第50話 眠ろうとするが…
「うぅ…秋野さんが意地悪になってしまいました」
「でも、可憐さんだって嫌がってなかったよ?最後は頭撫でてくださいって言ってたし」
「忘れてください…また体が温まってしまうので」
湯冷めしなくていいんじゃないかと言おうとしたが、これ以上可憐さんを辱めるのもどうなのかと思い自重する。
「でも…こんなふうに一緒の時間を過ごすことができてよかったです。少しばかり恥ずかしかったですけどね?」
まだ15歳の女の子だということを頭では理解しているものの、大人な女性を彷彿とさせる柔らかな微笑みが相変わらず魅力的だった。
「そういえば、可憐さんは誕生日いつなの?」
お姉さん、俺と誕生日を祝う席の場に参加する可憐さんの誕生日を、そういえば知らなかった。4月とかで祝い損ねていたら申し訳ないが、15歳だと言っていたのでまだ迎えてはいないはずだ。
「2月です。2月12日です」
「結構先なんだね」
「そうですね。バレンタインが近いので誕生日プレゼントとしてチョコレートをいただくことが多いです。私チョコレート好きなのでこの日は気に入ってます」
「たしかに。俺やお姉さんみたいな8月生まれは夏休みで、周りから祝ってもらう機会もプレゼントをもらう機会もないから、少し羨ましいな」
「今年はそうじゃないですよ。私がお祝いしますから」
「ありがとう、可憐さんの誕生日も祝わせてもらえるかな」
「はい、お願いします」
2月か…。今から半年ほど先のことを考えても、あまり意味は無いだろう。もしかしたら、来年、突然に驚愕イベントが舞い込んでくるかもしれない。未来というものは、今こうして会話している時間から様々な分岐があるのではないかと、少しばかりSF地味た考えをしてみる。
もし、驚愕イベントが発生するにしても、可憐さんの誕生日イベントに支障のない出来事であってくれればいいが。
「それにしても…こうして2人っきりで夜を過ごすのも、修学旅行みたいでわくわくしますね」
「そうだね。そういえば、高校の修学旅行はいつあるの?」
「えぇと…今年の12月です。行先は京都、大阪を含めた関西だったはずです」
「定番だね。俺もそうだったなぁ」
懐かしい修学旅行のことを思い返す。しかし、思い返そうとした光景には黒い影がかかっているようにはっきり思い出せない。もちろん、金閣をみたり、清水の舞台から下を眺めたりと…大まかなことは覚えている。
楽しくなかったわけではないが、友人と馬鹿騒ぎをしたり、先生に捕まって反省文を書かされたり…みたいな記憶に残るほどの衝撃はなかったからな。
「可憐さんは、高校生活楽しい?」
「楽しいですよ。最近は友人と一緒にコンビニで買い物したり、ファミレスで食事をしたりと…あ、そういえば先日ついに注文できるようになったんですよ!」
ガールズトークに、花が咲いたように話を続ける可憐さん。
耳にすっと入る弾む元気な声が、可憐さんの今の楽しさを物語っているようだ。
それにしても、お嬢様学校の生徒がコンビニやファミレスって…案外俺と同じように、店員は2度見したんじゃなかろうか。
「それも秋野さんがいてくれたからです。人見知りも少しは改善されましたし、今では教室で一緒に5人の方と食事をするようになりました」
そう言われると相変わらず照れくさい。
ただ、それは可憐さん自身の力であって、俺がいなくてもきっと仲良くなっていたんじゃないか。
「私の昼食に興味をもって話しかけてきた方もいらっしゃいました。後は、コンビニ店員と仲良くなる方法とかも聞いてこられましたね」
楽しそうに話す可憐さんの内容の一部に問題が。
どうやら、コンビニ店員と仲良くなろうとしてるお嬢様がいるらしい。可憐さんと同じように珍しいお嬢様もいるみたいだ。
恐らくお嬢様に話しかけられる店員に対して、少しの羨望と、俺と話が盛り上がりそうだという期待を抱えた。
「あ、よかったら今度の文化祭と体育祭にいらっしゃってください。9月末から10月にかけて実施されますので」
思い出したかのように声をあげた可憐さん。
そう言ってから、立ち上がり、何かを取り出して持ってきたようだ。
「その、来場は保護者限定みたいな規定とかないの?」
「こちらの招待券を見せていただければ大丈夫とのことです。今のうちに渡しておきますね」
そう言われて手に2枚の軽い紙を渡される。軽い紙なのに、価値は重く感じられた。
「親友ですから、絶対に来てくれますよね…?」
「うん。楽しみにしてるよ」
首付近だけ重力が凄いのかと言わんばかりに、簡単に頷いて応えた。
一応、女子高なわけで…そんな中に侵入するのは少し気が引けるのだが。
それよりも、可憐さんの学校での様子というのも気になり内心は不安3割、興味関心が7割といったところだった。
時間も経ち、服も乾いたみたいだ。
下着だけ着て、ガウンを身につける。シャツやズボンは寝るには不向きだからな。
「…そろそろ寝ますか?」
俺の欠伸に反応したのか、可憐さんがそう告げた。
時刻は短針が長針に迫ろうとしている、11時前。
いろいろと緊張する場面の多い1日に少し疲れたのか、眠気がきていた。
そんななかで可憐さんの提案は魅力的であったため容易く受け入れる。
「そうだね、可憐さんも寝る?」
「はい…私も結構眠くなってきたので」
リビングの電気を消し、2人して寝室に向かう。
この時の俺は、睡眠欲に犯されていたと言ってもよかった。それくらいに、眠ることしか考えていなかった。
当たり前のように、可憐さんの横について歩き、寝室に入り、ベッドへ。
俺から睡眠欲がアルコールのように抜けていったのは、一緒に布団を被ってから数分後だった。
あとがき
本話で遂に50話になりました。毎回読んでくださっている方にお礼の言葉を申し上げさせてください。本当にありがとうございます。
また、今後とも読んでいただけると幸いです。
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