第30話 店員2人と客1人で遊んでみた結果
「…やっぱりスイーツ食べるんだね」
「女子にとっては、甘いものっていつでも食べられますからね」
梁池さんの薦めるスイーツ店に入り、注文を済ませる。
俺は軽めのものはないかとメニュー表を隅から隅まで探した結果シュークリームという結論に至った。一方の梁池さんは、苺のショートケーキとアップルパイと、なかなかどうして食欲旺盛だった。そして注文を済ませ満足顔だ。
「…私が食べられないのは歳のせいかな」
俺と同じく、軽めにチョコシュークリームひとつを注文したお姉さんが、梁池さんの注文を受けて弱々しく言葉を発した。
「「そんなことないですよ」」
俺と梁池さんの言葉が被る。どうやら今日は2対1の構図になって、フォローすることが多いみたいだ。
注文が届いたので、あまり乗り気ではなかったが、見た目が美味しそうだったので、ぱくっと噛みつく。
「美味しい…」
口の中に入って噛んだ、その瞬間にシューの部分の柔らかさ、クリームの濃厚さ、そして程よい甘さが伝わってきた。
「そうでしょう。ここのスイーツは本当に美味しいんですから」
確かにこの美味しさなら、もう2、3個シュークリームを頼んでもよかったかもしれない。別にシュークリームにこだわる必要はないのだが。
お姉さんも俺と同じように思ったみたいで、あっさり完食して、満足していた。しかし、満足していたかと思えば、メニュー表を手に取り、店員さんにエクレアを注文していたので、全然満足してないみたいだった。そんな姿を見て、俺も注文しようかなと思ってしまった。
「食べます?」
そういうと梁池さんがアップルパイを切ってこちらに差し出してきた。
「…いいのか?」
「いいですよ?はい、あーん」
てっきり皿に置いてくれるものだと思っていたが、フォーク突き刺したままこちらに食べるように促される。
人に食べさせてもらう機会は、小さい子どもの時以来で小っ恥ずかしい。
「…美味しいな」
「個人的にはこの店のアップルパイが、1番美味しいと思ってるんですよ」
梁池さんは全く気にする様子もなく、平然と会話を続ける。こういうのって大学生だと普通なのだろうか。梁池さんと一緒に食事に行く機会はあれども、「あーん」なんてやったのはそもそも初めてだ。結局分からないので、水を飲んで考え込んだ脳みそと火照った体を冷やす。
「お姉さんや先輩は行きたいところありますか?」
スイーツを食べ終えた後、店を出て歩きながら会話をする。
「うーん…寝具とかみたいかな〜」
お姉さんがそういうと梁池さんが反応する。
「枕とかですか?私は安いベッドに安い枕でも、十分安眠できるので気にしたことないですね〜」
それは羨ましい限りだ。睡眠の質を高めるために、色々設備を整えたりする人もいるからな。
「私あんまり寝付きよくなくて、いい枕ないかなって」
元々寝付きがよくないのか、それともストレスのせいなのか、どちらか分からないがそれを聞くようなことはできない。
「枕も種類たくさんあるんですね〜」
「みたいだな」
寝具のお店に入る。
俺と梁池さんは付き添う形でお姉さんの横を歩きながら枕を眺める。
…この枕3万円もするのか、俺は枕に高額なお金を出す気にはならないが、それも人それぞれだからな。需要があるから売られているわけだろうし。
「見てください、この抱き枕可愛くないですか?」
「随分巨大な猫だな」
150cmの猫の抱き枕を抱えていた。梁池さんとほぼ同サイズだったので頑張って抱えている姿が微笑ましい。
「確かに可愛いね。でもわたしはこのサメの方がいいかなぁ…」
枕を探していたはずのお姉さんだったが、抱き枕に興味をもったみたいだ。
「一旦置いといて、とりあえず普通の枕を探しましょう」
抱き枕を元に戻して、枕を探す。低反発なものや、形が特殊なものから様々な種類を見てまわる。あまり興味がなかったが、見ていると「あなたに極上の眠りを」などという謳い文句のせいか、少し欲しくなるものもあった。
「これなんてどうです?」
「あ、よさそうだね…お姉さん、これどうですか」
俺と梁池さんで見定めた枕を薦める。
反発もほどよく、形も睡眠に向いているものみたいだった。
「うーん…じゃあこれにしようかな」
「本当にこれでいいんですか?」
