第24話 体調不良のお客様

お姉さんの一件以降、毎晩連絡がくるようになった。しょうもない世間話から共通テーマである可憐さんの話、メッセージを通してお姉さんとの関係は深まっていると思う。それと同時にお姉さんのことも段々と知れてきた。


そんな中でもコンビニバイトは欠かさず出勤していた。お姉さんの一件で多少の変化があったとしても、揺るがないものとして、日常生活に組み込まれているのだ。




「秋野さん…おはようございまず…」



バイトに勤しんでいると、来店音が聞こえたので、いらっしゃいませと声を出す。

お客は可憐さんだったようで、直ぐに目が合ったと同時にこちらに近寄ってきた。

そこまでは普段通りだったのだが、鼻声の可憐さんが声をかけてきた。鼻声くらいならば、あまり問題ないのだが、顔を見ると熱っぽかったので、もしや風邪なのではと心配になって近づき声をかける。


「大丈夫、風邪?熱はない?無理なら学校休んだほうがいいよ」


「熱はないと思うんですけど…体が重くて…」


「ちょっと待って。体温計とってくるから」


そう言ってバックヤードから体温計をとってくる。バックヤードに体温計常備により、体調不良を訴えた従業員は体温測定して、熱が確認され次第帰らせるという、病人に無理はさせない、ウチのホワイト要素が役立った。


「えっと…熱があるね。多分起きてから時間が経ったせいで熱も上がったんじゃないかな…」


朝は大丈夫かな、と思っていても時間が経つにつれ熱が上がるという経験はよくあることだと思う。


「え、どうしましょう…帰った方がいいんでしょうか…」


「無理して明日以降も響くと、テストにも悪影響だし、今日は無理せず休んだほうがいいと思うよ」


「…そうですか。それなら今日は休むことにします。あ、コロッケください」


「意外と食欲はあるみたいでよかったよ。何かあったら連絡…って連絡先知らないな…」


当たり前のように接していたけど、お互いの連絡先は知らないままだった。先日お姉さんと連絡先交換したものの、依然として可憐さんとは、連絡先を交換しなかったのだ。ちなみに、お姉さんから可憐さんの連絡先が送られてくるということもなかった。


「あ、そうですね…。なんというか知ってるようなつもりでした…これで大丈夫ですか?」


そう言いながらスマホのQRコードを提示されたので、ポケットからスマホを取り出し、連絡先の交換を一瞬で終わらせる。

ガラケーのときは、赤外線通信とかしてたのに、便利な時代になったものだ。


「それじゃあ何かあったら、連絡してね」


「ご迷惑おかけします…。それでは失礼します」


「気をつけて戻ってね」


流石にシフト中なので、コンビニを抜け出すことはできない。足取りはそこまで不安に思えなかったので、大丈夫だとは思うが。

そういえば、話すようになって初めて「行ってきます」を聞けなかったな。当たり前の日常の変化に少し寂しさを覚えてしまった。





バイトを終えて、数時間が経った。特に連絡もなく、安静にしているのであろうか、とそんな疑問が頭に浮かぶ。

今日は2限から講義があるので、家を出て大学へ向かう。

2、3、4限と昼食を挟んで3コマ入れている。そういえば、おにぎりとコロッケは買ってたからお昼は大丈夫か、でも夜はどうするんだろうか…と大学へ向かう最中、可憐さんのことを考え込んでしまった。自分でも思ったより可憐さんのことを気にしているみたいだ。



「先輩、おはようございます。今日は2限からなんですか?」


講義のある小教室に入ろうとしたら、一限が終わったばかりの梁池さんと出くわした。


「おはよう梁池さん。そうだけど、今教室から出てきたってことは梁池さんは1限から?」


「そうですよ〜必修を1限に入れ込むのはやめて欲しいですよね」


「まぁ、皆そんな思いを抱えながら出席してると思うよ」


必修に限って1限に入っているという、大学あるあるな不満を聞き受ける。


「2限終わってからの予定あります?お昼一緒しませんか?」



「あぁ…特にないけど。何かあったらちょっと外すかも」


「どういう意味です?」


確かに何も知らない梁池さんにとっては謎の返答だったかもしれない。


「可憐さんが風邪ひいたみたいで学校休んでるんだ。それで、何かあったら連絡してもらうように伝えてるんだよ」


「そうなんですか、可憐ちゃん大丈夫ですかね…何かあったら私もお助けしますよ」


梁池さんも可憐さんのことを心配してくれているみたいだ。


「梁池さんはこの後の講義どうなってるの?」


「2、3限で終わりです。だから、何かあったら私にも連絡くださいね」


俺よりも早く今日は終わりみたいだ。4限の時間に何かあったら頼んでもよさそうだ。


「わかった。それじゃあよろしく頼むよ」


「あ、1つ疑問に思ったんですけど、可憐ちゃんの家と連絡先いつ知ったんですか?」


「家は、可憐さんの買い物量が多くて、持ち帰りに協力した時に知って、連絡先は今日心配で教えてもらったんだよ」


「そうですか…。ストーカーとかじゃなくてよかったです」


にっこり笑って言う言葉じゃないよね。もちろん、本気で疑ってたわけじゃないと思うが。





心配していたものの、それは杞憂に終わったのか、可憐さんから連絡はないまま時刻は19時を迎えていた。

梁池さんからは「何もないから連絡がなかったんですよ。むしろ喜ぶべきです」と言われたが、そう言われてもなお、未だ心配していた。お姉さんからも、可憐さんのことを見ていてほしいと言われたこともあり、お昼から今まで意識は可憐さんに向いたままだ。


そんなとき、お姉さんから連絡がきていることに気づいた。

「少し前に可憐に電話したんだけど、出なかったし、ついでのメールも返ってこないんだよね。

勉強に集中していたとしても、集中力が切れたら返信があるかと思ってたんだけど何も無いの。秋野くんは何か知らないかな?」


「今日風邪をひいたみたいで、反応がないのは寝てるからだと思うんですけど、もしそうじゃなかったら心配です。」


メッセージに返信する。


「そっか。ありがとう。私からもう一度連絡しておくね」


するとシンプルな返信がきた。とりあえずお姉さんも可憐さんの状況を知ったわけだし大丈夫だろうか。


そう思って、多少の不安をかかえながらも眠りにつく。





翌日の早朝、コンビニで可憐さんの姿は見られなかった。




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