第20.5話 姉妹の会話

まえがき

本話は、20話と21話の間のお話です。

よろしければ、22話更新前にお読みください。




「いやぁ…秋野くんいい子だったね」


「だからそう言ったでしょ。お姉ちゃんが心配する必要のない、とても素敵な人だから安心してって」


秋野さんはお姉ちゃんの希望に応え、食事を作り終え、私たちが完食した後、食器の片付けまでしてくれた。私がすると言ったのだが、聞き入れずに、任せてと言って直ぐに終わらせてしまった。流れるような作業スピードに、本当にスマートに物事こなす人だと1日で複数回思わされた。

そして、別れの挨拶をした後、秋野さんは帰っていった。少し名残惜しかったが、特段、何かしたいというわけではなかったので引き止めるのも申し訳なかった。

そういうわけで、今この部屋には私とお姉ちゃんの2人である。


「ところで、秋野くんのことどう思ってるの?」


やはりそこをつついてくるか。薄々気づいていたが、お姉ちゃんは食事のときも私と秋野さんのことをチラチラ見ていた。ただならぬ関係なのではないかと未だ疑っているのだろうか。


「ゆ、友人だよ?その、秋野さんの方が5つ年上だけど」


「…ってことは秋野くんは私の5つ下なのか。私、年下の男の子好きなんだよね…。可憐が何とも思ってないなら、本当にウチに住んでもらいたいところなんだけど」


ニヤニヤと妹を揶揄いながら、どんな反応をするのかと窺うようにこちらを見ていた。


「…お姉ちゃんも知ってるでしょ。私の初恋の人のこと。…だから、まだわからないよ」


「はぁ…1回会って結婚の約束したと言っても、それ以降会ってないんだから、向こうだってもう忘れてると思うけどな。でも、そんなロマンチックな可憐が可愛くて好き〜」


そう簡単に忘れられないのだからしょうがないじゃないか。結婚の約束しかしなかったことを今になって後悔している。せめて、いつ、どこで会おう、みたいな約束もしておけばよかった。でも、気づけばいなくなってたんだから仕方ない。もしかしたら、特別でもない普通の日に、歩いていたらふと出会うかもしれない。そんな一縷の望みに期待を込めるしかない。


「もう…抱きつかないでよ。暑いんだけど…」


私もお姉ちゃんのことが好きだが、それ以上にお姉ちゃんは私のことが好きらしい。本当は一人暮らしではなく、一緒に住もうかと言われたのだが、何となく気恥しくて断ったのだ。もちろん、それだけではなく、姉のマンションが学校から、結構遠かったのも理由だ。しかし、1番の理由は、家庭的な事情というものだが。こればかりは私の一存でどうにかなることではないので仕方ない。


「でも、ちゃんと考えるんだよ。秋野くんのことが好きなら、昔のことは忘れて。お互いの名前だって知らないのなら、再会できる可能性はかなり低いんだから。今1番好きな人は誰か、少なくとも2年で答えを出さないと、秋野くんは大学卒業しちゃうし、可憐もお見合い結婚する羽目になっちゃうからね」


「お見合い結婚は、お姉ちゃんみたいに逃げる…」


「それは辞めといた方がいいよ。私、それ以降親に着信拒否されてるし…。家にも帰れてないの、可憐も知ってるでしょ?まぁ好きでもない人と結婚なんてしたくなかったんだから、仕方ないよ。それに…今なら秋野くんを狙っても問題ないみたいだし。むしろお見合い結婚を逃げて正解だったなぁ」


「お姉ちゃんのいじわる…」


相変わらずニヤニヤ笑っているが、お姉ちゃんも秋野さんのことは軽い気持ちではないみたいだ。今年で26歳になるお姉ちゃんにとって、結婚適齢期である今、妹が連れてきた友人を結構本気で狙っているらしい。お姉ちゃんの恋愛事情は踏み入って聞いたことがないので、ここまでオープンに言われたこと、そもそも俗に言う恋バナをするということ自体初めてなのだ。だから、それゆえに本気なのかもしれないと思わされる。


「あ、秋野くんから返信きた。自宅から距離があるので厳しいって…。…なんで可憐は嬉しそうなのかな?」


「え?別に嬉しいなんて思ってないよ?」


「顔、ニヤけてるよ?」


そう言って、写真を撮られた。画像を見せられ、確かに私嬉しそうだな…と自分の中で解釈の不一致があったことを実感する。


「まぁ、一旦姉妹で恋愛の話は置いといて、久しぶりにお出かけしようか?可憐に似合いそうな服選んであげたいし」


表情には出さなかったが、悩んでいると思われたのか、露骨に話題転換された。

何だかんだで、お姉ちゃんは私のことを1番理解してくれているし、気遣ってくれている。

お姉ちゃんのため、そして私自身のためにも、早く結論を出さなければいけないのかもしれない。



「本当にゆっくりしてたら秋野くんは私がが貰うからね…」


そんなことを呟いたお姉ちゃんの声が気がかりだった。いつだか小説で読んだフレーズが頭の中でリフレインする。


「恋愛は戦争」


お姉ちゃんと争いたくはないし、理想はあの人と再び出会えることなのだ。なんとか穏便に…というと語弊があるかもしれないが、私達にとって不幸がなく、物事を済ませることはできないのだろうか。


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