第80話 HATO
私とビッツィーで空へ目を凝らした。
「あれ?」
「どれえ?」
鳥の様な影が在るが、日光と青空に溶けこんで、よく見定められない。
私が最初に考えたのはトンボ野郎の事である。あいつが追跡の魔術を放ってきたのかと思った。しかし距離感が分かりづらいが、今見える影はかなり上空にいるようである。蟲よりは遙かに大きい。
「トンボ野郎かな?」
「あいつの気配は感じない。流石にこの短期間で、解析は出来ないと思う」
「じゃあ、あれは?」
「……飛び方からして飛竜かな。一羽きりで飛んでるって事は野良ではない。と云うか野良なんて滅多に居ないしね。偵察ねあれは。昨日は『猫』だったけど今回は『鳩』ってとこかな」
「偵察……」
「あれ人が乗ってるのよ。飛竜なんて実際に運用してるとこ少ないわよ。食費は掛かるし、寒いし臭いし危ないしマジでご苦労さんって感じだわ」
「人が……あそこから」
私はもう一度、上空の影を睨んだ。根拠もなく、あれに『あの男』が乗っていると云う想像が湧き上がった。
「んん。飛竜の長距離移動は騎手の方が保たないから、どっか
ビッツィーは続ける。
「思ったより早く見つかっちゃったな。でも、大した事じゃないわ。向こうは集団だから足並み揃えて登って来なくちゃならないからね。
私の耳に、ビッツィーの話は遠くの音楽程度にしか聞こえていなかった。
私は、上空の影めがけて銃を撃ちまくった。
ビッツィーが止めに入る。
「ちょっとちょっと。撃っても無駄よ。届かない。それに今さら追い払ったって――」
「『あの男』があそこから見てるかも知れない。上から私の頭を撃つ気なんだ」
「あの男って、カタキンのこと? 騎手は別人よ。あの臆病なヤツが偵察になんか来るもんですか。それに飛竜は風も揺れも激しくて狙撃なんか出来ないわ」
私はビッツィーの制止を振り切って撃った。弾丸がなくなっても、しばらく引き金を引き続けていた。
「どうしたのよ……?」
「あんなやつに見下ろされるの我慢ならない」
「ムカつくって云ったって……」
私の剣幕にビッツィーも驚いた様だった。
私自身も驚いていた。『カタキン』に対する怒りは昨日で決着がついたものと自分でも思っていたからだ。
「ごめん。なんでも――痛ッ」
昨日の怪我が今になって痛み出していた。
「少し休みましょうか」労るようにビッツィーが云った。「大丈夫。偵察は帰って行ったわ。戻って作戦会議や何かをやるんででしょう。私達もそうしましょう」
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