんに相当懐いてるんだろうね。可憐ってなんだかんだ人見知りするタイプだし、少し線引きしちゃうような子だからさ、改めて今みたいに仲良さそうに笑う顔が見れてよかったよ。改めて可憐のことよろしくね」


「お姉さんってほんと妹想いですよね」


「亮くんもそうでしょ?」


「たしかに」


お互い目線こそ合わせないものの、軽く笑いながら話を続けていたところ、


「お姉ちゃん、何の話してるの?」


シートベルトをなかなか伸ばした状態で身を乗り出そうというくらいの可憐さんが後ろから声をかけてきた。


「秘密〜」


「えぇ?!」


教えてあげればいいのにと思ったが、お姉さんは笑って可憐さんを受け流していた。


「亮さん、何を話されていたんですか?」


となると、質問する対象は俺になるわけだったが


「可憐さんのことかな。それだけだよ」


そう答えると、お姉さんに再度尋ねていた。


「お姉ちゃん、変なこと言ってないよね?」


「え〜?…子どもの時サンタさんに会いたくて、大きな靴下の中に入り込んでたこととか?」


「その話してたの?!」


なんだそれ。幼少期の可憐さんなかなか可愛いな。でも、自分もサンタの顔が見たくて頑張って布団を被って寝たふりしてたっけ…。

奏はぐっすり寝てたけど。


「今の話はしてなかったんだけどね」


「なんでいったの?言う必要なかったよね?!」


そう言うとあわてた様子の可憐さんが前へ詰めようとしたところシートベルトの反動によって、ぽふんと座席に押し戻された。


「今の話ほんと?子どもの頃の可憐ちゃんも可愛いかったんだね!」


それに乗っかったのは奏だった。


「うんうん、可愛いよ可憐ちゃん!」


奏と碧さんのよいしょによって恥ずかしそうに顔を赤くする可憐さんが出来上がっていた。なかなか微笑ましい光景だ。俺も入りたいところだが、助手席と後部座席ではなかなか厳しいのだ。


「いやぁ、恥ずかしがる可憐も可愛いなぁ」


「お姉さん、顔がかなりニヤけてますよ」


本当に可憐さんのこと好きだよなお姉さんは。お姉さんもこちらをチラ見したようで一瞬目が合って、軽く笑われた。何か顔についてただろうか。



ミラーに映る俺とお姉さんを抜きにして楽しく盛り上がっていた三人を見てからサイドミラーに目線を送る。

そしてサイドミラーに映る俺の顔は気持ち悪く口角が上がっていた。ニヤけるほど俺もこの空間を楽しんでいるのだとわからされてしまった。





あとがき

投稿設定を忘れておりました。

申し訳ありません。

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