第68話 コンビニ店員のアパート×2


「このあとはどうしましょう?」


「少し遅いけど何か食べようか。…朝食べてないでしょ?」


「…はい。適当にフードコートで大丈夫ですか?」


「うん」


無事に眼鏡を購入し終えた。

その眼鏡はというと、今俺の耳と鼻にかけられて、レンズを通してなかなか綺麗な景色を見させてくれていた。



「ラーメンにしますか」


そう言って、フードコートに構えるラーメン店に体を向けていた。


「珍しい、もっとお洒落なパンケーキとかクレープとかでもいいんだけど」


この場から少し離れた場所にある、女性が集まっている方向を指差す。


「今はラーメンの気分ですから。それに、先輩はそっちの方がよくないですか?」


「まぁそうかも。別にパンケーキとかが嫌なわけでもないが」


たまには甘いものを食べたくなるし、美味しいし嫌いではない。

それに、一人で行くのはハードルが高いが今回は碧さんがいるわけだし。


「最近ラーメンにハマってて、この前奏ちゃんに連れていってもらったんですよ」


「あ、あの日奏が家にいないなと思ったらそうだったのか。悪いな奏に付き合ってもらって」


「いえいえ、私のほうこそ楽しかったですし」


そうか。もしかしたら、気づけば俺よりも奏のほうが碧さんと遊びに行くことが多くなるかもな。まあ同性のほうが気楽だろうし、奏と碧さんが仲良くしてくれるのは望ましいことだし。



「ふふっ眼鏡曇ってますよ〜」


「眼鏡ってこれが嫌なんだよね。ほら、冬場とか寒暖差ですぐ曇るからさ」


「あ〜あるあるですね」


「一旦外していい?」


「許可とかいらないですよ?どうぞどうぞ」


「改めてだけど、ありがとう。フレームも軽いしめちゃくちゃ綺麗に見えるし」


「いえいえ。そうですか?どんな感じなんですか?」


「顔がめちゃくちゃはっきり見えるとか…?」


「なっ、それならあんまり私の顔見ないでくださいね。毛穴とか見えたら恥ずかしいので」


そういって、慌てて近づけていた顔を離して真横を向いた。

なんだろうな、前はこっちが弄られる立ち位置だったせいか反撃したくなる気持ちもあるわけで。


「大丈夫、もう見たから」


口からでまかせが簡単にでてきた。


「…忘れてください!」


「嘘なんだけどね」


「…先輩。意地悪になりましたね」


ぶすっと口が、封を切らずに温めたパンのように膨れ上がっていた。


「気を許した相手にはこういう嘘もいいかなと」


「…それは嬉しいんですけど、ついていい嘘とついてはいけない嘘があるんですよ」


「たしかに、今後気をつけるよ」


肌とかデリケートな部分の嘘は気にするだろうし、嘘でもよくなかったかもな。

だが、本当は白くて毛穴なんて見えない綺麗な肌だった…ということを伝えるのは女誑しのイケメンにしか許されない発言であり、俺には無理だった。



「先輩って麺の硬さとか気にします?」


「いや普通かな。あ、碧さんはバリカタがいいとか?」


「私は普通がいいです。硬麺のどこがいいのか私には分からないですね」


ずるずると麺をすすりながら麺の硬さ議論を行っていた。


「でも、あんまり硬さをどうするかなんて聞かれないですよね。普通の麺で提供されますし」


「たしかに」


たまに聞かれる店舗もあったが、大抵はそうだなと。あと、九州だと硬麺が好まれるのかというのは偏見だったみたいだ。







「お腹も満たされましたけど、先輩はこの後予定ありますか?」


「ないよ」


「では、ウチに来てくれませんか?」


「え、あぁ…」


どうしたものか。この前は奏がいたからよかったものの今回は二人きりなわけだし。

ワンテンポ間を置いて答える。


「大丈夫だよ」


出した答えは肯定。誕生日会のときに簡単に頷いたことを思い出した。それに、プレゼントを受け取ったわけだし、これくらいの頼みなら聞くべきだろう。



「ありがとうございます。それじゃあ帰りましょうか」


「他にどこか見たい店とかなかった?せっかくだから見て回っていいけど」


「…それなら少しだけ…」


そう言って見たかったのであろう店舗へ向かって歩き出す。




「…こういうインテリアって邪魔になるけど欲しくなりますよね」


「わかる。安いし買いたくなるよな」


安いインテリアショップを訪れていた。

部屋にインテリアを飾っても、誰かに見てもらうわけじゃないから自己満足に過ぎないが、それでも欲しくなる気はあるのだ。


「見てください。季節外れのスノードームがありますよ」


「真夏なのに珍しい」


まぁオーストラリアとか南半球ならば今は冬だし、日本を基準に考えてはいけないのかもしれない。もっと世界基準で物事を捉えなければいけないのかもしれない。


「こういうの持ってるとお洒落って気がしますよね」


「でもこれは安物だし、あんまりお洒落って気はしないかな」



「…あ、自分で作れるやつもあるみたいですね。500円ですって、これ買いませんか?」


「無駄遣いになりそうだけど…買う?」


修学旅行の木刀とかと同じ匂いがするが。


「この後一緒に作りましょうよ」


「わかった、それなら買うか」


アパートを訪れるにも、何があるのか分からず緊張するよりは、明確にやることが一つでも分かっていたら気も紛れるものだ。それに、意外と作るのは楽しそうだ。




「え、別に自分の分くらい買いますよ。安いですし」


二つ手に取りレジへ向かおうとすると声をかけて制止された。


無事に購入してから、アパートへと向かう。

まだまだ太陽が相変わらず輝いている時間だが、アパートを出る時には落ち着いていてくれるのだろうか。

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