第16話 発注ミスによりタイトル詐欺の危機


今日の早朝バイトでとある事件が発生した。

いつも通り出勤登録をしてから、レジにでた。すると、レジ横にメモ書きか貼り付けられていた。

何だろうかと気になり視線をやる。


「コロッケの発注忘れてました。在庫もきれてます。申し訳ありません。川上」


川上ィ?なんてことをしてくれたんだ。可憐さんに限らず、コロッケはよく売れる商品だというのに。だが、人間誰しもミスはあるもので川上を責めることはしないでおこう。


とにかく、コロッケがない現状は変わらないので諦めて、他の商品が売れることを願おう。可憐さんには、他の商品を勧めてみることにしよう。




「秋野さん、おはようございます」


「可憐さん、おはよう」


「結構5月も終わりに近づいて、暑くなってきましたよね。どうですか、夏服に衣替えしてみました」


シンプルに可愛い、そんな一言が口から出そうになったが抑える。


「おぉ、可憐さん夏服も似合ってるね。すごい身軽そう」


「ふふっ…なんですか身軽そうって」


「冬服という重りを外してるからかな。俺は高校のとき、学ランだったから結構重くて、夏服だと身軽に感じたんだよ」


あれだよ、バトル漫画とかで主人公が重りをつけた状態で戦うみたいな。実際、試験というバトルの際に、ギアを上げるか(キリッ)みたいな感じで学ランを脱いで、問題を解き進めることもあった。書くスピードは上がるけど正答率は上がらなかったが。


「まぁ、セーラー服も夏服の方が生地も薄くて軽くはなってますから、理解できますけど」


そういえば女子の夏服姿って思春期男子には辛いよな。うっすら中に着ているものが見えて視線を逸らしたいが、変に意識してると思われるのも恥ずかしい。また、そんな葛藤している様子に気づかれて、からかわれることもあるのだ。つまり正解がない。


「そういえば、今日は早いね」


普段より15分ほど早い来店だった。


「少し早く準備ができたので、家を出るのも早くなっちゃいました。でも、秋野さんがいるから早くてもいいかなと」


「そ、そっか」


最近ストレートな物言いが多いせいか、ふとドキリとさせられる瞬間が増えた気がする。今日に限っては夏服ということで、普段より見えている透き通った白い肌の影響もあると思う。



「…あ、秋野さん…」


いつもなら並んでいるコロッケが見当たらないことに気づいたようだ。


「ん?どうかした…って、ごめん。コロッケ今日在庫が切れてて揚げられないんだ」


「そ、そんな…。今日はコロッケ2つ食べようと思ってたんですけど…」


久々に見た可憐さんのしょんぼりとした姿に哀愁とともに懐かしさを感じる。それと同時に申し訳なさでいたたまれなくなる。


「ほんとごめんね。代わりといってはなんだけど、メンチカツとかどうかな?」


コロッケとメンチカツ、見た目は似ているが、味は結構違う2つの商品である。


「うーん…そうですね…。…あ、これはなんですか?」


「あぁ、焼き鳥ですか?」


可憐さんが指を指したのは焼き鳥だった。コロッケやメンチカツなどと比べると、おつまみ感が隠せないものだ。事実、お客さんがビールと一緒に買っていく商品ランキングトップ10に入る商品だ。そんな焼き鳥を可憐さんはチョイスされた。


「棒に刺さった料理というのが面白いですね。種類が多いですけど、どれがいいでしょうか」


焼き鳥の印象が、棒に刺さった料理という時点で、焼き鳥に対する知識はあまり多くなさそうだ。バーベキューとか、棒に刺して焼く料理を作ったら、可憐さん楽しんでくれそうだな。また簡単なレシピを教えてみようか。


「全部鶏肉か豚肉だけど、どっちがいい?」


「鶏肉でお願いします」


「なら、これかこれだね」


「うーん…では1本ずつください」


「はい、わかりました」


この2つが可憐さんの口に合えばいいのだが。そんな思いを込めながら、会計を終わらせる。


「今日はコロッケが無かったので、秋野さんにお礼ができませんでした…」


あの日から、コロッケを毎日1個俺に買ってくれていたのだが、今日は在庫がないゆえにどうしようもなかった。


「あ、そういえばそうか。別に気にしなくていいんだよ?」


「ダメです。ちゃんと秋野さんに料金分のコロッケをお返しします」



「あはは…わかったよ。ありがとう可憐さん…って、ごめん、ちょっと待ってて」


「え、はい」


とある商品をふと思いだした。


「可憐さん、これとかどうかな」


「こ、これはコロッケ…?」


「そう、コロッケパンだよ」


「なんということでしょう…コロッケってパンに挟む具材としても採用されるんですね!」


思わぬ所からコロッケの登場に興奮を隠せない様子の可憐さん。コロッケパンをじっと見つめるあまり、姿勢が前のめりになっていた。つまり、少し胸元のガードが緩くなっているわけで。

少し視線が行ってしまったが、鎖骨しか見てないからセーフだと思う。むしろ、俺じゃなかったらさらに視線を落としてガン見してると思う。


「こほん、それで…コロッケパンはどうしようか」


可憐さんの意識をこちらに戻すためにひと声かける。


「1つください」


即答だった。可憐さんっていつの間にか、コロッケ大好き人間になってないだろうか。お嬢様の好きな料理がコロッケというのも斬新かもしれない。


「ありがとうございます。140円です」


「カードでお願いします」


おにぎりとコロッケのセットの購入が、今日初めて途切れるかと思ったが、おにぎりとコロッケパンというセットによって、可憐さんの「いつもの」はギリギリ継続ということでいいだろうか。


「これは、「いつもの」の派生系ですかね?今度も、またコロッケがないときはコロッケパンで代用できますね」


「はは…流石にもう発注ミスはないと思うけど。そのときはまたコロッケパンだね」


出会ってから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしていた日の出来事だった。「いつもの」がいつもあるとは限らない。このコンビニで可憐さんと会って、ちょっとした会話をする日常いつものがこれからも続けばいいのに。




翌日の早朝、いつも通り可憐さんがやってきた。

昨日は普段より買いすぎたのでお腹が膨れました、と苦笑いしていた。








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