第4話 トラブった!

淡いピンク色のリボンを纏った箱を前に、私は大きな溜息を零した。


「はぁぁ… 」


なんてことだ。

どうしたんだよ。へい!


自分なりに大切に扱ってきたつもりなのに……


これじゃあ、迎えに行けない。




 仕方なくロードサービスを呼び、車をみてもらうことにした。


愛用の営業車が故障した。

エンジンを動かそうとするとキュルッと音が出て、あとは動かない。何度キーを回してもキュルだけ。


今日、陽(はる)はお客様への納品を済ませて、直帰するつもりだったが、これでは次の待ち合わせに間に合わないかも知れない。


私の恋人-真琴-の教えどおり、車での移動時間には余裕を持たせている。でも故障することまでは考慮に入れていない。


残念ながら、今出来ることといえば、待ち合わせに遅刻するかも知れないことを伝えることだけだった。




『ごめんなさい、お迎え遅れそう。時間がわかったらまた連絡する』


『慌てないでいいよ。どうしたの?』

『エンジンがかからない』


『今どこ?』

『最後のお客様のところ』


『私が行こうか?』

『レストランが遠くなる』


『わかった、連絡待つね』


エンジンがかからず暖房が入らない車内は寒い。膝掛けでも積んでいればよかったのだろうが、今は無い。


電話してからサービスマンが駆け付けてくれるまでは30分程度だった。

調べてすぐにバッテリー上がりが原因と分かった。

車内の暖房やライトなどの使用がバッテリーに負荷をかけることと、それ自体にも寿命があるそうだ。

明日、会社でバッテリー交換を相談してみよう。


車は少し充電してもらうとエンジンがかかった。しばらくはこのままエンジンを切らずにいたほうが良いとアドバイスをもらい、代金を支払い、お礼を伝えた。


『直った。バッテリー上がりだった。これから向かうよ』


『車は会社に置いたほうが良くない?』


うーん、そのとおりなのかも知れないけど、後部座席に載っているものがこっそり運べない。


『車で行きたい』

『わかったよ』


さぁ出発しようとナビを見て驚いた。到着予想時刻が待ち合わせ時刻よりも40分も遅い。

どうやら渋滞がひどいらしい。


改めてギアをパーキングに戻すとメッセージを打った。


『レストランキャンセルする。40分遅れそう』

『わかった。しておくよ。途中で合流しよ』


『国道ルート?』

『そう』


『じゃあ、JRの駅で落ち合おう』

『ごめん、ありがとう。出発する』

『気を付けてね』


 はるは渋滞している国道を走りながら今日のこの後の事を考えた。


本当は車で真琴を迎えに行き、そのまま眺めのいいレストランで、アニバーサリーを祝うつもりだった。


今日は二人が交際を始めてからちょうど一年。その記念に美味しいものを食べて、サプライズプレゼントを渡すつもりだったんだけど、上手くいかなかった。

やっぱり私って少しどんくさいのかな。沈んだ気持ちで待ち合わせ場所に着いた。




コンコンッ


窓を叩かれて、そちらを見ると真琴が覗きこんでいる。ドアロックを解除すると助手席に乗り込んできた。


「お疲れさま、大変だったね」

「ごめんなさい、キャンセルになっちゃって」


「気にしないで、それより、ねぇ郊外に向かおうか」

「う、うん。どうしたの」


「きっと、満天の星空だよ」

「そっか、うん!見てみたい」


今日は気温が低いので空気が澄んでいるようで、街中のここでも星が見える。きっと郊外へ行ったらもっとたくさん見えるだろう。


真琴がセットしたナビに従い、夜空が綺麗に見えそうな場所を目指して出発した。




道中、真琴が言った。


「待って、あそこのお弁当が美味しそう」

「テイクアウト?」


「嫌?」

「ううん、美味しそう」


「買ってくるね」


真琴はお弁当とお茶を買ってきてくれた。


しばらく走ると車も減り、街灯やお店の明かりも減ってきた。


「はる、この先の公園の駐車場とかどうかな」

「入ってみますね」


「うん、大丈夫そうだね

寒いから中で食べようね」


二人はお弁当を食べながらいつもどおり今日の出来事や、はるの運転の腕前が上達したことなどを話した。


「私、上手くなりましたか?」

「うん、安心して乗っていられるよ」


「うれしいー♪」

「レストラン、残念だったね。お店の人もまたどうぞって言ってくれたよ」


「そうですね。がっかりです」

「少し外へ出て星を見ようか」


「えっ、ちょっと待ってくださいね」

「ん、どうした?」


はるは車を一旦降りると、さっき後ろに隠した箱を取り出し、もう一度、運転席に乗り込んだ。


「真琴っ!

こ、これ、プレゼント」

「一周年記念ってやつ?」


「うん。真琴も覚えていてくれたんだ!」

「まぁね、手帳に書いてあるよ」


はるは満面の笑みになった。


真琴は綺麗に飾られたリボンを丁寧にほどくと、包装紙をとり、箱を開けた。


「はる~♪」


「気に入ってもらえそう?」


「うん♪気に入った!」


真琴はそう言うと、今着ているものを脱ぎ、代わりに陽からのプレゼントを着た。


「どう?」


「カッコいい♪似合ってる♪」


箱の中身は大人っぽいピンクブラウン色をした縄編み模様のセーターだった。


私が真琴の反応を見て喜んでいると、真琴がバッグから袋を取り出した。


「はる、これどうぞ」


「!?」


袋を開けて見ると、大人っぽい色使いのストールだった。まさか真琴までプレゼントを用意してくれているなんて!


「素敵な色!いい手触り!」


「じゃあ、少し星を見に行こうか?」



二人はそれぞれのプレゼントを身に付けると、コートをはおり、車を降りて、澄んだ星空を見に行った。


今日はトラブったけど、二人で過ごせたし、満天の星空も眺めている。やっぱり真琴といると素敵な時間になるなと思ったはるだった。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はる、ドライブに行こう! tk(たけ) @tk_takeharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