第31話 3人寄れば文殊の知恵
『お姉ちゃんから聞きました。私を差し置いて梁池さんと秋野さんで遊んだと』
怒ってますというスタンプと一緒にそんなメッセージが送られてきた。
『可憐さん学校だったから誘えなかったんだ、ごめんね。でも、今週末は碧さんと俺と3人で遊びに行くんだから、そこで思う存分楽しもう』
『分かりました。思っきり楽しみます』
文面からは楽しみな感じはあまりしなかったが、その直後に、「楽しみ」と言う文字の入った可愛いキャラクターのスタンプが送られてきた。楽しみにしてくれているみたいでよかった。
「なんと言いますか、朝からコンビニバイトと大学以外で先輩と一緒って新鮮ですね」
待ち合わせ場所に俺と碧さんがほぼ同時に到着。顔を合わせるとすぐに会話が始まった。
待ち合わせということに、少し緊張を持っていたので、言葉を交わすことで気が楽になった。
「ただ、待ち合わせ場所はコンビニなんだけどね」
「3人のちょうどいい待ち合わせ場所ってここになりますからね〜」
普通は駅や、メジャーな建物の入口とかに、なるのだろうが、俺たちの場合は待ち合わせ場所はこのコンビニになっている。
各々が駅に向かうよりも、ここから一緒に歩き出す方が、楽しそうだからということで決まったのだ。
「どこか行きたいところありますか?」
「2人の行きたいところならどこでもいいかな…」
「それ、私と可憐ちゃんだから許されてますけど、他の人だったら即効で帰られますよ」
「いやいや、デートじゃないんだから」
デートプランを考えていないのであれば、マイナス評価を受けるのも分かるのだが、デートではなく遊びに行くだけなのだから、問題ないのではないか。
「3人で遊ぶんですから、行きたいところ出し合って決めるのがいいんですよ」
分かってないですね、と呆れ顔でため息をつかれた。
なるほど、と思わされた。伊達に友だちが多いわけでは無さそうだ。そんな考え方があるのかと、俺がまったく思いつかないことをあっさり言い切ることに対して尊敬するしかない。
「すみません。待たれましたか」
話していると可憐さんが到着したみたいで、後ろから声をかけられた。
「全然、待ってないよ」
「少し準備に手間取ってしまいまして…」
足元から順に、少しヒールのある靴、夏を涼しく感じさせるような、水色のワンピースに、薄手のジャケットという大人らしいコーディネートだった。
気づけば、軽くだがメイクもしていた。大人っぽい服装が似合うようなメイクであり、着こなしにも違和感がなく、高校生の女の子という感覚があまり湧かず、むしろ同級生のような感覚に陥った。
「おぉ…確かに今日の可憐ちゃんはいつもの数倍増しで可愛いね」
そう言いながら可憐さんに抱きつく碧さん。そんな仲睦まじいスキンシップをみて少し羨ましいなと思ってしまった。同性の場合は許されるが、異性だと通報、逮捕ものだからな。
「梁池さんだってとても可愛いです…その、私服姿も初めて拝見するのでとても新鮮です」
そういえばバイト中は、ユニフォームを着ているし、カウンターからだと腰から下がほぼ見えないからな。
ちなみに今日の碧さんの格好は、白のカットソーの上にカーディガン、下はパンツスタイルとスニーカーという動きやすそうなコーディネートだ。
碧さんも可憐さんも、2人の可愛らしさがでていて似合っていると思う。
「あ、そういえば先輩も今日の格好似合ってますよ」
「今思い出したように言うくらいなら、言ってくれなくてもいいんだぞ」
「秋野さん、似合ってます。かっこいいです…あっ」
碧さんに続いてそう言った可憐さんだったが、言ってみたけど、どうしようというように慌てた様子だった。流石に善意で褒めてくれたので、有難く受け取る。
「ありがとう、可憐さんも凄く似合ってて可愛いよ」
こちらも思ったことを告げる。それを聞いた可憐さんが少し照れたようにはにかんでいた。
「先輩?私のときと態度が違いすぎるんですけど?」
一歩近づかれたことによって圧迫感が増したので、こちらも一歩下がって応じる。
「やな…碧さんも似合ってるよ」
梁池さんと言いかけたが、何となく今は碧さんと呼んだ方がいい気がした。
「可愛くはないですか?」
身長差があるから必然的に上目遣いで問いかけられると、こちらとしては為す術がない。
「可愛いよ…って、何笑ってるんだ」
「…いや、先輩…言い慣れてなさすぎ感が強くって…ウケますね」
笑いが噴き出てるのを、何とか我慢するように話していたが、最後の言葉を言ってからは諦めて笑っていた。
「そっちが言わせたんじゃないか」
まぁ、シンプルに可愛いと言って受け入れられるのも、それはそれで気恥しいので、笑われる方がマシなのかもしれない。
「ひとまず食事行きますか?」
「その予定だったし、俺は何も食べてないぞ」
「私も何も食べてないので、空腹感がすごいです…」
本当なら3人で横になって歩きたいところだが、通行の迷惑を考えて前に2人、後ろに1人という隊列で歩き出す。もちろん、俺が後ろなのだが。
「可憐ちゃんって何か好きな食べものある?」
「そうですね…カレーとコロッケと…」
「結構庶民的な答えが返ってきてびっくりだよ。キャビアとかフォアグラとか…回らない寿司屋のネタとかが返ってくるかなって」
「えぇ?何でですか…」
2人の後ろ姿しか見えないので、どんな顔で話してるのか分からないが、明るい声色から考えると、きっと笑顔なのだろう。
「先輩は好きな食べものなんですか?」
「え?あぁ…ラーメンとか?」
唐突にこちらに話が飛んできたので、答えるのに数秒かかった。
「ラーメン…私も食べたいです」
俺の答えに即座に反応した可憐さんが会話に加わってきた。
「可憐ちゃんラーメン食べたことないの?」
「お店で食べたことはないですね」
「…朝からラーメンは…お昼か夕方でもいいかな?」
男視点だとあまり気にならないが、女の子的には気になるものだろうか。よく、ニンニクとか匂いが気になるものが駄目だから、焼肉とかもNGみたいな話を聞いたことがある。
「もちろんです。お2人と食べられるなら今日じゃなくても全然大丈夫です」
可憐さんの笑顔が俺と碧さんに向けられる。
その笑顔につられて、2人とも笑みを零す。
まだ会ってから数十分ほど。
食事をとったわけでもないのに、胸だけに限らず体の隅々が、何かあたたかいもので満たされて、もう食事はいいかな…などと思うようになっていた。
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