第21話 自宅へのお誘い(お姉さん)
「おはよう…って少し疲れてる?顔色が悪いけ気がするけど…」
いらっしゃいませと言った後、可憐さんが来店したのだと気づいた。だが、普段より顔色が優れなさそうだったので声をかけた。
「いえ、少しテスト勉強に精を出してしまいまして…気づいたら深夜で、あまり眠れなくて…」
お恥ずかしいかぎりですと言った後、口元を抑え眠たそうな様子を隠しきれないようだった。
そうか、テスト勉強か。6月末、高校生は期末テストの時期である。ということは、ウチの妹も、テストのはずなのだが、一切勉強している様子がない。少しは可憐さんを見習ってほしいものである。
「それで、朝ご飯も食べ損なっちゃって…コロッケ3つお願いします。あ、1つは秋野さんのですよ」
まだギリギリ、以前の材料費の金額に届いていないみたいだった。でも、もうすぐ金額に達しそうである。
「コロッケ2つってことは、そこでコロッケ1つ食べて行くの?コロッケだけで足りる?」
流石にコロッケ1つで朝から昼までお腹が持つのだろうか。朝はあまり食べない派の俺だが、お腹自体は空くので心配に思う。
「コロッケが今3つしかないので…諦めます」
たしかに今お客さんが購入できるコロッケの数は3つ。今すぐ揚げたところで数分かかってしまう。
「あぁ…。ちょっと待ってて」
そう告げてから、バックヤードからあるものを手に取り、戻る。
「空腹凌ぎにはいいと思うから、どうぞ」
「…チョコレートですか」
「糖分補給にもいいし、頭も働くと思うよ。勉強頑張ってね」
「うぅ…また秋野さんに助けられてしまいました…。本当にありがとうございます」
気にしないでと声をかけ、コロッケを渡す。その後、可憐さんはコロッケを1つ食べ終わり、頭を下げて店を出ていった。
「なるほど、高校生ってテスト期間だから、最近昼間とかに外で見かけるんですね〜」
最近まで高校生だった梁池さんが声をかけてきた。高校生と大学生では、ほんの少しの歳の差しかない。それなのに、高校生と大学生では大きな違いがあるように思えるのはなぜだろうか。
「梁池さんって高校生のとき試験勉強してた?」
雑談のテーマは、今の話の延長で高校時代の試験勉強についてとなった。
「まぁぼちぼちですかね。1週間前からやりだして、学年の半分より上…くらいでした」
「梁池さんって意外と真面目だよな」
「意外とはなんです、心外ですね。そういう先輩はどうだったんです?」
口を膨らませ、まさに心外だと言わんばかりの表情だったが、河豚みたいで面白いなと失礼なことを思ってしまった。
「俺も梁池さんと同じかな。1週間前からやりだして半分より上くらいだったと思う」
「はぁ…つまらない人間ですね」
「梁池さんのほうがよっぽど辛辣で失礼だよね。しかもほとんど同じタイプだったから梁池さんにもブーメラン刺さってるよ」
「揚げ足を取るような先輩は女の子にモテないですよ」
「事実だから梁池さんの発言を受け止めるしかない」
グサッときた。でもそれが真実だから甘んじて受け止めるしかないのだ。
「…そんな卑屈にならないでくださいよ〜。…私は先輩のこと好きですから、モテてますよ〜。だから今の発言は適用されませんから〜」
「慰めで好きとか言うのはよくないな。そういえば妹から毎年バレンタインのチョコは貰ってるからモテてると言ってもいいのでは」
ついでに言うと、母親からも、市販の安いチョコだが、一応貰っているので家族からはモテてると言って過言ではない。なお他人。
「…はぁ。確かに妹からバレンタインチョコを貰える兄は世間一般では多くないと思いますが、身内はノーカンです」
やはりダメだったか。
「まぁ、来年は私が先輩にあげますから。今年は、私がここに入ったのが3月だったので、先輩にチョコあげられませんでしたけど」
「おぉありがとう。って、別にチョコがほしいみたいな話はしてなかったけどな。なんでこんな話になったんだっけ」
えらく話が脱線してしまった。もともとは試験勉強の話だったのに。
「先輩の揚げ足取りが原因ですね」
相変わらずズバッと言ってくるな。
「あぁそう…。それはそれとして、可憐さんには試験勉強頑張ってほしいよな」
「そうですね〜。可憐ちゃんって頭いいんですかね?」
「どうだろう?そういった話はしたことないけど、勉強ができなさそうなイメージはないな…」
その日の夜、可憐さんのお姉さんからメッセージが来ていた。
「こんばんは。
可憐のことなんだけど、今試験勉強頑張ってるみたいで連絡がしにくいの。それでなんだけど、いつも無茶して体壊しちゃうから、秋野くんさえよければ可憐のこと見てて欲しい。よろしくお願いします。
それと、週末ウチに来て?昼の12時に。待ってるね〜」
可憐さんのことは、できる限り気をつけて見ていようとは思ってたので別にいいのだが。最後のPS要素の文章に焦る。「来ない?」じゃなくて「来て」という部分で強制してるような気がする。
実は、マンションから出て数十分後にお姉さんの自宅の住所が送られてきたのだ。しかし、流石に少し遠いので毎日は無理だと連絡したのだが。あの時の言葉ってマジだったのだろうか…。
流石にスルーするわけにもいかず、数度のやりとりを行った結果、無事?お姉さん宅へお邪魔することになった。
年上のお姉さんの家になんて行ったことがないので、週末のことなのに胸がドキドキしている。
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