第69話 コンビニにスノードームは売ってない


「お水でよかったですよね?」


「あ、ありがとう」


それほど広くない部屋に二人。

どことなく緊張してしまうが、水を飲んで少しの落ち着きを取り戻す。



「先輩」


「うん?」


顔を向けた瞬間、パシャっとスマホから音が聞こえてきた。


「緊張してます?ほら、普段より顔がかたいです」


腕を伸ばしてこちらに今写った写真を見せてくれた。


「…そうかも。それより、その写真消しといてね」


めちゃくちゃアホ面な自分がそこにいた。

もう少しキリッとした顔であってほしかった。



「それじゃあ作りますか」


「そうだな」


中に入っているものを取り出し、早速取りかかる。

スノードームなんて作ったことないから、説明書を見ながら進めていこうとする。

その矢先に碧さんが口を開いた。


「なんか、私なりの個性というか、独創性をだしたいですよね」


「初心者がいきなりそんなこと言って大丈夫なの?」


料理ならば、なかなか悲惨な結果を招くものだが。スノードームはどうなのだろうか。


「大丈夫です。いじるのはモチーフだけですから」


「あぁ、これのこと」


たしかに、自分だけのスノードームを作るという点においては、モチーフは重要であろう。かといって、何を利用すればいいかは分からないのだが。


「うーん…昨日の廃棄のおにぎりでもいれます?コンビニ店員っぽいですよね」


「腐るだろ…それ」


綺麗なスノードームの反対側にいるような、いずれカビが発生しそうなスノードームなんて絶対嫌だな。

あと、今日中に食べておかないとお腹壊すから気をつけてと口添えしておく。


「じゃあ、商品バーコードとか?」


「お洒落さが一切感じられないと思うけど…ある意味お洒落なのかもしれないけど」


一旦コンビニから離れよう。きっと、最近出勤が多かった俺たちの脳内はコンビニに侵食されているのだろう。



「うーん…この写真にしよう…」


「俺は…もうこのままでいいや」


碧さんは、机の中にしまっていたのであろう写真を取り出してそれを使うようだ。

一方の俺は、残念ながら利用できそうなものがなかったため既存のモノだけで作成することに。




「あ、そういえば…ウチに、ついに、新しいアルバイトが入るみたいですよ?」


「まじで?それなら、ちょっとはシフト減りそうだな」


ウチのコンビニにもついに人が。

学生なのだろうか、それとも主婦なのだろうか。どうやら碧さんもそこまでは知らなかったようで、いずれ会うことになるであろうと、ひとまずその人のことは忘れることに。


「私としては、先輩とのシフトが奪われなければそれでいいですけど」


「俺に面倒なお客さん任せるのができなくなるから?」


未だに碧さんに絡むお客さんもいるからなぁ。流石に脈ナシだと気づくはずなのにあそこまで鈍感だと逆にすごいよなぁ…。

あと、最近のイメチェンによってなおさら新規の絡むお客さんも現れる始末で…。


「まぁ、それもありますね」


「他にもあるの?」


「はい。まぁそれは内緒ですけどね」


秘密にされると気になってしまうが、無理やり聞き出そうという気にはならないのでとりあえず流すことに。


「ラメとかスパンコールってやっぱり綺麗ですよね〜」


「そうだなぁ…。そういえば碧さんってネイルとかしてないよね?」


何となく指に目がいってしまった。そんな俺の口からそんな声がでていた。

ネイルでラメがついてるのもあるから、俺の思考はそれと結びついたのだろう。


「急ですね。手入れはしてますけど…してないですよ。した方がいいですか?」


「いや、わからない」


「え、なんでですか、ウケますね」


ネイルに関する知識もないからな。碧さんがしたければする、したくなければしないでいいと思うが。


「先輩、できました?」


「うーん…もうちょいかな」


「こだわってますね…」


もう少しラメ達がゆっくり落ちてきてほしいと思い、水とのりの量を調節していた。

意外と真剣に作ることになっていたが楽しいなこれ。




「先輩がそんなにハマるとは思いませんでした。こういうの、また作ってみますか?」


「そうだな。今度買って作ってみるよ」


休日に家で一人寂しくやるのもいいかもしれない。とくに趣味もない俺にはちょうどよさそうだ。


「一緒にですよ?一人で黙々とやるのは寂しいじゃないですか」


休日に一人寂しくやるよりは絶対そっちの方がいいよな。そう言ってもらえると嬉しいが、


「碧さんは友だちとこういうのやったりしないの?」


「こういうの好きな子もいますけど、一緒にやろうとはならないですかね…」


「なんで?」


「なんといいますか、一対一でやるのは気恥しいじゃないですか。それに、共通点がこれだけで一緒にやるのはなかなか大変なんですよ」


「一応、今一対一なんだけど…もしかして、俺って人として数えられてない?」


「数えてますよ!…なんていうか先輩とならこういうのも気恥ずかしくないですし。先輩って何事にも理解あるタイプじゃないですか。だから、私のつまらない話とかも聞いてくれるし、気まずくならないといいますか…」


「ありがとう、ならまた今度作るか。ところで、碧さんが使った写真ってなんだったの?」


自分のに集中していたため、どんなものが出来上がったのか知らないのだ。


「…どうぞ」


出来上がったスノードームを渡された。

早速見てみる。


「なんで俺の写真が…?」


「この前奏ちゃんにもらったので」


「奏…なにしてんだ」


そもそも、いつの間に俺の写真を撮っていたのか。写真に写る俺の様子からも全然気づいてないことがわかる。


「これでいつでも先輩が私を見守ってくれますね…!」


「…」


しばしの静寂があった。


「ちょっと、せめて何か言ってくださいよ?無言が一番辛いんですけど…?」


「そ、そうか。写真は反対側にして飾っておいてくれよ」


せっかく作ったのだから捨てるのももったいないしな。


ただ、俺が辱められることになるのだが。

やっぱり俺の方が碧さんに弄られる立ち位置にいることは変わらないようだった。


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