第87話 何処まで行こうか


 私達は、その後も数時間逃げた。その間、何度も追いつかれた。

 追っ手は持久戦の構えを崩さなかった。小勢で駆けつけ、つかず離れずの距離を保って、本営到着までの時間を稼ごうとする。

 立地も敵に味方した。

 標高の所為せいか木々が少なく、上空からの偵察を避ける手立てがない。何度も空間術を使ったが、すぐ飛竜に見つかってしまう。目的地も知られている。

 それでも私達はフラウ=ナ=ヴエルを追った。他の道は考えられなかった。

 フラウ=ナ=ヴエルへ行きたい。

 フランソワと目指したフラウ=ナ=ヴエルへ。


 山脈を登り詰めた。

 後は馬の背のような高原が続いているだけである。

 これは追っ手にとっても好条件だっただろう。登山とは違い、一気に進軍できるだろうから。

「私たちがフラウ=ナ=ヴエルをつかまえるのが先か、ヤツらが追いつくのが先か。後は進むだけね」

 山脈の背骨に沿って、車は進んだ。

 夕時が近づいていたが、陽射しは白く、目が眩むようだった。車のうねりと風の単調な音が続く。

 二人とも、疲労で朦朧もうろうとしていた。

 私は仰向けになって空を見ていた。目眩の所為せいで暗い様にも黄ばんだ様にも見える。太陽がゆらゆらと揺れた。雲が帯の様に流れていく。

「ねえ、ビッツィー。初めて会った時みたい」

 私はビッツィーを呼んだ。

 ビッツィーも話を合わせて応じた。

何処どこまで行こうか、お嬢さん」

「私たちの終着駅まで」

 そうして二人で低く笑った。

 

 度重なる交戦で疲労は限界に達していた。

 その所為せいだろう。私たちは初め、その変化に気づかなかった。目眩の時に現れる錯覚だと思った。

 光が降ってくる。

 小さな光の粒子が降り注ぎ、車を透過して行く。

 運転していたビッツィーが先に気づいた。

「ノリコ。ノリコ」

 ビッツィーが私を揺り起こした。

 何度目かに声をかけられて、私はようやく気づいた。

 光の粒子が一面に降り注いでいた。

 そしてその光の雨の向こうに、厳かにそびえる光の階段。

「フラウ=ナ=ヴエル」

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