第46話 お嬢様は天才ゲーマー



ケーキは3人で無事に完食。

途中から味覚も復帰したので、果物とタルトによる酸味と甘みの絶妙なバランス、モンブランのクリームの程よい甘さなどなども噛み締めることができた。


「さて、亮くんの誕生日についてなんだけど、どうしようか?」


話題は、お姉さんによって突然切り出された。数週間後に控える、俺の誕生日の話になっていた。


「当日は平日ですので、祝っていただけるのなら土日が無難ですかね」


「あとは…場所ですか?秋野さんの自宅に押し寄せても大丈夫なのでしょうか」


「たしかに。亮くんの誕生日なのに、私のマンションに来てっていうのも変だよね」


「俺の部屋狭いですし、それに実家で休日なら父と母もいるのであんまりおすすめできないですね」


別に自室に見られたくないものがあるから、とかそんな理由ではない。シンプルに自宅が広いわけではないし、来てくれる2人も気を遣うだろうし。



「それなら、私のマンションで大丈夫ですか?」


俺の言葉を受けて可憐さんが口を開く。


「秋野さんには、少しご足労をおかけしてしまいますけど」


大丈夫ですか?と答えを待つような表情だった。


「俺は全然。むしろ可憐さんはいいの?」


「はい。秋野さんの誕生日を祝わせていただいたいですから。もちろん、当日コンビニでもお祝いさせていただきます」


「あ〜可憐ズルいよ」


「近くに住んでる特権だからね」


こんな美人姉妹に誕生日を祝われることになるなんて全く予想してなかった。

昨年の誕生日、すなわち20歳を過ぎると、自分の誕生日なんてそこまで気にしなくなっていたところだった。20を過ぎればそこからは下り坂、つまり、老いていく一方だと思っていたから。

そんな俺だったが、今年の誕生日は気にしてやまない日になりそうだ。





ひとまず俺の誕生日に関する話は終了。今から何かしたいことがあるか、と問われたが特に思いつかず考えていたとき、


「よし、それじゃあゲームしよう」


そう言って、テレビゲームの準備を始めたお姉さん。そんなお姉さんを横目に隣に座る可憐さんに問いかける。


「可憐さんってテレビゲームしたことある?」


「いえ…実家ではそういった物がなかったので、すごく楽しみです」


電源をつけて、ゲームを起動させようと準備しているお姉さんを、無邪気な子どものように見つめていた。


初めてのゲームか…俺が初めてやったゲームって何だったっけ。はっきりとは思い出せないが、ゲー〇ボーイだった気がする。

ただ、当時の俺も、今見える可憐さんのように純粋な好奇心で溢れていたのだろうな。






「わぁ…2人に勝てちゃいました!」


「いやぁ…可憐強いねぇ」


「初めてゲームをプレイしたとは思えないよ」


良くいえば忖度、悪くいえば八百長…。

まぁ接待プレイだ。


プレイ前、俺とお姉さんは、言葉を交わしたわけでもなく、ただ視線があった。その瞬間、「負けよう」という意思を感じ取った。

仮にそれが勘違いだったとして、お姉さんが俺に勝っても、俺は可憐さんに負けるので問題ないかなと思っていた。そもそも、初心者相手にガチでプレイするのは大人気なさすぎるから。


そうしたら、お姉さんもあっさりと可憐さんに負けていた。ついでに、CPUをボコボコにして可憐さんをアシストしていた。

可憐さんがそんなことに気づく余裕なんてなく、自分の力で勝ち取ったのだと喜ぶ姿に少し申し訳なさを覚えた。なんというか、騙している気がして嫌だったのだ。純真無垢な可憐さんの姿がそう感じさせた。


「いやぁ…次は俺が勝つから」


お姉さんに視線をやって、「1回だけ勝たせてください」と口だけ動かして意思表示をする。それに対して頷いたのを確認してからもう一度プレイする。



「あぁ…負けちゃいました」


「さっきは少し油断したからね、もう負けないよ」


八百長をするなら、バレないようにしなければならない。だから適度に勝たなければならない。あと、少しばかり罪悪感があるから。




だが、そんな罪悪感は数時間後には無くなっていた。




「可憐さん強すぎない?」


気づけば、全く手加減していないのに負けた。徐々に手加減を減らして、負け出すようになってからは手加減を辞めたはずなのだ。それにも関わらず負けた。



「楽しくてつい熱中してしまいました。慣れるともっと楽しいですね」


「亮くん、可憐本当に強すぎ。私ももう勝てないんだけど?」


「天才ってやつなんですかね。吸収力が高すぎます」


3年生にとって、最後の夏の大会に備えて練習していたとき、新入生として入ってきた1年が春先は補欠待ったなしの実力だったのに、夏前に急激に成長してスタメンを奪われるかのような感覚だ。いわゆるパ〇プロのサクセスみたいなものだろうか。






「もう5時かぁ…2人はどうする?泊まっていってもいいけど」


「俺は着替え持ってないですし…」


お姉さん宅にお泊まりという、前回の出来事を思い返してしまったため、俯きながら答える。


「私は…今日はやめておこうかな…。でも、また今度泊まりに来てもいい、お姉ちゃん?」


「うん。もちろんだよ。亮くんも、いつでもおいでね」


「いつでもって…何かある時にお邪魔します」


「そんなに気を遣わなくていいのに。それじゃあ、可憐のことよろしくね、亮くん」


「はい、ちゃんと家まで送り届けますよ」


「お姉ちゃん、また来週私の部屋で。待ってるからね」


2人してお姉さんに別れの挨拶を告げてから、扉を閉めた。


1階に降りてから、外へ出る。2人して駅を目的地としていたので、歩き出す方向は同じである。

3回もお姉さんのマンションに来れば、俺でも、出た直後に右か左かなんてのは即座に分かる。しかし、今日でマンションに来たのが2回目、そして数ヶ月ぶりという可憐さん。

左右を数回見て、駅がどっちだったか迷っている可憐さんに声をかけてから一緒に駅に向かって歩き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る