第72話 日帰りキャンプ開始

まえがき

メリークリスマスです。

クリスマスの日にもこの作品を読んでくださっている方に感謝の言葉を申し上げます。

本当にありがとうございます。

年末年始、何卒忙しい時期かと思われますが、この作品を読んで少しでも心休まる方がいらっしゃれば幸いです。






「お、意外と人少ないね」


「まあ子どもたちにとっては夏休み最終日だし、家で過ごす家庭が多いんだろうな」


先に車から降りてキャンプ場周辺を眺める俺と奏。

そしてその後すぐに降りたお姉さんに声をかけられる。


「とりあえず受付済ませちゃおうか…。亮くん、着いてきて」


「あ、はい」


女の子三人を置いて離れるのは少し心配だが、キャンプ場なわけだし大丈夫だろう。それにすぐ戻ってくるし。

…ちなみにこれはフラグではない。






「いやぁ、完全に恋人だと思われたねアレは」


「姉弟だと思うんですけど」


「いや、あの受付の女の人の嫉妬するような目は恋人を見る目だよ」


「シンプルに目つきが悪かったんじゃ」


そんなくだらない話をしながら、奏たちのもとへ戻る。


「それじゃあキャンプ場行こうか。あっちだって〜」


先頭を歩き誘導するお姉さんに着いて行く奏たちから、数メートル離れて最後尾につけて歩く。


後ろ姿だけでも、皆が楽しそうなのが伝わってくる。

だからこそ、はしゃいで怪我しないように、人様に迷惑をかけないように、ちゃんと見ておかないとな。

その筆頭株が奏なわけだが。



まずはレンタルしてきた道具を準備する。

そして、準備が終われば作業に取り掛かる。




「お米を炊きます!それでどうやるのお兄ちゃん?」


「借りた飯盒を使うんだよ。使い方わかる?」


「わかんない」


「じゃあ一緒にやるか」


兄妹で一緒にお米を炊くことなんて珍しい機会だなと。そもそも奏は料理しないから、今日が初めての共同作業である。

共同作業といっても、シンプルな作業なので難しさはないのだが。



「お兄ちゃん、お米が溢れる!」


「水を弱めるんだよ」


「お兄ちゃん、お米が溢れる!」


「強く研ぎすぎだよ」


「お兄ちゃん、研ぐの楽しい!」


「やり過ぎると味が落ちるからその辺でストップ」


何でお米を炊くのに、こんな指摘するタイミングが多いのだろうか。

まあ奏が楽しそうだから全然いいのだが。



「亮さん、この後ってどうすれば?」


「普段通り水を入れて、数十分待ってから火に当てればいいと思う」


可憐さんは奏と違って手がかからないな。

…数ヶ月前まではなかなか手がかかっていたことを思い出し、物寂しく思う。


楽しそうに飯盒を見つめる可憐さんの姿を見て、例の人物からの言葉を思い出した。


「可憐さん、写真撮ってもいい?」


「え、はい。いいですよ…?」


こちらを見て軽くピースサインを作ってくれた可憐さんを写真に収める。

これで東雲さんも満足だろう。別に写真を見せるだけだから大丈夫なはず。



「あの、私も写真撮っていいですか?」


「え?あ、うん」


可憐さんからそんなことを言われるなんて全く思っていなかったため、肯定の言葉がすぐに出てこなかった。


「撮れました。…ど、どうしましょう。亮さんに送ったほうがいいですか?」


「俺に送る必要はないけど…スマホの容量の邪魔になるなら消していいよ?」


「大丈夫です。まだ容量はたくさんありますから。あっ、ホーム画面に設定しておきます」


名案を思いついたというようにスマホを素早く操作し出した可憐さん。


「それは恥ずかしいからやめて」


人のスマホのホーム画面に自分がいるなんて、恥ずかしいよな。そんなの、恋人や家族みたいだな。ちなみに、俺のホーム画面はこの前三人で撮った写真のままだ。この写真を変える気にはならないし、これよりもいい写真もないからな。

可憐さんもまだこの写真を設定しているのだろうか。



「ロック画面とホーム画面どちらにも亮さんがいますよ」


そう言って見せてもらった画面は、俺と同じホーム画面と、たった今撮った俺の写真だった。それを見て自然と笑みが溢れた。



「あ、キノコとか入れますか?炊き込みご飯にしてみようかなと」


「すごいな、可憐さんの料理スキルの成長が著しい…」


「そんなことないですよ。亮さん、その切るのお願いしていいですか?」


俺はてっきり普通にお米を炊くだけかと思っていたが、もしたから既に可憐さんは俺よりも料理スキルもアイデアも上になっているのかもしれない。



そんなわけで、あとは水がお米に吸収されるまでしばらく待つことになるのだが、なかなか手持ち無沙汰になってしまった。


「ね、釣りやってみない?あっちに、釣り堀があるみたいで」


そんな俺に気づいたのか、もとから手持ち無沙汰だったお姉さんが俺の腕を手に取る。


「はい、いいですよ。ごめん、可憐さん。奏のことよろしく」


お姉さんに引っ張られるように釣り堀の方へ足が動く。

俺と同じように、手持ち無沙汰だった碧さんも引っ張られていたようだった。





「誰が多く釣り上げるか勝負しよう。制限時間は20分ね」


「「わかりました」」


海や川で勝負するならば、全然釣れないという結果もあるだろうが、釣り堀なのだから流石に一匹くらいは釣れるだろう、そう軽く考えていた。



「先輩、何で釣れてないんですか?」


「俺が聞きたい。逆に何で釣れるの?」


お姉さん三匹、碧さん二匹、俺ゼロ匹。

開始15分での結果だ。


左右にいるお姉さんと碧さんの餌につられて、俺の所に魚が来ないのかと思ったが、対面にいる家族は真ん中に挟まれた息子さんが釣り上げているし。




「私の勝ちだね。うーん…じゃあ亮くんには今日一日私の手足になってもらおうかな?」


にっこり笑ってそんな発言されると、恐怖よりも見惚れてしまうのは仕方ないよな。


無事勝負に負けた俺は、今日一日お姉さんの手となり足となることが決定したようだ。






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