Another:1
大きな砂埃が晴れて、各々の姿を見せる。
「へぇ、これを相殺するのね」
オルレアーヌは淡々と口を開く。
「当たり前だ。たかが魔力の風だろ」
「面倒だわ」
オルレアーヌが指を鳴らすと、彼女の姿がブレて2人となった。
「「別々に対処しましょうか」」
空間は2等分され、ノクスとそれ以外の者に別けられた。
「させるかよ!」
ノクスが掌に魔力を溜めるが、オルレアーヌはそれを許さない。
「接近戦は苦手でなくて?」
オルレアーヌの鋭い蹴りがノクスの腹を狙うが、寸前で分厚いゴムを蹴った感触に阻まれる。
なんて分厚い魔力壁!
「それなら見当違いだぜ、お姫様」
ノクスは放り出されたオルレアーヌの脚を掴んで、固定する。
「《
半径10mほどの巨大な炎の柱がオルレアーヌを呑み込む。
「《分身》したお前が俺に勝てるわけねぇだろ。お前の5割は今の俺の3割にも満たねぇぜ」
「あら、それならアンタも見誤ってるわよ」
ノクスの背後に大きな衝撃が走る。自身が殴り飛ばされたと気づいたのは、吹き飛ばされてからコンマ数10秒後だった。壁に激突する直前で、
「アンタはあたしの1割にも満たないわ」
空間は完全に遮断され、ノクスとオルレアーヌの1対1の構図となった。
──.....
「なんなのだ貴様は!」
ブルーゴルは叫びながら、杖を構える。
「あら、そんなに声を荒げなくても宜しくてよ。お初目にかかりますわね、
「悪魔の戯言など聞くものか!《
ブルーゴルが魔法を詠唱するが、一向に発動しない。
「か、《かき消された》のか.....!? この儂の詠唱が!?」
ブルーゴルはその衝撃の大きさにただ呆然とすることしか出来ない。
「あらまあ、この程度、しかも無詠唱の《不成戎》が通じてしまうとは、お話になりませんわよ、御老人」
「《紅鬼・
背後をとったロックスが剣技を放つが、霧散したオルレアーヌの身体に刃はただ空を切った。
「そんなに気配を撒き散らしていたら、赤子でも気づきますわ」
オルレアーヌはロックスの頭を掴み、投げ飛ばす。
「がはっ!」
ロックスは受け身すら取ることができず、壁に激突し、意識を失くした。
「今は殺すつもりなどありませんから、ご心配なく。そして全人類に伝えなさい。これ以上愚かな行為を重ねることなく、自身らの国へ留まりなさい」
3人の子どもらはその光景にただ狼狽える事しかできなかった。
....───
「《
「《
深紅の槍と煌々の剣がせめぎ合う。弾き、弾かれ、無数に繰り返される剣戟は火花を散らして、頬を焦がす。
「《
ノクスの掌から神の威光を纏いし霆が轟く。
「《
オルレアーヌは光のない漆黒の雷でそれに応戦する。
─バリバリバリ......
周囲の空気を帯電させながら、2つの魔法は対消滅した。
「くそったれが! ここまでやってもこいつと互角なのかよ! これじゃ到底魔王に勝てるわけねぇじゃねーかぁ!」
「アンタ、どこまで知ってるの? アイツの存在は未だ魔族だけの機密情報よ。アイツが自分の情報を漏らすのを許すはずがない。それこそ、あたしたちの事を間近に見てないと知りえない事だわ」
「知ってんだよ。なにもかも、な!」
ノクスは剣の柄を逆手に持ち、半回転させながら詠唱を重ねる。
「仕方ねぇな。見せてやるよ、俺の全力を」
剣先に魔力が集中する。
「なら、あたしも死なない程度に殺してあげ───(お姉さまぁぁぁぁ!!!!) フランシス!?」
何かに気づいたオルレアーヌは転じて、瞬と消えた。
「おぉ?」
さすがにノクスもこれは読めなかったようで腑抜けた声を漏らした。
それから、オルレアーヌがここへ戻ってくることはなく空間は繋がり、マーカスを除いた全員は合流する事ができた。
「みんな!」
「ノクス! よかった!」
ノクスとカリーナ達は手を取り合い、再会を喜ぶ。しかし、試験官らとラディの顔は浮かない。
「マーカス様は? マーカス様! お近くにおられるならお返事を!」
「なんという事だ。もはや、魔族がここまで......」
「これは一刻も早くに王に報告をしなければなりませんね。彼女の力が必要になるでしょうから.......」
「マーカス様!!!!」
ラディがいくら叫んでも応えは返らない。心臓の鼓動は早くなりつつも、体温が急激に冷えていく。
「無駄だぜ、従者さん。 マーカスはもう帰って来ねえよ」
冷や汗を滴らせ、呆然と立ち尽くすラディにノクスが呼びかける。
「黙れ。一介の男爵風情が軽々しくあの方の名を口にするな」
ラディは眼を剥き、ノクスを射殺さんばかりに睨みつける。
「いいか、はっきり言ってやる。 マーカス・ルデスオーガはもう二度と現れない。今頃、アイツは死んでるか、魔族の仲間だ」
「それ以上、彼女を刺激するなノクス・ローン!」
叫んだのはブルーゴルだった。
───────カラン
ナイフだった。それは汚れを知ることなく地に落ちて、流れ出る紅に穢れた。
「ラディ、貴女......」
カリーナは絶句した。
ラディは誰の目にも留まることなく、懐からナイフを取り出したかと思うと、自身の舌を噛みちぎって気絶したのだ。
「なるほど、これもあのお人形さんの躾の賜物だな。主がいなくてもしっかりと自制機能が働いてやがる」
ノクスは倒れたラディを抱えて出口へと歩き出す。
「それと、あの爺さんも少しボロが出たな」
青い顔をしながら汗を拭うブルーゴルを一瞥すると、誰にも見えないようにラディの舌に回復魔法を2回施した。
さて、これからどう動くべきか。とりあえず、あの戦闘狂一家からこの子を引き離すか。何にせよ、お呼び出しをくらうだろうからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます