第63話 コンビニ店員のアパート
「何もないですけど…」
「「お邪魔します」」
今度家に来てと言われたものの、まさか言われた日に上がり込むことになるとは思わなかった。
部屋はシンプルで、家具は生活に最低限のもの、そしていわゆる女子の必需品である化粧道具などが置いてあった。
「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいね?恥ずかしいので」
「私の部屋より綺麗ですよ。そしてお洒落です」
「そうかな?結構シンプルだと思うんだけど」
「シンプルなデザインでお洒落さを出すのって難しいよなぁ。服とかもそうだけど」
部屋は特に人を連れ込むわけではないので、ダサくても問題ない。昨日お姉さんを入れたが何も言われなかったので一安心したものだ。
しかし、服は関わりのない人の視界に入るわけだから、ダサすぎると嘲笑される。というか、最近のトレンドの服が俺にはダサく見えても世間一般ではイケてると捉えられるのは謎だ。そんなわけでシンプルなデザインの服を着ている俺はお洒落でもないしダサくもないはずだ。
「服は、お洒落とかよりも似合うか似合わないかじゃないですか?先輩が今着てる服、お洒落っていうわけではないですけど似合ってますよ」
「…もしかしてバカにしてる?」
「何でそうなるんですか!…先輩がかっこよく見えるっていえばよかったんですか?」
「え、あ…ありがとう」
自ら墓穴を掘ってしまったかもしれない。スルーしておけば気恥ずかしくなることはなかったのに。
碧さんも何だか恥ずかしそうにそっぽ向いてるし。
「ところで、碧さんは晩御飯はどうする予定ですか?」
被害を受けていない奏が質問を繰り出す。
それによって、碧さんも少し落ち着いたのか質問に答えようと顔がこちらに向いた。
「えっと…考えてなかった」
「食材ありますか?」
「うん、あったと思う。えっと、買いだめしてた分が…」
そう言うと立ち上がり冷蔵庫の中を確認して出した。それに付き従って中を眺める奏。
それを座って俯瞰する俺という構図に。
「お兄ちゃん、頼んだ」
しかし、妹に引っ張られ台所に。
そして、目の前には食材が。
なるほど、何か作れということか。
「碧さん、いいの?」
「はい。お願いします」
卵とベーコン…ブロッコリーに人参、ジャガイモ…。
「そこにある調味料使っても大丈夫?」
「はい。先輩の料理、楽しみです」
そんなに期待されると困るのだが。
それでも、目を輝かせて期待されるのは少しばかり嬉しいものだ。
この食材ならば、作るものは大体検討がつくだろう。二人は、俺の料理を少し離れた場所から話しながら楽しそうに見ていた。
「「「いただきます」」」
料理を終えてお暇させてもらおうかと思ったが、作ったのだから食べていけと言われたので居座ることに。
「美味しいです。えっと、調味料って何使ったんですっけ?」
「塩胡椒くらいかな?オリーブオイルとベーコンやブロッコリー、人参、ジャガイモが合うんだよね」
「炒めただけなのに、こんなに美味しくなるものなんですね〜…」
「オリーブオイルのおかげだよ」
オリーブオイルは万能なのだ。我が家ではあまり使われないが、個人的にはオリーブオイルを使用してほしいと思う。別に、もこ○ちをリスペクトしているわけではないが。
「これをおかずに、お米を食べられるのは意外ですよ」
「そうでしょ。俺もはじめて作ったときにこれで米食べたくなるとは思わなかったよ」
ブロッコリーと人参、ジャガイモをメインにしてるのに、お米を食べたくなるなんてなかなかありえないよな。オリーブオイルと塩胡椒で炒めた効果が存分に発揮された料理だと、はじめて作ったときに思ったものだ。
ちなみに、親父はこれをつまみにビール三缶飲んでいたのでつまみにも合うらしい。
「先輩、これなら専業主夫もいけますよ」
「ありがとう」
働きたいわけではないが、かと言ってニートや専業主夫になりたいわけでもない。人生設計って難しいんだよな。
そして、口を開かない奏に目線を向けると、もう完食しそうであった。なかなかのハイペースで食べていた。
「碧さんって、何か趣味あるんですか?」
食事を終えた奏は、流石に寝転がることはなかったが、安座でリラックスしながら問いかけていた。
「うーん…特にこれといってはないかも」
「それなら、私とラーメン店巡りしませんか?今ならもれなくお兄ちゃんもセットで付いてきます」
俺はオマケなのか。ラーメンセットについてくるチャーハンみたいなものなのか。
「うん、よかったら一緒に行こう。この前先輩と行ったラーメン屋さん美味しかったし、楽しみにしてるね」
「行きましょう行きましょう。とりあえず、連絡先交換しましょう」
強引に連絡先交換を迫る奏に、少しタジタジな様子碧さん。俺には押してくる感じの碧さんが、奏には強くいけないのは新鮮で面白いな。
「そういえば、碧さんとお兄ちゃんってどこで会ったの?」
「コンビニで、バイトが一緒だったんだよ」
「ウチの兄の仕事の様子はどんな感じですか?」
そういえば、奏からバイトのことは聞かれてないんだよな。別に直接聞いてくれてもよかったのに。
「えっと…しっかりしてるし、色々手伝ってくれるし、いつも頼りになるって感じかな」
「お兄ちゃん、ベタ褒めじゃん」
「みたいだな。そう思ってるとは知らなかったからビックリだ」
こんなに褒められるとむず痒い。
「毎回先輩には感謝してるんですよ?シフトが被ってる時はラッキーって思いますし」
「そ、そっか。ありがとう」
序盤中盤終盤隙なく畳み掛けるように、褒められるのに慣れていないので、口ごもりながら応える。
「…それじゃあ、そろそろ帰ろうかな…」
会話も途切れたタイミングを見計らって声をかける。
夏場の長い日照時間といえども、午後7時を過ぎ、太陽も八割がた沈みかけ、まだ微かに明るさこそあるものの、夜と言ってもいい時間になっていた。
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