第2話
「試験内容は以前説明した通り、この学園からボヌル山の往復までの戦闘内容とモンスターの討伐数を評価する。近接武器は鉄製、魔道具は第3級まで使用を認める。各組、2人の監督者をつける。彼らには公正な評価をするように常々申しているが、万が一、不正な評価であると異議を唱える場合、試験終了後に申し立てを認める。また、生徒による不正行為は見つけ次第、即刻不可とする。以上、生徒らの健闘を祈る!」
主任の挨拶が終わると、各々、監督者の元へと向かっていった。
「それでは参りましょうか」
「いいのか、ラディ。俺に付いてきても辛いだけだぞ」
この試験は従者に限り、主の組に編入することが認められた。元々、ラディとは別の組であったが、彼女からの強い要望で同じ組となった。
「主にお支えするのが従者の勤めですから」
彼女に俺が疎まれている姿を見せたくない。それに、あちらにはギルとカリーナがいる。はっきり言ってこの勝負、勝ち目は薄い。それでも、彼女が傍にいてくれるなら
「行こうか」
勇気が湧いてくる。
-..--
「うぉっふぉん、この組は優秀な生徒のみが集められた組である!」
白髭を蓄えた片眼鏡の監督の名はブルーゴル宮廷魔導師。国で100人しか任命されぬ、れっきとしたエリート。
「して、何故男爵ごときがここにいる?」
そして、かなりの血統主義者だ。
「爵位で実力は測れませんよ」
もう1人の逞しい強面な剣士は聖騎士第9師団長、ロックス・アルゴリ。齢25と若くして師団を率いるほどの実力者だ。
「第一なのは君たちの命。私たちが危険だと判断すれば、止むを得ず手を出させてもらう」
「この組ではその心配は要らんと思うがな」
「では、早速だが出発しよう。君たちはもう慣れているだろうからね」
先頭にロックスさん、殿にブルーゴル師を置いて、俺たちは都を出た。
「マーカス君」
彼らから離れて歩いていると、わざわざロックスさんが話しかけてきた。
「君のことは先生や紅鬼卿から常々聞いているよ。なんでも今はカリーナ嬢を賭けてあの男爵子息君と勝負をしているんだって? 若いねぇ」
俺の母、オウカ・ルデスオーガは現在、軍部の特設戦線部隊総括長を務めている。元々は聖騎士団にも務めており、剣聖という名誉職を賜った後、即辞任し、戦線を広げるために件の特設部隊を創設して、今も何処かで戦っている。
「ええ、まあ」
「世間では色々言われて大変だねぇ。紅鬼卿も頭を悩ませていたよ」
「俺はルデスオーガの名にかけて、誰にも恥じぬ生き方をしているつもりです」
「その辺り、今回の試験で見極めさせてもらうよ」
その笑顔に温もりはない。騎士として、俺を本気で詰めるつもりだ。
「ほら、早速魔物が出てきたよ」
彼が指さす方向を見れば、ジャックウルフの群れがこちらに向かってきているのが見えた。
「ラディ、後方支援を頼む」
「はい」
剣を抜き、一気に踏み込む。
《紅鬼・薙一閃》
幼き頃から叩き込まれた剣技。この流派こそ、ルデスオーガが紅鬼卿と呼ばれる所以。跳ねる紅色の装飾を身に纏い、戦場に舞う姿は鬼の如し。
一気に群れの3分の1ほどの首を跳ばす。
「ほぅ...!」
ロックスは感嘆の息を漏らした。それは討伐数ではなく、マーカスの型の綺麗さに驚いたのだ。
マーカスは流れるように次の技を繰り出そうとする。
《紅鬼・─「《ライア!》」
次の瞬間、目の前が炎の海と化す。
「熱ッ!」
その禍炎はマーカスにも降りかかった。
「やっちまったあああああ!」
右前の方で1人の男が頭を抱えて叫ぶ。
「魔力の出力を間違えちまったあああああ!!!」
ノクス・ローンだ。あの男か、こんな馬鹿げた魔法を放ったのか。
「《
ブルーゴルは特級の水呪文を放って、炎を鎮火させた。
「マーカス様!」
ラディが心配そうに駆け寄ってくる。
「今、治療致します!」
脇目も振らず、腕の火傷に回復呪文を唱えてくれる。
「男爵の小僧、貴様、今何をした?」
ブルーゴルの顔が強ばる。ロックスの眉間皺もより深い。
「その、違うんすよ。魔道具とかは使ってなくて俺はただ普通に初級魔法のライアを─「そういうことを言ってるのではない! なぜ、前衛が出ておるのに広範囲の攻撃魔法など使ったのかを聞いておるのだ!!」
「今の君の行動は決して褒められるものではない。先程はマーカス君が咄嗟に避けたから良かったものの、1つ間違えれば死人が出ていた。 周りが見えない、自分の力すらまともに制御できないのであれば帰った方がいい。他の者の邪魔だ」
豆鉄砲を食らったような顔をして固まるノクス。まさか、叱られるとは予想だにしていなかったのか。お前は今、俺を殺しかけたんだぞ。
「お待ちください、監督殿! 彼はほんの少し失敗しただけです! たった一度の失敗で失格とはあんまりではありませんか!」
カリーナが2人に食い下がる。
「ほんの少し? たった一度? それで命を落としたら誰が責任を取るんだ。マーカス君が死ねば、ノクス君の首だけでは済まないぞ?ほんの少しの失敗で一族を巻き込むというのか?」
「ならば、僕たちが責任を取りましょう。先程の彼の行動は僕たちにも原因があるのですから」
「殿下まで.......」
困惑するロックスにブルーゴルが耳打ちする。
「ロックス坊、今は何を言っても無駄だ。無駄に殿下を刺激するのも後に響く。今は引き下がれい」
「はぁ。分かりました。いいかい?次はないぞ」
「「「ありがとうございます!!」」」
仲良し3人組が綺麗に頭を下げると、ロックスは喉を鳴らした。
何となく、察したよ。マーカス君
こちらを向いて悲しげに笑いかけてくるロックスさんに、恥ずかしさと情けなさで涙が出そうになる。
それから、休息を取るまで俺が魔物を狩ることはなかった。
俺が出る前に、彼等が一掃してしまうから。
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