第二話 ~必然的な、政略の出会い~

 この世界に召喚され、一週間が経過した。


「ヒデヨシ様、朝食はいかがなさいますか」


金髪に青い目をした少女、白と青を基調とした服装。


ローズマリーは、朝の散歩から帰った私をにこやかに迎え入れた。


ヒデヨシ、学生の頃に親しい友人は、私の事をヒデヨシと呼んでいた。


私の名前、藤吉郎が由来のものだ。


「今日は燻製肉と、葉野菜がございますよ」


父親と同じように笑顔を向ける少女、とてもあの男の娘だとは信じられんな。


私はそんな感想を持っていた。





 一週間前。


「それでは三井様、概要は以上となります」


そう言って、ローレンタールは、残りの紅茶を飲みほした。


私も既に冷めた紅茶を飲む。


おおよその現状は理解する事が出来た。


先王の後継者、エドガー・ワイマーク。


先王都ジェロニアからそれほど遠くない、平凡な国家グリムウェル。


隣国の不穏な動きと、協定を結んだ同盟国の存在。


現状の国力で、王を立てた事を公表出来ないという事。


そして各地の王。


「ローレンタール、私は召喚された身だ」


ローレンタールは、黙って言葉を待つ。


「この世界に、私を知る者はいない」


「私は今後、ヒデヨシ・ハシバと名乗りたいのだが、構わないか」


ローレンタールは、緊張を解いたような笑みを見せる。


「ええ、構いませんよ。ヒデヨシ様」


一から全てを始める覚悟の表明。


私の由来を名乗る事にしたが、その由来を知られる事は無いだろう。


ここは、私の生きた世界では無いのだから。






  「それではヒデヨシ様、これをもって契約といたしましょう」


ローレンタールが席を立ち、三井改めヒデヨシに近づいていく。


「契約魔法と言っていたな」


ヒデヨシは、怪訝な顔をしてみせる。


「書面のみでも良いのですが、重要な件はこちらの方が良いと判断しました」


「僕たち二人だけが、互いに破棄する権利を持つ、言葉の魔法」


「互いの誓いを証明し、破棄した側が記録されるだけの魔法です」


「消したり、燃やしたり出来ない契約書、と言ったところでしょうか」


ローレンタールは右手を差し出した。


「魔法とやらはよくわからんな」


ヒデヨシは、差し出された右手に応じる。


「僕はヒデヨシ・ハシバ様が王に至る道を進む限り、その道を共に歩む」


「私はこの世界の王となる為、持てる力の全てを捧げる」


ローレンタールとヒデヨシの体が、淡い光に包まれた。


「この契約を魔導の始祖、名を失った大魔導士様へお預け致します」


二人の体から淡い光が消え、二人は握り合っていた手を離した。


「これで契約は完了です」


「今後ともよろしくお願いいたします。ヒデヨシ様」


「こちらこそ、よろしく、ローレンタール」


そう言うと、二人は再度握手を交わした。






 「ルシア、準備はできているかい」


ローレンタールは、扉前に立つルシアへ声をかけた。


「お話が良い方向に進んでおりましたので、既にお呼び致しました」


ルシアは礼儀正しく、敬意を持って答える。


「流石だねルシア」


「ローズ、居るかい、入っておいで」


ローレンタールは扉の外へ声をかけた。


「はい、お父様」


透き通った声が扉の外から聞こえ、すぐに開かれた。


長い金髪、前髪をまとめるためには鳥の羽を模したアクセサリー。


薄化粧の少女は、ヒデヨシをまっすぐ見ていた。


「この子はローズマリー・グリムウェル・スチュアート、僕の娘です」


ローレンタールは、ヒデヨシとローズマリーの間に入り、二人を仲介する。


「こちらはヒデヨシ・ハシバ様、僕たちが召喚した王となる方だ」


「ヒデヨシ様はこちらの世界に来て間もない」


「ローズにはヒデヨシ様の補佐と、お世話を任せたいが構わないかい」


「はい、お父様」


ローズマリーはにこやかに、跳ねるように答える。


「これからよろしくお願いします、ヒデヨシ様」


「私は右も左もわからない新参者です」


「ご迷惑をおかけするかと思います」


ヒデヨシは、ローズマリーに深い一礼を見せる。


「引き受けて頂いてありがとうございます。ローズマリー様」


ローズマリーは、慌てて顔を赤らめながら礼に答えた。


「とんでもございません」


「こちらこそ不束者ですが、末永くよろしくお願いします」


「ローズ、それじゃあ結婚の挨拶だよ」


ローズマリーはさらに顔を赤くした。





 似た者同士だなと、私は改めて思っていた。


私がローレンタールでも、娘を近くに着けただろう。


私が王となれば、召喚し支援した国家、グリムウェルの待遇は最高のものとなる。


さらに王の側近や血縁ともなれば、その地位は約束されたも同然だ。


私とローズマリーが、親しい仲となるように仕向けるのは必然。


私にローレンタールの思惑がわかるように、奴も同じ事を感じているのだろう。


末永く友人でありたいものだな。

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