第12話 バイトの時間、昼食の時間
「で、先輩、神宮寺さんについてお話が!」
可憐さんが満足して店を出ていって数秒後、梁池さんに詰め寄られていた。コンビニ弁当のおかず同士くらい距離が近い。
手を前にやって、少し離れるように意思表示する。
「何の話だよ」
「先輩に、あんな親しげにしている子がいるなんて私聞いてないですけど?」
「子どもの保護者じゃあるまいし、言う必要ないからな。…初めてウチに来た時に少しサポートしたら懐かれた、みたいな感じだ」
言わなくていいかと思ったら、視線が鋭く、痛くなったので渋々答える。
「初めてウチに…?連れ込んだんですか?やっぱり通報することになるなんて」
それもセクハラよりも重い罪で…などとぶつぶつ言いながら、バックヤードにある受話器を手に取ろうとしかけたので、一旦手を押さえる。
「ウチって、このコンビニのことだからな。俺を犯罪者扱いするんじゃない、早とちりするなよ」
「え…なーんだそういうことですか。そうならそうと言ってくださいよ」
「そっちが勘違いしたんだろうに。そもそも家に連れ込むような気概は俺にはないぞ」
…というか家に上がったのは俺の方だしな。だが、そんなことを言うと火に油を注ぐくらい、燃えるゴミに吸いかけのタバコをそのまま捨てるくらい、炎上しそうなので口は噤むのがよさそうだ。
「先輩の、そういったことに関する危機管理能力の高い性格について忘れてました」
最近未成年への事案といった事件のニュースが流れるからな。いやでもかというくらいには意識するものだ。
そう、あの出来事は不可抗力だったのだから仕方ない。むしろセキュリティ万全なマンションだから何もなかったことを証明できるはず。
「それじゃ、この後は楽しみにしてますね〜」
とりあえず納得がいったのか、可憐さん同様にご満悦な梁池さん。
梁池さんのご満悦状態が続くことで、モーニングセットにメニューを追加しないことを願うまでだ。今日の寂しい財布の中身では心もとない。…後でお金を下ろした方がいいのだろうか。
無事、モーニングセットにプラスでスイーツを注文された。支払いは2500円だった。…比較的抑えてくれたのだろうか。
「…えへへ」
「神宮寺さん、何か喜ばしいことでもあったのですか」
「えっ?そんな顔に出てましたか?」
4時間目の授業が終わり、お昼休みに入って早々、友人の烏森さんからトーンの上がった声をかけられた。
「それはもう満面の笑みが隠しきれてないくらいには」
くすっと笑いを零しながら伝えられた。
「それならば教えてくださいよ…」
恥ずかしくて顔を押さえ、机にうつ伏せになる。机の冷たさで少し火照った顔が冷めたので、顔を上げる。
「可憐さん、入学してからお昼はずっとそれですよね。美味しいんですか」
コンビニの袋に入ったおにぎりとコロッケを見ながら尋ねられた。
「はい、美味しいですよ。今日はコロッケを多く買ってしまったので、烏森さんにもお裾分けします」
「わぁ…ありがとうございます可憐さん」
「いえいえ」
秋野さんが梁池さんと親しくしている姿を見てから、なぜか少しモヤッとした気持ちになり、衝動買い…いやヤケ買い?してしまったコロッケを差し上げる。
烏森さんとの昼食時間を過ごしながら、今朝の出来事を思い出す。
別に秋野さんが誰と親しくしてようと、気にすることではないし、首を突っ込むつもりではなかったのだが、なぜか気になってしまった。
まぁ秋野さんが素敵な男性であるのには違いないのだが。そういえば秋野さんに恋人はいるのだろうか。なんというか梁池さんと、お似合いに見えてしまったのが少し悔しい気もする。 でもそれは仲のいい人が知らない人と話していたからに過ぎないと思う。
なぜならば、そういった気持ちは私に許婚がいなければの話にすぎない。もし、私に許婚がいなければ、秋野さんのことを好きになっていたかもしれない。
ただ、秋野さんには色々と優しくしてもらっているし、秋野さんのひとつひとつの言葉で嬉しくなったり、恥ずかしくなったりしていることは認めている。好意的な感情は正直に言って強いと思う。結構惚れているかもしれない。
秋野さんに対しても結構恥ずかしいことを言ったときもある。ただ本人は涼しい顔して受け流していたけど。
でもそれは、なんとなく、昔婚約をしたあの男の子に似ている部分があるからだと思う。
今でもふと思い出す、あの時出会い、許婚となった少年のこと。昔この街で会い、契りを結んだ少年は、今なにをしているのだろうか。この高校に通うことにしたのは、学力面や、施設のことにおいても私に合っていたことや親に勧められたこともそうだったのだが、あの少年が住んでいた場所だったからということも理由の1つだった。…いつになったら会えるのだろうか。
早く会いに来てくれないと、私は秋野さんのこと本気で好きになっちゃうよ…名前も知らない許婚くん。
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