第29話 スイーツはコンビニで買えるけど、寿司屋でも食べれます


「どうします?この後3人で出かけませんか?」


食事を終え、少し休憩していたときに梁池さんから提案を受ける。


「私は碧ちゃんと秋野くんがいいなら?」


お姉さんが梁池さんのことを、しれっと名前呼びしているくらいだから、結構仲が深まったみたいだ。そういえば、梁池さんって可憐さんのときもいつの間にか仲良くなって名前で呼んでたなと思い返す。誰とでも仲良くなれる人って凄いなと思う。


「俺は2人がいいなら」


なぜか決定権が俺に委ねられた。元から拒否するつもりはなかったのでいいのだが。


「じゃあ…駅の方のショッピングモールでいいですか?」


梁池さんの尋ねに、偶然俺とお姉さんの顔が合った。そして頷く。何となく意思疎通が完璧な感じだった。


「じゃあ決まりですね。美味しいスイーツのお店があってですね」


嬉々として語り出した梁池さんに対して質問を1つ。


「今食べたばっかりじゃないか?」


俺は、まあまあお腹が膨れた状態で、食べもののことを考える気にはならないのだ。


「甘いものは別腹です。研究結果にもそう出てますから」


そうなの?と問い返すことはしなかった。ただ、そんな研究結果があるのか少し気になったので、後でネット検索してみよう。


食器を戻して、3人で歩き出そうとした瞬間、お姉さんに手を握られた。


「…あの…」


「さっきは握り返してくれたじゃん」


「人が多い所は恥ずかしいです」


よく人前で手を繋いでいるカップルを見て、恥ずかしくないだろうかと思っていた。まだ手を繋ぐまでならまだしも、抱き合ったり、キスをしたりしているのは、こっちがより恥ずかしく思えていたし、自分には出来ないなと思っていた。

現に、今人が多いところで手を繋がれて、恥ずかしくて、体が熱くなり、無理だと思った。多分俺には相当な場数を踏まない限りは無理だな。



「…何かお姉さん楽しそうですね。からかってます?」


普段通り綺麗な顔でこちらを見つめている、と思ったのだが、口元が微妙にぷるぷる動いていた。


「そうだね」


そういうと我慢出来なかったのか、吹き出して笑いながら答えられた。だが、お姉さんの笑顔を見ていると、多少からかわれても気にならなかった。むしろ、笑顔に少しドキッとしてしまった。相変わらずお姉さんの笑顔に弱いのかもしれない。




「…私のことハブにしてます?」


この空気感のせいか、普段は強い存在感が少し弱まっていた梁池さんがボソッと声を発した。


「「してないよ」」


たまたまお姉さんと返答が被ってしまった。

それが梁池さんにはクリティカルヒットしてしまったようで、


「…私はおじゃま虫なんですか、そうですか…」


歩くのを辞め、完全に俯いてネガティブな発言を繰り返していて、俗に言う闇落ちしてしまった梁池さん。


「全然邪魔じゃないから、いつも梁池さんがいてくれるだけで、楽しいし嬉しいから。バイトや大学も梁池さんがいてくれると気が楽になるし。だから顔あげて」


「…全く、そう思ってるなら、もっと私にも構ってくださいね」


顔をあげてくれたのでよかった。そのついでに何故か手を握られた。


「…梁池さん?」


「なんですかお姉さんと手は繋げて私とは繋げないとでも言うんですか」


「早口言葉?」


一息で言い切ったので、言った後に息を大きく吸い込んでいた。


「秋野くんが、可憐や碧ちゃんみたいな、年下に懐かれる理由が分かったかもしれない」


軽く笑ったお姉さんがそう言うが、俺には理由が全く分からないんだが。妹がいるから年下に甘くなるかもしれないが、それくらいしか理由が思いつかない。



「何かこうしてみると秋野くんと梁池さんって兄妹みたいだね」


俯瞰するように、俺と梁池さんを眺めて発言したお姉さんに対して、梁池さんがそれに乗っかったみたいだ。


「お兄ちゃん、私…回ってないお寿司が食べたいな…?」


「寿司って…スイーツはどうした」


「寿司屋のメニューにもスイーツあるでしょ?」


「多分だけど、回らない寿司屋にスイーツないんじゃない?」


回ってる寿司屋にしか行ったことがないので分からないが。ちなみに回ってる寿司屋のスイーツは美味しいと思う。あとサイドメニューも意外と充実していて、寿司屋なのにそれ以外を目的に来店してもいいレベルだと思う。


「あるよ?」


お姉さんが当たり前じゃんみたいな感じで答えた。


「「あるんですか?!」」


一般人の俺と梁池さんは2人して驚いてしまった。そのせいで俺と梁池さんの兄妹ごっこは終わり、素に戻っていた。梁池さんも冗談で言ったのだろう。流石に回らない寿司屋にスイーツなんてないだろうという2人して勝手な思い込みを持っていたのだが、回らない寿司屋経験者のお姉さんの発言によれば、スイーツがあるらしい。


「ちなみに、スイーツってどんな感じのですか?」


気になった様子で梁池さんが、食い気味にお姉さんに話しかけた。


「えぇと…パフェとかメロンとかあった気がする…。ちなみに金額は数万円だったよ」


「先輩、回る寿司屋に行きましょう」


ニッコリと笑って、そう告げられた。


「気を使ってくれてありがとう。でもそれって俺に奢らせるからだよね」


回る寿司屋なら2、3人で食べて、いっても5000円くらいだろうし、奢られされたとしてもそこまで負担ではないのだが。


「てへっ」


…あざといけど少し可愛いなと思ってしまった。お姉さんもだけど、梁池さんも表情のバリエーションが多くて見てて飽きないなと思わされた。





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