俺がそういうと梁池さんも頷いて心配する。さっきまでかなり悩んでいたので、こんなにあっさり決められると思わなかったのだ。
「だって2人が私のことを思って選んでくれたんだもん。だから、寝るときにいつでもその思いを感じ取れるし、今日のことを思い出せば幸せな気持ちで眠れると思うんだ」
「この枕は私たちが買いますよ、ねぇ先輩」
「え、そうだな…俺たち2人からのプレゼントってことでいいですか?」
梁池さんの考えたこと、それは多分と俺と同じだと思う。
「いやいや、これでも私社会人だから。自分で買うよ?」
「金額も2万円なら私が5000円で先輩が1万5000円で支払えますから、大丈夫です。私たちからのプレゼントとして貰ってください」
折半じゃないんだ、と思ったが別にそれはいい。とにかく、今はお姉さんに納得してもらおう。
「俺と梁池さんからのプレゼントとして受け取ってもらえますか?今日遊んだ思い出、それと、少し早めの誕生日プレゼントということで」
「…そう言われると断れないなぁ」
苦笑しながら、そう言った後、
「2人とも本当にありがとう」
満面の笑みで告げられた。これまで見たお姉さんの笑顔の中で1番素敵だった。きっと俺一人ではこの笑顔は引き出せなかったと思う。そんな、梁池さんと俺とで引き出せた笑顔に魅了された。ただ、魅了されたのは梁池さんもらしく、頬を手のひらで冷やすようにしていた。
「はい、1万円です」
「5000円じゃないの?」
会計をしようとレジに並んでいると梁池さんから最上位のお札を1枚手渡された。
「2人から、お姉さんにプレゼントするんですよ。同じ額じゃないとダメじゃないですか?」
「…確かにな」
ニヤリといたずらっ子のような笑みを、普段とや違って、俺と梁池さん2人で浮かばせていた。
その後、映画を見たり、アクセサリーショップを見たりした後、夕食として回る寿司屋に入店した。
「やっぱり、夏織さんに似合います。めっちゃ映えてます」
アクセサリーショップで購入したネックレスを身につけた夏織さんをベタ褒めする碧さん。
「亮くんもこれが似合うって言ってくれたよね。そんなに似合ってるかな?」
「似合ってますよ、夏織さんも。もちろん、碧さんも」
「私はついでですか〜?」
「ついでみたいになったけど、そんなことないよ。そのイヤリング、似合ってて可愛いと思う…」
言った後、俺の顔はマグマが限界まで耐えて噴き出すかのように、我慢できず顔が熱くなった。
「めっちゃ顔赤いですよ」
「なんとく乗っかってみたけど、流石に恥ずかしくなってきたんだよ。そもそも、何で名前呼びになってるんですか?」
「ずっ友かまちょ同盟です」
「何、それは日本語?」
「ほら、せっかく3人仲良くなったんだし、より親睦を深めていこう、ってことで名前呼びしていこうよ」
「夏織さんに賛成です。やっぱり名前で呼び合う関係の方がいいじゃないですか。特別感ありますし…それに、先輩って可憐ちゃんのことは名前で呼んでますし?」
「…確かに、それを言われると反論できない」
だが、梁地さんは俺のこと先輩とかしか呼んでないよな、と反論の糸口を見つけたが、
「そうだそうだー可憐だけ名前呼びはずるいぞー」
お姉さんの援護射撃を受けて黙る。
「そうだー先輩のアホー」
「それはただの暴言じゃないか?」
国会か?
友人名前呼び野党の野次に遭いながら考える。梁池さんやお姉さんのことは、友人として好きなのだから恥ずかしがる必要はない。今日含めてこんなに仲良くなったんだし、距離を縮めるいい機会だ。
「碧さん、夏織さん…これでいいでふか」
「「噛んだ」」
やっぱり少し恥ずかしかったみたいで、もう少しだけ時間が必要かもしれない。
それでも、心の中では2人のことを名前で呼ぶことにした。
あとがき
今回の投稿で30話を迎えることができました。この作品を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。☆、♡、コメント等がとても励みになっております。
長くなりましたが、次話以降も何卒よろしくお願いいたします。
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