第2話 今日のシフトは休みですが

まえがき

第1話を投稿した際に、ジャンルが現代ファンタジーとなっていましたが、誤って設定しておりました。本作品はラブコメです。大変申し訳ありませんでした。




あのできごとから1週間が経過した。

あのできごととはもちろん、お嬢様コンビニでおにぎりとコロッケを購入事件だ。


あれから毎朝、お嬢様が来店されている。俺は、本来木曜日は休みのシフトである。1週間のうち木曜日が休みであったため、木曜日にあのお嬢様と会うことはないのだ。しかし、初来店から2日、3日と毎日来ているお嬢様が、木曜日に急に来なくなると思えず…少し様子が気になってしまい、自転車にまたがり、プライベートでコンビニに向かうことにした。2日目も3日目もお嬢様の様子がたじたじしていて、心配になったからという如何にも保護者目線になっていることは気にせずに。



コンビニの近くの道路を曲がる。コンビニが目に入ってきた。


コンビニを目の間にすると、お嬢様がいらっしゃった。いらっしゃっていたのだが、いらっしゃっていなかった。何を言いたいのかと言うと、ドアの前で中を見たあと、明らかに焦ってコンビニの外をグルグル回り出したのだ。

流石にこんな奇行を見て見ぬふりできないので声をかけようと思った。


大学生の男が女子高生に声をかけ…というテレビニュースを読むアナウンサーの声が脳内に響いて不安に思ったが、次の瞬間にそれは杞憂に終わる。


「あ、店員さん」


「今日は店員じゃないですけどね」


「店員さんがいなかったのでどうすればいいのかわからなくて…」


「俺がいなくても、昨日みたいに買い物をすればいいですよ」


「その他の店員さんは怖いです…怖そうなおじ様とお姉様しかいらっしゃらないので…」


「見た目は怖いですけど、そんなことないですよ。店員なんて、余程のことがない限り、お客には上から物を言えないので気にせず買い物してくださいよ」


そういってお嬢様の様子を見るという、よくよく考えればストーカーじみた行為を達成し終えたので歩いてきた道へと踵を返す。


「あの、一緒に買い物してください」


「…かしこまりました」


美少女に震えながら、袖を掴まれて断ることができるのは男じゃないな。

というか、この姿を従業員に見られるのは恥ずかしい。絶対からかわれるな。


「いつもので大丈夫ですよね」


「はい…あ、でも今日は2人分です。店員さんの分もです」


「え?俺の分はいらないですよ、朝は食べない派ですし」


「えっ…」


「いや、やっぱり食べますよ、おにぎり食べたい気分になりました」


そんな悲しそうな顔されて、食べないですと言い切ることができるわけがない。お嬢様を泣かせたやつを血祭りにあげてやると、黒服の人が来そうで怖いし。

ただ、俺もこのお嬢様の悲しそうな顔は見たくないから、たまには朝に買って食べるのもいいかもしれない。まぁ一緒に食べる訳では無いが。そもそもお嬢様が今買ったのは恐らく昼食になるはずだ。


「…買いすぎじゃないですか」


おにぎりを根こそぎカゴに突っ込んでいるお嬢様をみて声をかける。

放っておいたら棚のおにぎりが無くなってしまう勢いだった。


「えっと…いっぱい食べてほしくて」


「その、自分の分は自分で買いますから」


「駄目ですよ、お世話になっているのでここは私が払います」


抵抗しようかと思ったが、お嬢様の目の圧にやられ、抵抗は諦めた。


「じゃあお願いしますけど、流石にこの量は食べきれませんので」


そういって、棚におにぎりを戻す。


「今日もコロッケ買いますか?」


レジへ向かいながらお嬢様に問いかける。


「はい、今日は2つですね」


多分俺の分だろうなぁ…。まさか歳下のお嬢様に奢られるという経験ができるとは…そんな経験したいと思ったことは無いが。



ただ、このお嬢様が凄く嬉しそうなのでいいかと能天気な思考をすることにした。





「…あの、コロッケを2個ください…」


注文する際は緊張していたようだが、無事に言えてよかったと、また立ち位置が保護者になってしまった。


会計を終え、軽く挨拶をしてから店を出る。2人とも、ふーん…みたいな視線を送ってきていたが受け流すことにした。



「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


購入してもらったおにぎりとコロッケを受け取る。


「お嬢様はこれから学校ですよね、時間大丈夫ですか」


時刻は8時10分。お嬢様の高校が、何時までに学校に到着しなければいけないのかは分からないが、大抵の学校は30分くらいには着いていないといけないと思う。


「お嬢様と呼ぶのはよしてください。…そうでした。今日は店員さんがいなかったので、コンビニに入るのに時間が…」


「あの、自転車使いますか」


「え?その悪いですよ。それに私、自転車に乗ったことがないので…」


上手く乗る自信がないと小声で話しを続ける。

その間にも時間が進み、お嬢様の遅刻へのタイムリミットが迫る。


「じゃあ、今日の朝飯のお礼ってことで乗ってください。高校の近くまで連れていきますから」


「ふぇっ…そのそれは恥ずかしいので…」


「遅刻しますよ、ほら後ろに乗ってください」


恥ずかしがるお嬢様を後ろに乗せ、自転車を漕ぎ出す。極力人目につかない裏道を進みながら目的地へ。

自分で乗せておきながら、これお嬢様の関係者に殺されるんじゃないかと冷や汗がたれてきた。やっぱりあまり関わりすぎるのはよくなかったかと、ふと後ろを振り返ると黒髪を靡かせたお嬢様と目が合った。


「えへへ…」


恥ずかしさを抱えながらも、細くなった瞳をしていた。

いや、こんな顔みといて関わるのをやめるのなんて無理なのでは。多分俺じゃなかったらお嬢様の身の保証はされてないぞ。


それほどまでに、艷麗な彼女が明日もコンビニ来てくれるであろうことを楽しみに、自転車を漕ぐスピードを上げた。


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