第55話 突撃コンビニ店員の晩御飯
「何も無い家でごめんなさいね」
「いやいや、それよりも今日はお世話になります」
「狭い家だけど、気にせずくつろいでいってね」
「ありがとうございます」
さて、我が家において権力を握る両親、その中でも7:3の7を占める母親の一言によってお姉さんが本日ウチに泊まることが決定したわけだ。
漫画やアニメでは、都合よく両親が出張だったり、旅行だったり、転勤だったりしているが、ウチは見事にそれらに当てはまらなかったようだ。父も後1時間もすれば帰ってくるだろう。
「綺麗なお母さんだね」
「そうですかね、見慣れた顔なんで分かんないですけど」
「だから妹ちゃん…奏ちゃんも可愛いのかな?」
「褒めても、お菓子くらいしか出せませんよ。もしくは、お兄ちゃんのベッドの下にあるエロ本くらいしか」
「ないからね」
リビングから場所を移し、2階に上がり俺の部屋に3人。狭い部屋ゆえになかなかの人口密度になっていた。それほど大きくないテーブルを囲んで3人で話していた。
「そういえば、お兄ちゃんとの出会いについて聞きたいんですけど」
「妹のマンションに行った時に…あっ私にも妹がいるんだよ。それで、妹から亮くんの話を聞いてて、気になったから亮くんに会ってみたって感じかな」
「妹さんっておいくつなんですか?」
「今15歳の高校一年生だよ」
「わぁ私と同級生なんですね〜…と、お兄ちゃんに一つ聞きたいことが」
「なんだい妹」
「どうやって高校一年生と仲良くなったのかはさておき、妹さんに手は出してないよね?お兄ちゃんが犯罪者は笑えないんだけど」
「出してない、神に誓って。というか、俺にそんな度胸があったら恋人の1人や2人できてるだろう」
「それは確かに」
「納得されるのも複雑だな」
「むしろ、可憐…妹の方が亮くんに懐いてるよね〜?」
「そうなの?お兄ちゃん」
「懐いてるっていうか、お互い波長が合うし、可憐さんって年齢の割には大人びてるからたまたま仲良くなったというか」
「私も今度会ってみたいな」
「あ、奏ちゃんも明日の誕生日会来ない?その、既に家で誕生日を祝ってるとは思うんだけど…」
「お兄ちゃんの誕生日会ですか?よかったら参加したいです。まさかお兄ちゃんの誕生日会を開いてくださるなんて…いい人達に出会えてよかったね、お兄ちゃん」
「そうなんだけど、なんで慈愛の女神みたいな表情してるのかな。俺ってそんなに心配されてたの?」
最近、妹が俺に買い物の付き添いを頼んだり、ラーメン店に連れて行こうとしたりするのは、もしかして俺のことを心配してたから?
「可憐に聞いたらOKみたい」
「本当ですか?楽しみです〜」
妹は当日既に祝ってくれたのだが、こうやってまた祝ってくれるのは素直に嬉しい。
そういえば、可憐さんも当日の朝コンビニで祝ってくれたから実質2回目なのか。お姉さんも電話で祝ってくれたから、これまた2回目では。
…2回も俺なんかの誕生日を祝ってくれて本当にありがたいな。
「珍しく手料理が並んでる」
「珍しくあんたの友人?恋人?が来てたから、たまには料理してみたのよ」
「明日も手料理でいいんだけど」
「毎日は疲れるから休ませて」
スーパーの惣菜ではなく、自宅で作られたおかず達が食卓に並んでいた。
お姉さんが来てたこともあるのだろうが、母が今週2度目の手料理を提供してくれたので有難くいただくことに。ちなみに、1度目は俺の誕生日だった。何だかんだで、俺って恵まれてるのかなと。
「ウチの息子がお世話になってるそうで」
「いやいや、私の方がお世話になってまして〜」
帰ってきた父とお姉さんが、お酒を飲みながら話していた。
「母さん、父さん鼻の下のばしてるよ」
「小遣いカットしとく」
「その分私に回しといてね」
結婚しているのに、別の女性に鼻の下をのばすと小遣いはカットされ、その分が娘に入るらしい。
「そうそう、ウチの息子なんかでよければ婿入りでもなんでも好きにしてくださいね」
なんでも好きにしていいって、母の言葉といえども人権侵害じゃなかろうか。
「いえいえ、私は亮くんの意思を尊重したいので…亮くんに無理強いすることはできないですよ」
どうやらお姉さんは母と比べて人間性が優れていたみたいで、俺の人権を尊重してくれたようだ。
「亮、あんたにも良い人がいたんだね。生涯独身かと思ってたけど」
「実の子に対して中々辛辣な母だな」
「21年生きて恋人なしの息子にずっと発破をかけてたんだけど、それすら気にもとめなかったからよ」
「発破なんてかけられてないけど?」
「私が何のために昼間外出してると思ってんの?恋人連れ込んで好きにしていいっていうメッセージだったんだけど?」
「絶対嘘だ。普通に外出や買い物楽しんでただけでしょ。あと食事中に変なこと言わないで」
なかなか最低な母の発言に頭を悩ませてしまう。別に独身が悪いわけでもないだろうに。
「お母さん、お兄ちゃんが独身ならその時は私が面倒見るから、安心していいよ」
「奏、それは俺が申し訳なく思うから大丈夫だよ」
「…あっそ」
普段とは少しばかり会話が弾んだ食卓となった。主に俺の話題でだが。
「これ、昔のアルバムなんだけど夏織さんが見たかったらどうぞ」
食事を済ませ、狭いリビングに5人が集まって俺の話に。
気づけば俺の昔のアルバムが引っ張りだされていた。
「あ、可愛い〜」
幼少期のアルバムを興味深く鑑賞されるのは、恥ずかしいのでやめてください。
そう言おうにも、俺に興味を持ってくれているお姉さんのことを嬉しく思っているわけで。結局、あまり面白味がない俺の昔話をしたり、されたりする羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます