第11話

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その時、べーさんにつながってる医療機器のツーという音がバスに響き渡った。医療従事者が「べーさん」と慌てて前方に向かった。べーさんの唇が縦に割れていた。

医療従事者は心臓マッサージを行う。運転手は沙代ちゃんがおかしくならないように抱き締めていた。美しい星空はそんなバスを穏やかに見守っていた。

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「ここでさよなら」運転手がおかしくなりそうな沙代ちゃんを膝に乗せてあの二人が出会った場所へと運転した。バスの外には、今別れたばかりと言わんばかりの理子がバスの中を覗いていた。「嫌だ絶対」という沙代ちゃんを「このバスの中の時間はぐちゃぐちゃだから」また生きてるべーさんと会おうよと沙代ちゃんを下車する様に促した。

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「沙代ちゃん大丈夫、一体これ何?」理子が沙代ちゃんの体を守る様に抱き締めながらバスを降りる。バスは異空の彼方へと消え去った。映画館のある最終の電車の駅で、沙代ちゃんは理子にしがみつかれていた。最後に見たべーさんの唇の縦に割れていた痕が二人を夫婦だと示していたのだが「いやぁ」と沙代ちゃんは絶叫した。

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それから月日が流れ、沙代ちゃんは25歳のレディに育っていた。理子がつきそいで、また映画を見ることになってて、沙代ちゃんはあの夢の様な想い出を胸に噛みしめた唇の割れや噛みつかれた右の耳の痛みやアソコに感じた夫婦の愛を思い出し涙した。気づかない理子は体の弱い沙代ちゃんをエスコートして最終駅に降り立った。

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その時、駅の降り階段の場所に、忘れられないオレンジ色のバスが停まっていた。右手を振り切り沙代ちゃんはバスの中央入口から座っているのが見えるべーさんの姿を見つけてしまった。「速く出して」と沙代ちゃんは理子を突飛ばしバスに乗り込んだ。べーさんは「僕の妻君殿」と言って沙代ちゃんの体を抱き止めた。バスは閉じられ異空の道へと進む。「言ったでしょ」「このバスの中の時間はぐちゃぐちゃだからって」笑う運転手と暖かな目の医療従事者に包まれて二人は硬く体を抱き締めあった。そのべーさんの唇には割れた痕が無かった。




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さようなら、べーさん【ノベプラ初掲載】 宝希☆/無空★むあき☆なお/みさと★なり @nkomak

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