第56話 コンビニ店員の妹の考え
「奏ちゃん、一緒にお風呂入らない?」
食事を終え、入浴へ。
先にお客さんからということで、夏織さんが入ることになったのだが。
なぜかお風呂に誘われていた。
「なかなか魅力的な提案だけど…恥ずかしいので遠慮します。お先にどうぞ」
それに、ウチの浴室は広くないし、浴槽に2人が入ったら狭すぎるのだ。
「背中流しあったりしようよ」
「夏織さんってなかなか積極的ですよね」
「そうかな?」
「でも、今回はお断りします。また次回です!」
「えぇ、行ける流れだと思ったんだけど〜」
そう言ってから、バスルームの扉を閉める。
ちなみに着替えを持っていない夏織さんに提供された服は、兄のジャージ上下と母の下着。
私のだとどちらもサイズが心もとなかったらしい。…まあ成長期だから今度大きめの服も買っておこう。あと3cmほど身長が伸びることを期待して。
ちなみに、下着はサイズが合わないのを買っても身体に悪いので現状維持だ。大きくなってから買おう。
「お兄ちゃん、夏織さんのこと好きだったりする?」
今日のできごとの話を軽くしてから、今頃はゆっくり浴槽に浸かっているであろう夏織さんの話に。お兄ちゃんの部屋で兄妹水入らずの会話をする。
「…友人とかそっち方面での意味なら好き」
「恋愛面での答えは?」
「恋愛したことないから分からないよ」
「まあお兄ちゃんだし、しょうがないよね。ゆっくり考えなよ」
「そうだな。とりあえず色々と考えてみるよ」
まさかお兄ちゃんの恋愛未経験がこれほどまでとは。てっきりコロッと恋に落ちるのではと思っていたが、まさか恋に落ちないとは。
お兄ちゃんが何処の馬の骨かもわからない人に取られるのは嫌だが、正直夏織さんならいいかなと思った。
いい人だし、美人だし、お兄ちゃんのことを分かってくれる人だし。
ただ、お兄ちゃんの恋愛童貞っぷりは、夏織さんに同情してしまうほどだ。
そして、明日会うであろう、私と同い年の、夏織さんの妹のことも気になる。
夏織さんの妹ならば、きっといい子だと思うので、心配しているわけではないが。もしもだ、お兄ちゃんのことが夏織さん同様好きならば一大事だ。まぁ…流石にそんなことはないだろうけど。
「そういえば、夏織さんの妹と仲良いってことをさっき聞いて、思い出したことがあるんだけどさ…。…この前朝帰りした日、どこに泊まってたの?」
先日、お兄ちゃんは二度目の朝帰りを成し遂げた。大学生男子としては、なかなか名誉あるできごとかもしれないが、私としては心中穏やかではなかった。
連絡なしに帰ってこないなんて、ブラコンとしてお兄ちゃんが変なことに巻き込まれていないかとか、心配するのだ。
まぁ、翌朝帰ってきたお兄ちゃんはどこ一つ傷ついておらず、財布も無事だったが。
「友人の家って言ったよね」
「その友人とは?」
何となく察していたが、一応尋ねる。
「可憐さん…夏織さんの妹」
「お兄ちゃん、なんで姉妹にいっちゃうの?そして姉妹の好感度上げようとするの?恋愛シミュレーションゲームの主人公じゃないんだから…」
察していた通りの答えが返ってきた。
「妹が何言ってるのか分からない」
「お兄ちゃんそういうゲームやらないの?」
「有名なやつはやった。実妹が攻略できないゲームとか」
「…なぜ実妹が攻略対象じゃないゲームを選択した?」
「たまたま実妹ルートに進んだら気まずいだろ、妹がいると」
まあ分からなくはない。私も、乙女ゲームで実兄攻略とか避けがちだから。…最近友人から乙女ゲームを借りたのでプレイしてみたら、意外と面白かったのでそういった例えがでてしまった。
「あくまでもゲームなんだから気にしなくていいと思うけど」
といっても、ゲームだからそんなに気にする事はないだろう。私自身に向けてもそんな発言をする。
「話が脱線してるけど、別に2人と恋仲になろうみたいなことは考えてないから」
なぜか恋愛シミュレーションゲームの実兄実妹攻略についての話に進路変更されていたが、上手く話が戻ってきた。
「夏織さんはお兄ちゃんのこと好きなのに?」
「それは分かってるよ。自分の中で決断できたときに応えるつもりだから」
「それっていつか刺される主人公フラグだよね」
お兄ちゃんのことだから、誠実な対応をするのだろうけど、決断を待たされる側は大変だろうな。もし、その間に他の女と仲良くしてるのを見つけでもしたら…
「お姉さんに限ってそんなことは…」
「私に限ってどうしたの?」
お風呂から上がった夏織さんが扉からひょいっと顔を出していた。
湯上りの夏織さんはなかなか色気があって、これが大人の女性かと少しばかり視線が釘付けに。
「…いやぁ、お兄ちゃんが夏織さんにいつか刺されるんじゃないかって」
「えぇ、刺すわけないよ〜。亮くんから血が吹きでる姿なんて見たくないし、元気な亮くんでいてほしいから。あ、次は奏ちゃんか亮くん、どっちがお風呂入る?」
「はーい、それではしばらく2人で仲良くお話を…」
先にお兄ちゃんと夏織さん2人で話してもらおう。ブラコンな妹は、なかなか気遣いができるのである。
「というか、なんで私が亮くんを刺すみたいな話になってたの?」
夏織さんとお兄ちゃんの弾んだ声を耳にしながら、階段を降りる。
普段なら静かな我が家に聞き慣れない声が響くが、意外と容易く受け入れることができた。
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