最終章

第79話 最期の地へ


 フラウ=ナ=ヴエルを知られて仕舞しまった。

 だが、私達は進路の変更はしなかった。ヤツらより先にフラウ=ナ=ヴエルに辿り着けば良いのだ。と云うより他に方法はなかった。

 もう燃料を気にしている状況ではない。ビッツィーは車を走らせ続けた。まだ追っ手の姿は見えない。

「カタキンにしてやったのは良かったわね。死んで有能な指揮官に交代されるよりずっと良い」

「追って来るかな」

「アイツならすぐにね。街へ戻って今頃、兵隊に招集かけてる所でしょうよ」

 宿場の襲撃から一夜が明けた。ビッツィーは休み無しで車を飛ばした。

「私達、運が良いわ。フラウ=ナ=ヴエルへこんなに近づいたのってかつて無い事よ」


 明け方頃の事だった。山稜りょうせんの向こうに『フラウ=ナ=ヴエルの階段』を見た。私達の進路は間違っていなかったのだ。

 追っ手も『階段』の目撃情報はチェックしているに違いない。今朝、現れた位置から、私達の進路を特定するだろう。

 先回りされる前に『フラウ=ナ=ヴエル』に辿り着く必要があった。


 魔術システムのアップデートは無駄になってしまった。

 宿場には蟲や薬莢を残しいる。

 トンボ野郎は直ちにに解析して、追跡魔術を打ってくるだろう。

 山に篭もるには物資がない。

 体力も消耗している。

 私たちの唯一の希望がフラウ=ナ=ヴエルだった。

 永遠未踏えいえいんみとうのフラウ=ナ=ヴエル。フラウ=ナ=ヴエルへ行きさえすればどうにかなる。それが、追い詰められた私たちの合い言葉だった。

 燃料は一日保たないだろう。つまり今日が最後の戦いになる。


 車は平坦な道を探して蛇行しながら登った。

 標高が上がるに従って、景色から樹木が減っていった。

 やがて広々とした高原へ到った。

 視界は良好で、広い空の下、なだらかに波打つ斜面と、家畜の群れが見通せた。どうやら牧場があるらしい。

 かくフラウ=ナ=ヴエルの目指して、広い広い牧草地を走り続けた。しかし広大だった。まるで、グリーンを転がるゴルフボールになった様だ。

「こんな時じゃなりゃ泊まって行っても良いような景色ね。フランソワこう云うの好きでしょう」

 風を浴びながらビッツィーが云った。

 フランソワは後ろの席で身を乗り出している。

 野生なのか、放し飼いなのか、角の生えた馬が並走し来ている。

 フランソワは口笛を鳴らして手懐けようとした。馬はフランソワを慕って追いかけて来る様に見えた。

「あれは二角獣バイコーン牧畜ぼくちくの群れを管理させてるのね。放し飼いにした牛をあの馬に追わせて、寝床へ戻らせたり、脱走を阻止したりするわけ。賢い馬らしいから、脳ミソも美味しいかもね」

牧羊犬ぼくようけんみたい」

何故なぜか、邪悪な人間に、しかも女の子に懐く性質があるから、フランソワを気に入ったのかもね、一説にはロリコンという噂もあるわ」

「え。じゃあフランソワに近づけたくない」

 高原を眺めると、確かに草を食む牛の群れが居る。それがどれもバッファロー並に大きいのだった。確かにあれは、馬くらいでないと追えないだろう。

「牛の乳で造るお酒も美味しいわよ。酔って熱くなったらソフトクリーム何か舐めたりしてね。牛肉もうめえし」

「ベエ」

 その時フランソワが云った。

 フランソワの視力には見えているらしい。彼女は上空を指さして云うのだった。

「ッベーわ」

「追っ手か」

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