第7話 弁当のおかず同士の距離感


「それじゃあ行きましょうか」


退勤時間を迎え、着替え終わってから雑誌を読んでいた可憐さんに声をかける。


「すみません、こんなに持たせてしまって…」


両手に袋を持った状態で、さらに腕にもう1袋かけている姿の俺を見て謝罪する可憐さん。


「気にしないでください。俺も買いすぎて持てなくなることに気づかなかったので」


コンビニから出て、可憐さんの自宅へ向かう。最初は、後ろを歩いた方がいいのかと思い、数メートル離れて後ろからつけるような形で歩いていた。

数歩歩くごとに後ろを振り返って、こちらを見ては、ほっと安心している様の可憐さんを見て、微笑ましく思い、これでいいかと思った。だが、前を向いてから歩き出す際に、前から歩いてきた通行人にぶつかりそうになっていたので、安全面を考慮し、歩みを進め、横を歩くことにした。


「その、可憐さんって一人暮らしなんですか?」


密かに思っていた疑問をぶつけてみる。店員と客の関係で、聞くのはどうなのかと思いはするが、お嬢様が平日の朝からコンビニに寄るだなんて、どう考えても一人暮らしだとしか思えない。実家ならコンビニに行かせないだろうしな。


「はい、そうです。高校に入学してから、お父さんとお母さんに頼んで、了承を得て一人暮らしをはじめました」


「高校生で一人暮らしって大変じゃないですか」


「そうですね…料理がからっきしで、お米に塩をかけて食べるくらいしかできないです」


とんでもない情報が飛び込んできた。料理がからっきしで、お米に塩をかけて食べるくらいって…白飯しか食べてないとでもいうのだろうか。

多分、朝食のことだろう。朝は忙しいだろうし、朝はおにぎりだけ、パンだけといった人も多いし。

夕食もそうなのだとしたら栄養不足にもほどがある。むしろそうではないと思いたい。


「夕食はどうしてるんですか」


「え?お米に塩をかけて食べてますよ」


そんな「当たり前ですよね」みたいな雰囲気で、言葉を返して欲しくなかった。どう考えても近いうちに、倒れるだろう。


「…料理、俺が作っても大丈夫ですか」


「え?さっき聞いた通り、カップ麺はお湯を注ぐだけ、カレーはレンジであたためるだけでできるんですから、自分でできますよ」


「いや、そうじゃなくて…。材料から作る料理のことです。今聞いた話だと可憐さんの体が心配で、栄養面で体を壊してもおかしくないですよ」


「えっと…大袈裟ですよ。現に今もなんともないですし」


遠慮気味に断る可憐さんだが、この食生活に危機感を持たないまま続けさせるのはよくない。あまり距離が近いのはよくないかもしれないが、一人暮らしならば何かあったときに対応できるのかわからない。


「今は大丈夫かもしれませんが、1ヶ月後にどうなってるかわからないですよ。心配なんです、可憐さんのことが」


「わ、わかりました…。その、距離が近いです…」



危うく痴漢として通報されてもおかしくない距離まで近づいていたみたいだった。関係性という意味ではなく、物理的に距離が近くなっていたみたいだ。まぁ体に触れたわけではないから大丈夫だろう。

サッカーの接触プレイで、笛を吹いて駆けてくる審判に、ノータッチをアピールすればイエローカードを出してくれるくらいには大丈夫なはずだ。


実際、可憐さんのことが心配なのは事実だから、少しくらい店員が客に踏み込んでもいいだろう。そんなことを思いながらアスファルトの上をスローペースで歩く。

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