第5話 おにぎり+コロッケ+米+パン+カレー+カップ麺=手に持てない量
そういえば暦は5月。
5月のあたまといえば連休、ゴールデンウィーク。今日から4日の連休になる。長い時には1週間に及んだりするわけだから、今回は比較的短い連休ではある。
そんなゴールデンウィーク期間は、学生、社会人も休みの人が多くなり、コンビニの早朝バイトにとっては楽なシフトになっていた。
俺にとっても、大学が休みゆえにバイトが終われば家に帰って趣味に没頭することができるので、ゴールデンウィークありがとうという感じである。彼女とデートみたいなリア充行為ではなく、ソロ充行為ではあるが、それもまた個人が楽しければそれでよいのである。
そういえば土日は学校がないから、お嬢様…神宮寺可憐さんを見かけることはないのだが、祝日の場合はどうなのだろうか。
ふと、気になる疑問を頭に浮かべながら、業務をこなしていく。
「お、おはようございます」
お客がいなかったので商品の在庫を確認していたところ、女性から声をかけられた。
おかしい、俺に声をかけてくるような女性の知り合いなんて思い浮かばないんだが。
振り返って顔を見ると、私服姿の可憐さんが立っていた。制服姿しか見た事がなかったので、新鮮な感じだ。お嬢様といえば、私服がドレスみたいなイメージがあったのだが、決してそんなことはなかった。シンプルなデザインのワンピースに、ヒールのある靴という着こなしであった。
「おはようございます、今日は学校お休みなんですね」
「はい、そうなんです。ですがゴールデンウィークということを忘れていまして、普段通り起きてしまいました。ですので、コンビニに行こうと思いまして」
秋野さんがいらっしゃってよかったです、といって微笑む姿は深窓の令嬢を彷彿とさせるようだった。ただし、現在いる場所がコンビニであるという点を除けばだが。
「今日もいつもの購入されるんですか」
「はい、そのつもりなんですけど、…学校にいくわけではないので、普段買わないものも買いたいです。…それと家の食料がなくなってしまったので、お米を買いたいのですが」
「えっと…それでしたらスーパーに行かれた方が安いですし、種類も豊富だと思いますよ」
「そんな、人の多いところは怖くて行けません。それにどんな人がいるかも分からないですし…」
以前、コンビニの外から店内を眺めていた際に震えていた姿を思い出した。どうやら知らない場所や知らない人がいる場所は、怖くて駄目らしい。
「じゃあ自分が買ってきましょうか?あと1時間もすればあがりなので、ここからスーパーまでそんなに遠くないですから」
「そんな、お手を煩わせることになってしまいます。それに、コンビニで大抵のことはなんとかなると、インターネットで学びました」
まぁ確かにコンビニで大抵のことは、なんとかなるかもしれないが…。
「それじゃあ…何か食べたいものはありますか?」
「…はっ、インターネットでみたことがあるのですが、朝は焼いたパンにジャムやバターをつけて、咥えながら外へ出るといったことをしてみたいです。いつもお米しか食べてないので」
「つまり、パンとジャムとバターで大丈夫ですかね」
早くこのお嬢様からインターネットの回線を切らないと変な知識がついてしまいそうだ。
いつもお米ということはパンよりごはん派なのだろうか。そういえばさっきお米を買いたいと言ってたな。
「あとは…一晩寝かせたカレーを食べてみたいです」
「カレーのルウ…いや、レトルトカレーで大丈夫ですかね」
これは比較的まともな回答だ。一晩寝かせた方が美味しくなるというのは、個人差だと思うが否定はしない。ただ一晩寝かせるカレーをつくるには、ルウだけじゃなく、野菜や肉も必要になってくるので、今回は諦めてもらうしかない。
もちろん、忘れてはいけないお米をカゴにいれる。ただし、重いので俺が手に持つことにする。
「あ、カップ麺というものを食べてみたいです!」
「味はどれがお好みですか」
カップ麺の棚へ案内し、棚に視線が集中しているようだ。
「醤油…味噌…豚骨…塩…カレー…どうしましょう、たくさんありすぎて食べきれません」
「数ヶ月以上食べなくても持つので大丈夫ですよ」
「そんな料理ができていたなんて知りませんでした。流石コンビニですね」
コンビニというか、メーカーさんの企業努力というか、人類の技術力が凄いんですけどね。
賞味期限の存在を知っているとは思うけど、カップ麺の賞味期限の存在は知らなかったであろうお嬢様は、喜んで全種類棚の奥の方の商品までカゴに詰め込んでいた。
「えへへ…こんなにカゴ一杯に商品を買うなんて、ついに私も大客というものですね」
「そうですね」
一見すると微笑ましい姿だ。だがしかし、このお嬢様が世間知らずというか、ポンコツというか…どこか抜けているのではという疑惑が定期的に浮かび上がってくる。
そろそろ黒服の人や執事みたいな人を見かけてもいい気がするのだが、一向に姿を見ることがないまま今に至る。ということは、やはり一人暮らしなのだろうか。
そして会計を済ませる。おにぎりとコロッケを購入、そしてカゴいっぱいに入った可憐さんご希望の商品、支払いはやはりブラックカードだった。
商品をいくつかの袋に入れ、渡そうとしたその時であった。
「どうしましょう、手に持てません…」
確信した、このお嬢様、神宮寺可憐はポンコツだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます