お嬢様が毎日コンビニでおにぎりとコロッケをカードで買っていくんだけど

@kinokogohan

第1話 お嬢様以外に適用される来店理由「親が弁当作らなかったから」

「バツボロの12ミリ2個」


「はーい、ありがとうございまーす。会計1200円ですねー、はいちょうど頂きます。ありがとうございましたー」


コンビニエンスストア、大体の人は生活していくなかで1度は利用したことがあるスポットである。俺は現在、そんなコンビニエンスストアのアルバイト、その中でも早朝コンビニバイトに勤しんでいる。基本的には、出勤の時間帯の客や、めちゃくちゃ早起きな高齢者が多い時間帯に勤務しなければならないアルバイトだ。時給は夜勤ほどではないが、日勤よりは高い。

個人的には早起きができて、健康になれる上に、お金も稼げるため最高の仕事だと思っている。なお面倒な客は考えないものとする。


そして勤務時間も比較的短いので、バイトを上がったら一日を優雅に過ごせるのも早朝バイトのメリットだ。ちなみに夜勤だと陽の当たる時間に上がって日が落ちるまで眠ることができるのがメリットであり、デメリットだと思う。


ちなみに俺の歳は20歳の大学3年生だ。1、2年のときに単位を詰め込んで単位を取得できた甲斐あって、3年からは比較的楽になったので始めたバイトである。


「すみません、レジいいですか?」


「あ、すみません、ただいま」


しかし、早朝バイトには問題点がある。夕方など人の多い時間帯は、3、4人体制になるのだが、早朝は2人体制ゆえに少しレジを離れるのが難しい。商品を補充しようとしても、お客さんが現れてしまう。早朝だって夕方と同じくらいとは言わないが客足は多いのだから、だれか1人でもシフトに入ってくれないものだろうか。


「てか、今日の数学のテストの勉強したー?」


「全く!ノー勉よノー勉」


そんなことを考えている間に、女子高生2人組が来店だ。出勤前の客と同様に、登校前の学生もまあまあの割合で来る時間帯である。


だから、女子高生に話しかけられたり…なんてアルバイトを始めた当初は思っていたが、勤務してから早2ヶ月。何も無かった。

むしろ顔を覚えられている気すらしない。こっちは覚えているというのに。やはりそういうイベントはイケメンに限るのだとアルバイトから社会の理を学んだのだ。


「いらっしゃいませー」


今度も女子高生が来店。

来店したのだが、1つ注意点がある。

それは、ただの、普通の、女子高生ではないことだ。

20年もこの町に住んでいれば、高校についての知識は無意識のうちに十分に増えていく。例えば、A高校はスポーツの名門、B高校は偏差値がめちゃくちゃ高い、C高校は男子校、といったような知識だ。自分の卒業校よりも詳しくなることもあるくらいだ。


そういった知識がある俺にとっては、今来店した女子高生の着ている制服をみて、瞬時に気づくことがある。


超お嬢様高校の制服であるということに。



普通お嬢様って朝からコンビニ寄らないよね?そもそも送迎の車とかで学校行くだろ?しかも1人っきりってありえなくない?

そんな疑問がコンマ数秒もしないうちに増えていく。


「あ、すみません。こちら2点で250円です」


考えごとをしているうちに、別のお客がレジに来ていた。いかんいかん、出勤前の客は無駄に時間がかかるとネチネチと嫌味を言ってくる割合が高いからな。アルバイトを始めた当初のレジで経験した出来事を思い出し、反省する。


それから数分が経ち、客足が無くなった気がする。商品の補充でもしようかと、店内の様子を確認しにレジを出る。

よし、これで店内のお客はいなくなったかな…。当たりをパッと見回して確認する。


いないかと思い、出入口近くの陳列棚付近を最後に確認する。

すると、さっきのお嬢様がまだいらっしゃった。

なぜか雑誌コーナーへと侵入し、そしてきょろきょろしている様が見て取れた。


コンビニ初めてなのかな?多分初めてだろうな。初めて家にやってきた猫や犬を見ているかのような感覚に陥った。

それと同時に、はじめてのおつかいを見る親御さんの気持ちがわかった気がした。

そのせいで、微笑ましい目で見ていたら、こちらに気づいたお嬢様と目が合った。


「…あの、申し訳ありません。コンビニのおにぎりを購入したいのですが…、ど、どうすればよろしいのでしょうか…」


か細い声をかけながらゆっくり近寄ってきた。


「えっと、おにぎりならこっちにありますよ」


手で場所を示しながらおにぎりが陳列された棚まで誘導する。


「わぁ…これがコンビニのおにぎりというものなのですね」


目がきらきら輝く、という表現は漫画や小説でしか使うことのない表現で、現実でそんな様をしている人なんて、これまでいなかったので、ピンとこなかったが、今初めてわかった気がした。このお嬢様の目はきらきら輝いてると思う。すごい愉しそうな表情しているし。



