第40.5話 コンビニ店員の妹は兄を怪しむ
私には兄がいる。5歳年の離れた兄だ。
身内贔屓をした場合、中の上というくらいのルックスだと思う。しなかったら中の中、The平均という感じだろうか。
ただ、私自身ルックスよりも内面が大事だと思っているので、内面だけなら身内贔屓せずとも上の上だと間違いなく思う。
そんな兄のことが私は好きである。もちろん、異性としてでは無く家族として、兄としてだが。性的な目で兄を見たことはないと断言できる。
そんな私は、いわゆるブラコンと言うやつなのかもしれない。周りの友だちにとって、兄とはウザイ存在、キモイ存在、口も聞かない存在、などとして挙げられていて、休み時間やカフェで駄弁っている姿を間近で見ている。そんな反応を知って不思議だと思うと同時に、それが一般的みたいで少し私が特別なのかと思うと同時に、あぁブラコンなのかもと思った。でも、その子たちの兄がウチの兄なら、私みたいになってたと思うけどな。
「お兄ちゃん、ラーメン食べに行こ〜」
「また?いいけどちょっと待ってて」
「ねぇ、こっちとこっちならどっちが似合うかな?」
「こっちかな」
こんな風に高校生にもなって兄と一緒に外食や買い物をする兄妹は少ないと思う。
もちろん、一定数は存在しているだろうが。
そんな私にとっては優しくて、世界一の兄は友だちが少ない。そして恋人がいない。なぜだろうか、あんなに優しい兄がモテない理由が分からない。
私は中学に入学してから、告白の現場に当事者として立ち会った結果、恋人という存在について考えるようになった。そのときはお断りしたのだが。
そして、私のことではなく兄のことについても考えるようになった。兄は、中学、高校とそういった存在がいなかったように思える。中学時代は部活でしか外出しないし、遊ぶのも部活の友人と年に数回、学校が終わればすぐに家に帰っていた。高校では部活には入らず直帰していたと思う。
それは、大学に入っても変わらず、夕方には家にいるし、休日遊びに行くことなんて滅多になかった。そんなレアケースである遊びに行った日は、夜に帰ってくることこそあれどもアルバイト先の男友だちと食事に行っただけで、香水の匂いとかはしなかった。
だからこそ、たった今送られてきた「今日は友人の家に泊まる」というメッセージに驚きが隠せない。
あの兄が家に帰ってこない?もちろん、修学旅行などで帰ってこない日はあったが、平日の何も無い日に起きた出来事に動揺してしまった。
普通に考えれば男友だちだと思うのだが、何となく違う気がした。だって、これまで兄は男友だちの家にさえ泊まることがなかったのだから。
「もしかして、悪い女に…?」
兄は優しいから、悪い女に騙されているのではないか、そんな心配を胸に「本当に友人?」と返信する。即座に「友人」と返ってきたのでとりあえずは信用してみようか。
それに、よく考えれば、兄は阿呆ではないので流石に悪い女に騙されているというのはないだろう。
だが、相手が誰なのかは気になる。兄が帰ってきたら問いただすことを決めて、物音が全くしない隣の部屋を気にしながら眠りについた。
「お兄ちゃん、昨日のことについて詳しく」
お兄ちゃんは今日も大学、というか試験があるのだが、私は既に夏休みに入っている。
つまり、平日午前9時、我が家に帰ってきたお兄ちゃんを1番に出迎え、取り調べを行うことが出来る。というか、取り調べのために夏休みなのに7時前に起きてリビングで課題をしていたのだ。
「え?あぁ友人の家でお酒飲んじゃったから、帰るのを控えたんだよ」
「男?女?」
「…浮気を疑う彼女みたいだな。彼女いたことないから分からないけど」
「なるほど、女だね」
兄が話を逸らそうという姿勢を見せた。男友だちならわざわざ遠回りせず、答えていただろう。
「まぁそうだけど、悪い人じゃないよ?奏に会いたい、みたいなことも言ってたし」
はぁ?私に会いたい?変な人だなぁと思いながらも、それはそれで少し興味が湧いた。
「その人ってお兄ちゃんの同級生?」
「いや、歳上」
まぁ…兄のよさが分かるのは歳下よりは歳上の女性だろうか。
「大学の先輩?」
「コンビニのお客さんっていった方がいいのかな」
「…お兄ちゃんの妄想だったりする?」
大学生のコンビニバイトと歳上の女性のお客さんが仲良くなる…。そんなイメージが全く湧かない。ドラマとかでならありそうだけど。
お兄ちゃんの妄想だと言ってくれた方が納得する。
「そうだな。妄想みたいだよなぁ」
「でも、本当なんでしょ?土日のどっちかで、都合が合えば会ってみたいな」
私はお兄ちゃんを異性として好きではない。しかし、15年も一緒にいる、お兄ちゃんを何処の馬の骨かも分からない女性に簡単に渡せるような普通の妹ではない。残念ながら相当なブラコンみたいだと実感した。そういえば、子どもの時から兄にべったりだったな。公園に行くにも兄に付き添いしてもらって、…もしかして兄に友だちが少ないのって私のせいなのかな。
「いいんじゃないかな。予定が合えば」
「ねぇ、試験終わったらラーメン食べに行こ」
「もうこの辺のラーメン屋はあらかた行ったんじゃないか?」
「だから今度は県外進出だよ」
自身初の県外進出ラーメン巡りの意思を表明する。
「電車で2時間以内のところならいいよ」
「片道2時間って相当な距離だと思うけど、いいの?」
「行きたいんでしょ?いいよ。それに2人だし、話でもしてたらすぐ着くんじゃないか」
兄とは、妹の頼みをこんなにも簡単に受け入れてくれるものだろうか。私のお兄ちゃんしか知らないから、世間一般のお兄ちゃんについては分からない。
「お兄ちゃん優しい、イケメン、神」
「妹が珍しく褒めてくれる」
もしかしたら近いうち、この兄に彼女ができるかもしれない。そしたら、今までのように2人で出かける機会も減るだろう。さらに、兄は大学3年生だ。就職が近いし、例えばだが、就職先が県外だったり、県外で結婚したりみたいなことがあれば、年に数回会うかどうかという関係になってしまう可能性もあるだろう。
それを思うと、もっと甘えてみようか。それにこの兄も、何だかんだでシスコンだから。
どうせならもう少し、この兄と2人きりの時間を増やしたい。そして、それを楽しみたいと思った私は、滅多に抱きつかない兄に抱きついてみた。同じ洗剤、柔軟剤を使っているはずなのに、少し違う匂いを吸い込んだ気がする。
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