第18話 お嬢様から食事のお誘い


「秋野さん、明日の休日なのですが、お時間ありますか…?」


金曜日の朝、ちょっとした日常会話を終えた後、可憐さんから明日のことについての質問が飛んできた。


「特にないけど…どうかしたの?」


「先日お借りした傘のお礼をしたいのです」


「いやいや全然気にしなくていいよ」


可憐さんは本当に律儀だな。傘を貸したくらいでお礼をされるのもむず痒い。


「そういうわけにもいきません。秋野さんには何度もお世話になっているので」


最初は上目遣いで明日の予定を問われて、ドキッとしたものの、今は、言葉に芯がはっきりとしていて、可憐さんから凛々しさが感じられる。


「その、お礼っていうのは何をしようと思ってるの…?」


「こほん、友人から教えてもらった料理の美味しいお店で、食事でもいかがですか?」


「それって、ドレスコードとかあったりする?」


最近は、当たり前のように接しているせいで、忘れそうになるが、可憐さんはお嬢様である。そんな彼女から食事に誘われる。嬉しいけれども、大きなパーティーだったり、食事所がホテルの最上階だったりしたら、食事が喉を通るか分からないほど緊張しそうだ。それにそんな場所なら服装はスーツ一択。スーツなんて大学の入学式以降着てないし、尚更落ち着かなさそうだ。


「いえ、特にないそうです。気軽に制服でも、ジャージでも何ならばパジャマでもOKだそうです」


ジャージでもOK、その言葉で気が楽になった。


「それなら大丈夫かな…じゃあ明日はお願いします」


「はい、お願いされました!」


ニコニコ笑ってこちらを見つめる可憐さん。そしてその場を立ち去ろうとした。

たった今約束したものの、場所や時間はどうなっているのか。


「あの、明日どこに何時頃行けばいいのかな?」


「はっ、そうでした…。肝心の時間と場所をお伝えしそびれるところでした」


うっかりしていたみたいでよかった。誘って予定を空けさせておきながら、当日呼ばない、というような人間を絶望させる事案が発生するところだった。可憐さんにそんなことされたら、バイトを辞めるくらいには落ち込みそうだ。


「午前11時に私のマンションに来ていただけますか?」


「11時、ね。わかったよ」


「あ、部屋番号はですね…」


「もう覚えてるから大丈夫」


それならよかったですと、笑いを零しながら言われた。梁池さんに汚染されたのか、可憐さんにも人を揶揄う癖がついたのだろうか。それとも、少しは気心知れた関係になったので、可憐さんが素を見せてくれるようになったのか。後者であれば大変嬉しいところだ。






そして、約束をした日の夜。明日のことが、気になるせいか、なかなか寝付けない。


どこで食事をするのだろうかと、場所が気になっている。こんなことなら聞いておけばよかったかもしれない。かといって聞いて変に意識してしまう恐れもあった。結局聞くことも聞かないことも正解とは言えないだろう。


明日の格好は私服で大丈夫だろうか。ドレスコードなしという言葉を信じて、タンスの中からいい感じの私服を見繕う。



お店は、高級ファミレスくらいならば緊張しなさそうだ。普段は滅多にいかないが、数度行ったことのある、とある高級ファミレスを想像する。

あとは、壁に絵画が飾ってあって、まちがいさがしが難しい、料理が安いファミレスとか…。って、可憐さんに限って流石にそのチョイスはないか。

















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