「ところで、どれが美味しいのでしょうか?種類がたくさんあって迷ってしまいます」


「えっとウチでよく売れてるのは、鮭のおにぎりと高菜、ツナマヨだから…これとこれとこれですね」


実際、このお嬢様の味の好みが分からない以上、聞かれても困る。というかアレルギーなんて持たれてたら、俺が勧めたおにぎりで重症になって、黒服の人に連行されるという最悪なケースが発生するため、確認は絶対に、しないといけない気がした。

瞬時に質問に移る。


「お嬢様はアレルギーとかないですか?」


「えっと…お嬢様と呼ぶのはよしてください。私は普通の高校生ですので…。アレルギーは特にございませんので、今勧めてもらったのを買うことにいたします」


そういって出口へ向かうお嬢様。

一瞬スマートすぎて思考が停止していたが、会計を済ませていないことに気づく。

あまりにも堂々とした窃盗に、実は会計を終わらせたのではとまで思ってしまった。むしろ窃盗ではないとまで思ってしまった。


「すみません、一応会計をしないといけないんですよ」


体を低くして媚びるかのように発言した。なんか三下っぽいな。

でも相手がお嬢様じゃ仕方ないだろう。


「あ、そうなのですね。てっきり店を出ると同時に会計が終わるシステムなのかと。すみません、こういった場に足を踏み入れたことがなくて、疎いもので申し訳ありません」


やっぱりガチのお嬢様じゃないか。日本全国の高校生が、コンビニに足を踏み入れたことがない割合なんて小数点くらいじゃないだろうか。頻繁にはコンビニに行かないけど、経験がないなんてのは多分お嬢様やお坊ちゃまくらいだろう。まぁ、コンビニに行ったことない人の統計があるのか知らないが。

しかもだ、話には聞いたことがあるが、実際には知らない謎の最先端システムについて話していたことも気になるところだ。


「あの、このケースに入っているものはなんでしょうか」


興味を持ったのか、さきほどのおにぎり同様に目を輝かせて、横に立ちっぱなしになっていた俺に問いかけてくる。

というか横顔が綺麗すぎてやばいんだが。


「えっと、揚げ物ですよ。店内で調理したチキンやコロッケ、ソーセージなどを売ってるんです」


「購入してもよろしいのでしょうか」


俺の言葉を聞いてさらに目を輝かせ、ぐいっと近づかれたので距離も近くなり、顔を直視するのが恥ずかしくなる。


「…大丈夫ですよ、どれがよかったですか?」


フライヤーの容器の近くにいるから体が熱くなっているのだと思いたい。むしろそう思わないと顔が紅く染まってしまいそうだ。


「このコロッケをいただきたいです」


「かしこまりました」


ということで、おにぎり3つとコロッケを購入されたお嬢様。


「合計で440円です」


「支払いはこれで大丈夫ですか?」


…絶対お嬢様だろ。


支払い方法を確認してくるお嬢様の手元には真っ黒なクレジットカード…そちらのカードって上限とかないやつですよね。俺の使ってる上限10万円のクレジットカードと比べるとカードの光沢が違う。



「ありがとうございました」


無事に会計を済ませたお嬢様がレジを離れ…なかった。


「初めてのコンビニでとても怖くて、どうしたらものが買えるのか分からなかったのですが、素敵な店員さんのおかげで凄く楽しい買い物になりました。ありがとうございました。また明日も来ますね」


律儀にお礼の言葉を告げてくれた。

そう言って微笑みながら店を出ていくお嬢様をみて、こんなお客さんばかりならコンビニバイトの求人はすぐ無くなるだろうなと感じた。

そして、彼女の微笑みと感謝の言葉を頂いてから思うことはただ1つ。



まじでコンビニバイトやっててよかった。女子高生と、しかもお嬢様とお話できたのだから。

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