第四話 ~勘違いから始まる恋~
ヒデヨシは、ローズと話しをするため、自分の住む民家への道を歩く。
ヒデヨシには一つの予想があった。
議事堂の図書室、そこで見つけた一つの本。
植物の育成方法、全三巻。第二巻のみが見つからなかった。
議事堂の図書室など、入室を許可される人物は限られている。
ましてや、本を持ち出す権限があるものなど、何人いると言うのだ。
昨日、ローズは一冊の本を片手に、鉢の植物を手入れしていた。
ローズは植物を育てる事を趣味としているようで、家の中には様々な植物の鉢が並んでいた。
食料生産のための研究。ヒデヨシはローズと話してみる価値があると感じていた。
ヒデヨシは、ローズと一緒に昼食後の紅茶を楽しんでいる。
「ローズ、鉢の花は綺麗に咲いたね」
「ええ、実はなかなか咲かせる事が出来なかったのですが」
ローズは、窓際に置いた鉢を手に取り、テーブルへ置いた。
「とある本のおかげで、ようやく咲かせる事ができました」
「花を咲かせるのに、苦労したんだな」
「是非、その苦労の過程について、詳しく聞かせてくれないか」
「え、花が咲くまでの事ですか。その、つまらない話しでよろしければ」
そういうと、ローズは紅茶のおかわりを用意した。
「邸に出入りしている商人なのですが、その方から花の種を買ったのです」
「なんでも魔人族国家カザルの花らしいのですが、綺麗な花を咲かせると聞きました」
「それで興味がわいて、通常通り、土と水をやりながら日光の下で育てておりました」
「ただ、何日たっても芽が出ません」
「始めは土が悪いのだと思い、土を変え、次は水かと思い、減らしたり、増やしたりしました」
「わたくしが思いつく事を試したのですが、それでも芽が出ることはありませんでした」
「わたくしは、その理由を知りたくて植物に関する本を読み漁りました」
「そして一冊の本にこう書いてありました。寒い地域の植物は、日光や温度がありすぎると発芽しないものがあると」
「カザルは年中気温が低く、また太陽が射す期間が極端に短い地域だと聞きます」
「それで、鉢を日光の射さない、少し気温の低い地下に置いてみたのです」
「驚くほど簡単に芽を出してくれたのですが、そのままでは花が咲きませんでした」
「いろいろ試してみたのですが、芽が出た後は、日光が無いと花を咲かせてくれないみたいなんです」
ヒデヨシは少し笑った。
「ずいぶんわがままな花なんだな」
「そうですね、でもすごい綺麗な花だと思いませんか」
そう言ってローズは、鉢植えを自分の顔に近づけた。
そこには四枚の白い花びらが、ローズの笑顔とともに揺れている。
「ローズ、君に任せたい仕事があるんだ」
「わたくしにですか」
ローズは、少し不安そうな表情を見せた。
「君は、咲かせるのが難しいこの花を咲かせた」
ヒデヨシが、テーブルの鉢を見る。
「君の探求心と、植物への愛を国に役立ててほしい」
「穀物や野菜の、生産効率を増加させる研究を任せたいんだ」
「そのような重要な役回り、わたくしでよろしいのでしょうか」
「私やロイも、出来る限り協力する」
「そして、私は君なら出来ると、そう思っている」
ローズは目を伏せ、押し黙ってしまった。
「ローズ」
ヒデヨシはローズの手に、自分の手を重ねた。
「なぜ・・・ヒデヨシ様は、いつもわたくしの手を取るのですか」
「わたくしの手は、他の貴族の女性と比べて綺麗なものではありません」
「土いじりばかりしていて、平民の手みたいだと言われる事もございます」
「ローズ、君の手がこうなったのはどうしてだ」
ヒデヨシはローズの手をつかみ、ローズに見せるように顔の前へよこした。
「私のために慣れない家事に取り組んだ時に、切ってしまったのがこの傷」
まだ治りきらない、左人差し指の傷をローズに見せる。
「手荒れは、他人任せにせず、植物の手入れを欠かさないからだ」
「君の普段の仕事ぶりは、この手に染みこんでいる」
「綺麗な手の貴族には、私が任せたい仕事を任せる事が出来ない」
「ヒデヨシ様・・・」
「特にこの手を馬鹿にするような貴族には、仕事を任せるつもりは無い」
「綺麗な花を見たい言って、金を出して買う貴族じゃない、自分で花を咲かせる君だから、任せたい」
ローズは、ヒデヨシの手を握り返す。
その目は真っ直ぐとヒデヨシを見つめていた。
「わかりました。ヒデヨシ様の期待に応えるため、精一杯努めさせて頂きます」
夜の闇の中、蛍光灯のような光がローズを映し出す。
光る魔導石は、魔力を込めて発光するように作られている。
ベッドと、簡単な机に椅子。
ローズは、民家の自室で一人考えていた。
ヒデヨシ様は、わたくしの事を良く見てくださっている。
深い優しさに、きめ細かい配慮。本当にお優しい方だ。
それに、わたくしを信頼して下さっている事を感じずにはいられない。
・・・わたくしの手を、褒めてくださる。
わたくしは、自分の手があまり好きではなかった。
ヒデヨシ様は、荒れたこの手を仕事の証だと言ってくださった。
本当に、わたくしの事を良くみてくださっている。
好きでもない癖に、この手をけなされる事には強い憤りを感じていた。
正体は分からなかったけど、自分を否定されているような気持ちを持っていた。
この手はわたくしの仕事の証、誇りを持って良いんだと背中を押されたように思えた。
わたくしは、ヒデヨシ様のお役に立ちたい。
わたくしをずっとお傍に置いてほしい。
星に願うようなその思い、ローズは両手を合わせ、祈りを込めて目を閉じた。
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