第82話 お嬢様がた気をつけて
これは分かり切った事だったが、私達は負けるだろう。
例え
ビッツィーが悪人なのではない。私たち三人共が悪人なのだ。悪事が好きなのではない。三人で遣る事が大好きなのだ。
海原の様に起伏する草原を、時々タイヤをとられたりしながら進んだ。陽射しの強さからいって、正午を過ぎた頃だと思う。追っ手の姿を視認した。
放し飼いのバイコーンが騒ぎ出した。性質の違いなのか巨牛達はのんびりしていた。彼らの巨体のあいだを縫って、黒い影が
『猫』だ。
想定より早い。そして
もっと沢山、数十人単位の追っ手が来るものと思っていた。
「成る程。足の速い『猫』と少数で早駆けしてきた訳ね。
「
「そろそろ温存しておきたい所ね。フラウ=ナ=ヴエルへ入るには空間術が必要なはずだから」
「じゃあ私が何とかやっつけてみせる」
「期待してる。でもね――」
目眩がしたのかビッツィーは一瞬、黙った。顔が真っ青だった。昨夜は血を流しすぎたし、朝からはずっと車を走らせている。
「ビッツィー?」
「超余裕。あんたはその大っきいので追っ手を撃ってくれなきゃ」
ビッツィーが強がりを云うのは本当に辛い時だ。
「ンッ」
後ろの席からフランソワが頭を差し出してきた。自分を飲むように
これを遠慮するビッツィーではない。
「遠慮しないわよ。私は自分に必要な物は
ビッツィーはストローを取り出してその通りにした。
それら彼女はこう云った。
「ねえ、あんた達。これはあんた達が
また変な事を云い出したものだ。もっと素直に云えば良いのに。
私とフランソワは顔を見合わせた。
「はいはい」
「あいあい」
私たちはビッツィーの肩を揉んだり突いたりしてじゃれ合いを始めた。
「やめなさいよ。こっちは本気で云ってんだからね」
今日のビッツィーは可愛い。何だかこの三人で
「やめろもう。シートを蹴るのを、やめてください。もう、ああ、ああ。降参。いい天気」
ハンドルを握ったまま、ビッツィー天を仰いだ。少しのあいだ笑い、それから表情を引き締めた。
頭上に飛竜の影が見える。
『猫』たちが迫って来ていた。
「始めよう、ビッツィー」
「アイ」
「やれやれ。お嬢様方気をつけて」
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