第66話 お嬢様とのファミレス


「ここで大丈夫ですか?」


「入った経験はございませんが…ファミリーレストランという飲食店ですよね?」


「そうです。立ち話もなんですし、ここで話しましょう」


俺の勤務が終わるまで、なかなかどうしてトークが盛り上がってしまった。そして、ずっと俺に可憐さんとのエピソードやらなんやらを尋ねてきたのだ。となると、俺が帰ろうとすることを快く思わなかったのか引き止められた。仕方なく直帰せず、話せる場所に移動することに。


ということで、ファミレスにやってきたのだが。



「シェフはいらっしゃらなくて?」


「シェフっていうか多分バイトが作ってると思うんですが」


「なっ…料理を提供するにも関わらずシェフがいらっしゃらない?…しかも、ドレスコードが必要ないだなんて…面白いお店ですわね」


「そ、そうですか」


やっぱりお嬢様なんだと自覚させられる。

可憐さんで少し感覚が麻痺してたけど、改めてお嬢様と関わると一般人との違いが顕著に現れるよな。というか、初めてコンビニに来た可憐さんも危うく窃盗罪に問われるところだったしな。



「何を頼みます?」


「…美味しそうですわね。何かお勧めの料理はございませんの?」


「これとか定番ですよ」


「ではそれを」


店員さんに注文を伝えてから数分間、お互いに口を閉じたまま沈黙が続く。

俺たち以外のお客さんもいるが、一人での来店客が多くなかなか静かな空気だった。



「どうすれば神宮寺さんと仲良くなれるとお考えになりますか?」


「え?…普通にしていれば仲良くなれると思いますけど」


あれだけ可憐さんのことが好きならば、話しかければ可憐さんならば友人になってくれると思うのだが。


「貴方様と私の普通は違います。それに、気軽に神宮寺さんに対して遊びや食事のお誘いなんてできません」


「多分喜んで誘いを受けると思うんですけど」


はい、いいですよと、二つ返事で応えてくれると思う。俺の脳内には軽く微笑みながら頷く可憐さんの姿が浮かんでいた。



「そもそも、そのようなことを抜けがけで行えば神宮寺さんのファンクラブ会員を辞めなければならなくなります」


「ずっと気になってたけど、ファンクラブって何なんですか」


アイドルのファンクラブみたいなものなのか。会員費とか払うのかな。


「私たちの通う学校では、三年生から二人、二年生から一人、一年生から一人、成績優秀であり容姿端麗な学生が選ばれるのですが、その中の一人が神宮寺さんでして。

その選ばれた四名の方には、我が学園の伝統としてファンクラブが結成されるのです」



「ミスコンみたいな感じ…?」


聞いていて、まぁ可憐さんなら選ばれてもおかしくないかと納得してしまった。


「それに近いものだと捉えられて大丈夫です」


「それって、自分で立候補するんですか?」


ただ、可憐さんが進んでそういったものに出るイメージが湧かなかったので、尋ねてみる。


「いえ、推薦です。成績に関しては、校内に張り出されますので誰が学年首席なのか分かりますから」


「そういえば可憐さんこの前一位だったって言ってたな…」


成績優秀、容姿端麗に当てはまる可憐さんなら推薦されても全くおかしくないな。


「そして、選ばれた四名によって学園は支配されるのです…」


「え、なにそのドラマみたいな展開」


お金持ちが通う高校で、四人が学園を支配って…。F4でも存在してるのかな、全員三年生じゃないし女子高だけど。ロッカーに赤札でも貼られるのか。


「冗談です。流石に支配はいくら四名の方が神聖でも、民主主義が許しませんからね」


「お嬢様も冗談とか言うんですね」


「お嬢様といえども、学生ですから。秋野様がイメージする学生の姿と相違ないですよ」


そう言って慎ましく笑う姿は、俺の知ってる女子高生像とは異なるが。

でも、確かにそうだなと、運ばれてきた料理を美味しそうに食べる姿を見て思った。

普段はこれよりもいいもの食べているはずなのに。美味しそうに食べる姿を見ていると、可憐さんのことを重ねて思い出してしまった。



「今日のこと神宮寺さんにお話しても大丈夫でしょうか?」


「俺は構わないですよ」


「ありがとうございます。これで、神宮寺さんとの共通の話題ができましたわ」


「俺のことですか?」


可憐さん、学校で俺のどんな話をしているんだと思ったが、どうせ聞くのであれば可憐さん本人に聞いてみよう。


「はい。これで学園で神宮寺さんと楽しいお話の時間ができるはずです。それと誤解しないでいただきたいのですが…。貴方様とのお話も楽しかったです。だから、またお話をしに尋ねてもよろしいですか?」


そう言われると断る理由もない。

悪いお嬢様でもないわけだし、可憐さんのことを慕っているのであれば俺とも仲良くできるんじゃないか。



「いいですよ。…あ、今度の文化祭と体育祭なんですけど、可憐さんに誘われて行くことになったので、当日もし迷っていたら案内してもらえると助かります」


「それくらいお易い御用ですよ。それにしても神宮寺さんから誘われるだなんて…本当に羨ましいですわ」


今にもハンカチを噛み締めて悔しがりそうな表情だったが、そうはならなかった。

俺の悔しがるお嬢様への偏見像は当たらなかった。あんなのアニメとかでしか見られないんだな。


「…ところで、お名前を伺ってなかったんですけど」


そういえば、可憐さんの名前を知ったのは出会ってから少し時間が経ってからだったな。

今回は出会った当日に名前を伺うという成長を我ながら実感していた。


東雲春風しののめはるかと申します。東雲でも、春風でもお好きに呼んでくださいませ」


「わかりました。それではまた、東雲さん」


そう言って踵を返そうとしたところ、


「あ、車が到着するまで、もう少し傍にいてくださいませんか?」


そんなことを言われたのでその場で足が止まった。

それにしても送迎車って…やっぱりお嬢様を実感させられた。




数十分でやってきた車は、車道で見かけたことのないもので、それがいかにも高級車であるという理由づけになった。


軽く手を振って別れた後、自宅へ帰る。

帰ったら可憐さんに、学校生活のことを聞いてみようか。






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