第10話

 おそらく、この状況を理解できている者は誰もいない。言い出しっぺのあたしですら自分の行動が理解できない。考えるまでもなく、勝手に言葉が紡がれて、彼はどんどん


 とも、きっとこんな風に過ごせていたのかしら─


 ──.....


「違う。魔法は理論よりも感覚よ。頭でっかちになった所でそれを扱う技量センスがなければ元も子もないわ」


「お姉様は天才肌だから、私たちと視点が違うの。ガルマ、まずは簡単な式を時間をかけて理解しながら展開しましょう」


 お姉様方から魔法について教えて貰っているのだが、2人の意見が食い違いすぎて混乱してしまう。


「そんなに一気に言われても分かんないよ......」


「だーかーらー、あたしのをよく見てなさい。いくわよ、《火球ライア》」


 オルレアーヌ姉様の手のひらに小さな火の玉が出る。


「後はこうやって魔力の調節をするだけで、温度、大きさ、速さ、密度を変えられるわよ」


 姉様は自由自在にその火の玉を操る。正直、と言われてもその部分が具体的にどうすればいいか分からない。


「ほら、お姉様の感覚で話すからガルマが分かってない。魔力の調節だって、ちゃんと計算して効率よく流さないと暴走するんだから」


「そんなこと、魔法を使う度に考えてたらまともに戦えないじゃない」


 徐々に議論がヒートアップしていく。


「あんたもそろそろ座学に頼りっきりの戦い方を止めなさい。だから、いつも想定外の事態に対応出来ずにあたしに泣きつく羽目になるの」


「お姉様だって何も考えずに突っ込んでいつも痛い目見てる!もっと、戦略を練ってから戦えばもっと楽に勝てた勝負だって沢山あった!」


「でも、結局それも全部あたしのやり方で勝ってるから。その中にはあんたが投げ出した後始末もあるのよ?」


 もはや、ガルマを蚊帳の外にして2人は口論を加熱させていく。


「きょ、今日はフランシスお姉様に教えて欲しいな」


 聞こえてるのかどうか分からないが、とりあえず口に出してみる。これで丸く収まればいいけど。


「─ぅぅぅ...... ッ!本当っ!?」


 フランシスがやや劣勢だったが、ガルマの鶴の一声で勝負が決まった。


「ガルマは賢い子。ちゃんと物事の仕組みを理解してる」


「ふん、別にいいわよ!あんたら2人で仲良くお勉強会でもしてなさい! 天才のあたしにはそんなの必要ないけどね!」


 オルレアーヌは ドスドス と音を立てて歩き、大きな音を立てて扉を閉めて部屋を出ていってしまった。


「あっ......」


 結局、オルレアーヌお姉様を怒らせる結果となってしまった。


「気にしないで。あれくらいなら一晩寝たら忘れると思う。お姉様、沸点は低いけど冷めやすいの」


 フランシス姉様は勝ち誇ったように鼻を鳴らす。こういう諍いは日常茶飯事なのかもしれない。


「そんなことより、さっきの続き。《火球ライア》の式は〜〜〜」


 それから、丸1日フランシス姉様の講義を受けて、3つほど初級魔法を扱えるようになった。


「中級魔法はこの応用、上級はさらにその応用だから基礎さえしっかりと身につければそれほど難しくはない」


「ありがとう、フランシス姉様」


「また明日も私が教えてあげる」


 僕自身も魔法はフランシス姉様から教わった方が良いと思っている。オルレアーヌお姉様は見る限り主観的な教え方だから、とてもじゃないが身につかない。


「カチカチカチカチ」


 牙が独りでに擦り合い、音を立てる。それにこのは?


「お腹が空いたの? あ、確かに起きてから1度も食事を摂ってない。すぐに用意しましょう」


 フランシス姉様に手を引かれ、食卓へと案内される。


「今はこんな物しか出せないけれど、口に合うかしら?」


 それはパック詰めされた血液だった。こんな豪邸なのだから、僕はてっきりとんでもない御馳走が出てくると思っていたから、面を食らったというか、拍子抜けしたというか。


「ごめんね。


 その一言で何となく脳裏を掠めていた違和感の正体が輪郭を帯びて、顔を出す。


 ─吸血鬼はその下に多くの眷属を持つ─


 なら、


「もしかしてこれ、なんじゃ─「あんたはそんなこと気にしなくていいの」


 オルレアーヌお姉様がいつの間にか僕の隣に座っていた。


「無くなれば、またあたしたちが採りに行けばいい。それに、たった1人分増えたくらい痛くも痒くもないわ」


「でも─「つべこべ言わないで食べなさい。あたしにとって、あんたがお腹空かせてる方がよっぽど問題なのよ」


「オルレアーヌお姉様......」


 僕は恐る恐るに口をつけて、中身を吸い上げる。味はお世辞にも美味しいと言えるものではなく、身体に入れる度にような感覚に陥る。でも、それが姉様たちが施してくれた優しさだと思うと、不思議と充たされていった。


「お姉様、機嫌は直った?」


「あんなの、怒った内に入らないから」


 しかし、オルレアーヌお姉様の表情は未だに堅い。


「それより、そろそろガルマに話しておかないといけないわね」


「本当に話すの......?」


 先程まで口元が緩んでいたフランシス姉様の顔が一気に強張る。僕もその緊張に呑まれて言葉が出てこない。


「ええ、













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