第77話 藤子先生ありがとう


 『猫』にしがみついて『片耳の男』が追って来る。

 加速していく車へ追いすがろうと頑張っている。

「逃が……逃がさんぞ、貴様ら! お前らの目的地も、俺は……俺分かってるんだからな……マジ……待ておらぁああ」

「執念だけスゲー」

 バックミラーで確認しながらビッツィーが笑った。

 私はこの下品な男に怒りを感じていた。

「こんなヤツに私達の旅が邪魔されるなんて」

「こっちは犯罪者だもの。仕方ないっちゃあないわ。この男は嫌いだけど」

「お前らみたいな○○、必ず捕まえて××、△△女。クソ野郎」

「何でこんな汚い事云えるかな」

「性欲のせいだよ」私は確信から云った。「汚らしい性欲があるから悪い事を考えるんだよ」

「思想怖……でも二つも要らないかもね」

 ビッツィーがそう云い、私はちょっと考えてから理解した。

 股にぶら下がっている欲望の源の事だ。

「確かに二つも要らないかも」

「ガンマンなら撃ち落とせる?」

「当たったらビッツィーにあげるね」

「いや。要らないですね。でもあんたが撃つとこ見てみたいわ」

「貴様、女。お前らみたいな◎◎――」

 『片耳の男』が極めて下品な言葉を云いかけた所で、私は撃った。

 一発。

 『猫』が射線をかわそうとする。

 『片耳の男』は投げ出されそうになる。足が浮いていた。

 私は、がら空きになった的へ正確に二発目を発射した。

「あっ……」

 男は哀しい声を上げると『猫』から転がり落ちた。

「大当たり!」

 ビッツィーとフランソワが歓声を上げた。

「ノリコよ。私の名前はノリコ。憶えたか」

 私も爽快な気分になって笑った。

「今の気分はどうですか、スーパーガンマン」

「ドラえもんを読んだら出来ました。藤子先生のおかげです」

「フジコ先生大好き! 会った事ないけど」

「F!」

 ミラー越しに中指を立てて、私達はついに警官隊を振り切った。

「ノリコ」

「何、ビッツィー」

「誰が誰を足手纏いだと思ってるって? あんた云ってたよね。見当違いな戯言たわごと何だっけ?」

「忘れた!」

「調子の良い事云って」

 私たちは笑い続けた。

 これが一時しのぎの逃走だと云う事は、良く分かっていた。

 だからこそ爽快だったのかも知れない。

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