第3話 弁当を温めすぎたみたいに破裂しそう


「はぁ…彼女ほしすぎる…」


「あれ?この前合コンに行くとか言ってなかったか」


「SRどころかRもいなかった」


「お前なぁ…それ合コンの参加者で聞いたやつがいたなら殴り殺されるぞ」


今日も今日とてコンビニバイトである。

今話しているのは、普段は夜勤、たまに早朝バイトで一緒になる同じ大学の同級生、川上賢吾。顔はイケメンの部類に入るのだが、相手に求める条件が高いせいで彼女ができないやつである。

少しくらい妥協したら?と前に問うたことがあるのだが、その際は「合コンってのは課金なんだよ。課金してSRで十分だって言えるか?SSRしか欲しくねぇんだよ」とソシャゲに脳を支配されたコメントを返されて以来、話を聞き流すことにした。


「たまに美人な客来るけど、朝って声かけづらいんだよなぁ。深夜なら人も少ないからいいんだけど」


深夜ならいいんかいとツッコミそうになったが、こいつ顔はいいからな。女性目線だとありなのだろうか。

そしてこちらが聞きたいことが1つある。


「お前が声掛けられることってある?」


つい最近、声をかけられたお嬢様のことを思い出す。ただあれは初めてのコンビニだったからだし、プライベートな話をしたわけでもないしなぁ。自転車で2人乗りして学校近くまで送った関係性という送迎車(者)ポジションではあるのだが。


「あぁたまにあるな。でもSSRじゃないから適当に流してるよ」


「早朝、一緒のシフトに入っている従業員に気をつけろよ」


「普通そういうのって気をつけるのは夜道だろう。しかも犯行をおこす人物が限られているじゃないか。ってか中で検死は従業員と客の迷惑だから、犯行はせめて外に出てからにしてくれ」


店内にお客さんがいないときにはこんな馬鹿みたいな会話をして、時間を潰す。それがコンビニバイトの流儀である。



「いらっしゃいませー」


と、お客さんの来店によって会話が途切れる。その後、続けて来店する人が増えていく。



ふと、店の外へ視線をやる。


すると外からこちらを見ている女子高生と目が合った。目が合ったことに気づいて、その女子高生が来店する。


「おい、SSRが来たんだが」


「こっち来るな、あっちのレジ行け」


例のお嬢様が来店したのを見て、話しかけてきた。毒牙がお嬢様にかかるのは避けなければと、SPの思考回路になっていた。


こちらに会釈するお嬢様。

それを見て、ソシャゲ脳がレジから飛び出そうとする。


「は?これSSR当たったな。ちょっと告ってくる」


「まだお客様がいらっしゃるからレジに残ってろ」


何とかその場に留めさせ、他のお客のレジをすることで時間を稼がせる。

しかし、そう容易くはいかなかった。

俺のレジにもお客が並び、会計を進めるが、その間にお嬢様はおにぎりをカゴに収め、レジへ向かう準備ができていた。そして、ソシャゲ脳のレジは並ぶ人なし。

あぁ終わった。ソシャゲ脳の毒牙にお嬢様が。


そう思ったのだが、なぜかお嬢様はこちらのレジに並んだ。疑問に思うが、ひとまず目の前のお客の会計を終える。


「ありがとうございましたー」


そしてお嬢様のレジの番になる。


「えへへ…コロッケを1つください」


相変わらず美少女なんだよなぁ。


「ついでに僕もどうですか」


隣のレジからソシャゲ脳が突っ込んできた。

あまりのアピールの強さに俺は二つの意味で引くしかなかった。


「えっ…あの、どうすればいいですか」


「生理的に受けつけないです、って言えばいいと思いますよ」


「えっと、生理的に受けつけないです」


その言葉を聞いたソシャゲ脳は無事にコロッケを1つ詰めにいった。


「すみませんね、変なやつがこの時間にいるもので」


「えっと、個性的な方でおもしろいと思いますよ。顔もかっこよくて素敵ですし、さぞ女性から好意的な気持ちを受け取っているのだと思います」


ごめん、こいつは女性からの好意的な思いを踏みにじってるんだ。ただ、お嬢様がせっかく川上を立ててくれたので否定しないでおこう。


「あっ…でも私は店員さんの方が素敵だと思いますけど…って何でもないです、ありがとうございました」


そう言って、商品を受け取ると足早にコンビニから出ていった。


1つ聞き逃せない言葉が聞こえたのだが、俺はどうすればいいのだろうか。

そして、その言葉を聞いた川上が今にも従業員をヤろうかという表情をしているので、110番通報をすべきか悩ましい。

というか店内での犯行は検死が店の迷惑だと言ったのはお前じゃないのか。

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