第五話 ~譲れない理由がある~

 ヒデヨシとローズは、一人の兵士と供に街道を行く。


力強い体躯を軽装の鎧に包み、先頭を走る騎竜を操るのは、勇猛なる戦士。


ヒデヨシは騎竜にまたがり、後ろにローズを乗せている。


ローズは落ちないように、ヒデヨシの腰にしがみついていた。


二体の騎竜は、とある村へ続く道を真っ直ぐ進む。


「カール、少し早い、ローズが怖がっている」


「ローズマリー様が、申し訳ございません。少し急ぎすぎましたでしょうか」


カールと呼ばれた男性は、騎竜をなだめて速度を落とす。


「あっ、その、ヒデヨシ様、ありがとうございます」


ローズは、顔を赤くして手を離した。


「もう民家も遠くに見えてきた、ゆっくり行こう」


歩くなら一時間はかかりそうなところに、数件の民家が見て取れる。


民家の手前には小さな川、後ろには森を湛えた小高い山がそびえたっていた。





 村を囲む柵に、騎竜の手綱をくくりつける。


簡単な小屋とも言うべき民家が7~9軒、村と言うには少なく見える。


この村には特に名前は無い、首都から騎竜で一時間程度のところだが、少数が住むのみの村なのだ。


首都の穀倉地帯でもなければ、秘密の拠点でもなかった。


ただ日々を暮らし、余り物を首都で売って路銀を稼ぐ、名も無い村。


「さて、まずは話が出来るものを探さないとな」


ローズを騎竜から降ろしながら、ヒデヨシは話す。


「あの、ヒデヨシ様、村のものが」


ローズが見ている方向から、二人の男性が騎竜を伴う三人に近づく。


「街の戦士様ですよね、よくお越しくださいました」


体つきの良い、若い男性がカールに向けて声をかける。


「突然の訪問ですまないな」


「いえ、まさかこんなにすぐ対応して頂けるとは」


「対応・・・」


カールも含め、三人は言葉の意味が分からないように首を傾げた。


「盗賊の件でお越しいただいたのでは・・・」


壮年男性が不思議そうに、不安そうな表情で言葉を漏らした。





 村の中にある一軒の民家、二人と三人はその中で話しをしている。


「盗賊ですが、どうやら森にある狩猟小屋に住み着いてしまったようで・・・」


テーブルを囲んだ五人、椅子に座った壮年男性が話す。


壮年男性の前には、ヒデヨシとローズがテーブルを挟んで座っている。


「村への被害は出ているのか」


ヒデヨシが素早く状況確認する。


「はい、作物や道具がいくつか取られた事と、街道の商人が襲われたと聞いております」


「それで、つい先日スチュアート様宛にご報告をいたしました」


「なるほどな、ロイのやつ、分かってたからカールを付けやがったな」


「はあ・・・」


壮年男性は怪訝な顔をする。


「こっちの話しだ、それで人数はわかったりするか」


「見かけたのは二人くらいで、狩猟小屋も小さいですから、あまり多くは無いと思います」


「盗賊どもは、いつから居るかわかるか」


「それは何とも・・・、盗賊が住んでいる事が分かったのは三日前です」


「カール、対処するには増員が必要だ」


ヒデヨシは腕を組み、悩ましい顔を見せながら話す。


「魔法の知識があるものが理想だが、最低でも戦士を二~三名」


「状況的に、今夜奇襲をかけたい。すぐに調達できるか」


カールは、驚いてヒデヨシを見る。


「今夜ですか、なぜ急がれるのです」


「私たちは騎竜に乗って村に入ってしまった」


「盗賊に見られていた場合、撤収される可能性がある」


「なるほど・・・」


カールは、腕を組みながらうなる。


「カールはすぐに街に戻って人を集めてくれ」


「こちらへ戻るのは夜、明かりは付けずにこの民家に戻って来てほしい」


「了解しました、すぐに発ちます」


カールは急いで民家を出て行く。





 ローズは、ひそかに拳を握り、ヒデヨシを見た。


「わたくしも、ご一緒させて頂けないでしょうか」


「ローズ、盗賊は危険だ。それに、見たくないものを見る事にもなると思う」


ヒデヨシは、真っ直ぐとローズを見つめている。


「魔法なら、わたくしでもお役に立てます。盗賊を捕らえる事はできませんが、作戦とか魔法とか・・・」


「ローズ、正直に言う」


ヒデヨシは、ローズの手をとり言い聞かせるように話し始めた。


「私は盗賊を全員殺すつもりだ、収奪品の隠し場所を聞き出し、命乞いも無視して殺す」


ローズは言葉が出ず、息をのみこんだ。


「この村は重要な研究拠点にするつもりだ」


「盗賊を捕らえて罪を償わせても、村に対して逆恨みされかねない」


「不安材料は全て消す、非情で残酷なものを見せる事になる」


ローズは、ヒデヨシの手を握り返す。


「わたくしは、それでもここを譲るわけにはいきません。覚悟は今から致します」


「わたくしを連れて行ってください」


これから覚悟をすると言ったローズには、既に真っ直ぐな意思が見て取れる。


ヒデヨシは、その強い目を見つめ、言葉を返した。


「わかった、もう説得はしない」


「ヒデヨシ様・・・、気遣って頂いたのに、申し訳ございません」


「ローズの気持ちが伝わった、だから、くれぐれも気を付けてほしい」


「あの~、夜には討伐に向かわれるという事で、よろしいのでしょうか」


壮年の村人が、声をかけた。

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