第76話 パワー型お嬢様


「じゃあ、行こうか」

 ビッツィーが云った。

「おい待て!」

 流石さすがに警官隊も黙って行かせてはくれない。

 盾を構えたまま隊を前進させてきた。

 そのまま、全軍で突撃するつもりだ。

 正面は盾で固めている。脇からの被弾を覚悟すれば、それで十分制圧できると踏んだに違いない。

 そうかも知れない。けどそうで無いかも知れない

 彼らが此処ここまで辿り着くのが先か、私が全員撃ち落とすのが先か。試してみれば良いだけの事だ。

「ノリコ。五秒だけ時間を稼げる? 車のエンジンを起こすまでの間」

 これがビッツィーのオーダーだった。私の仕事だ。

「のび太くんはガンマンの素質があるんだよ」私は云った。「星を救うくらいの天才ガンマンなんだ」

 声が上がる。

 泥を蹴散らして警官隊が突撃を仕掛けてくる。

「突撃しろ。押しつぶせ」

 私は銃を構え、全弾発射した。

「私、その話を読んだ時、ずるいと思った。のび太くんには、もうドラえもんがいるのに。そのうえ才能まであるなんてずるいと思った」

 弾丸は地面を這って飛んだ。

 盾の下を抜けて、前列にいた警官数名の足を射貫いた。

 警官たちは即座に対応する。

「身を屈めろ、多少速度が落ちても盾で全身を隠して進め」

 私は、髪の中から色とりどりの弾丸を出して再充填さいじゅうてんする。

 ビッツィーは車に乗りこんでエンジンを掛けている。

「あと三秒だけ稼いで。のび太くんが何だって?」

 私は、地面と正面へ向けて立て続けに引き金を引いた。

 盾の上下に時間差で弾丸が当たる。何人かが盾を取り落とした。

「構うな。固まれ、固まって押せ」

「のび太くんの事、ずるいと思った。でも、のび太くんは友達のために頑張ったんだ。二度と家に帰れなくるかも知れないのに戦おうとしたんだ。私はただ嫉妬しているだけだった」

 私はさらに泥をつかんで、拳銃をもう一丁生成する。両手で二丁の拳銃を乱射する

「ノリコ、あと三秒だけ」

 エンジンの調子が悪いようだ。ビッツィーはメカニックではない。既に五秒経過していたが、手こずっていた。

 弾丸を補充する。かなり距離が詰まっていた。

「押せ押せ、こんくらいの距離」

 警官たちは防御を固めてがむしゃらに突っ込んでくる。

 こちらにはリロードの手間がある。これ以上は持たないかも知れなかった。

「ビッツィー!」

「もう少し! ああ。このポンコツ」

 ビッツィーはついに蹴りを入れた。その途端、エンジンが唸りを上げた。

「かかった!」

 後は乗り込み、加速するだけである。

 その時間を与えず、警官隊が押し寄せてくる。

「押せ押せバカ共。体育祭みてえで楽しいなあクソが」

 頭上から唸りと、同時にメキメキという破壊音が響いたのはその時である。

「ンンンンンアッ」

 フランソワだった。

 半壊した屋根の木材を引き抜こうとしている。

 醸造術を受けた者は、脳のリミッターが外れるのか、並外れた力を発揮できる。それにしても凄い力だった。火事場の馬鹿時からと云うのはこの事だろうか。

 フランソワが息む度、蟲嵐むしあらしに痛めつけられた建物は大きくかしいだ。

 建物は警官隊のすぐ隣である。彼らは状況を察して青くなった。

「あっぶねえ」

「お嬢ちゃん、それは、本当にいけない」

「やめようよ」

「やめるんだフランソワ」

 ドイルさんも叫んだのだが、それは彼女の怒りに火を注いだ。

「ンンンンンッ」

 一際ひときわ力を込めると、フランソワははりを引き抜いてしまった。

「ラア」

 と叫んでドイルさんのいる警官隊むけて叩きつけた。

 同時に建物が崩れた。

 瓦礫は、密集していた警官隊のほとんどを下敷きにしてしまった。

「痛い痛い痛い」

「体重掛けないで、体重掛けないで」

 下敷きになった警官たちが悲鳴を上げている。

 フランソワ自身はまったく無事だった。

 自分で作った瓦礫の斜面を此方こちらへ下りてくる。

「フランソワ」

 瓦礫の中からドイルさんが叫んだ。

 フランソワはその顔を踏んづけて駆け、私の胸に飛びこんで来た。と云うよりタックルしてきた。

「アイッ」

「さすがフランソワ」

「お嬢さん方。出発の時間よ」

 運転席からビッツィーがクラクションを鳴らした。

 私達はもつれ合うようにして乗りこんだ。

 車が泥を撥ね除けて走り出す。

 瓦礫を背後に加速して行く。

 唯一追って来る声があった。

 あの『片耳の男』である。彼だけは瓦礫から逃げ延びていたのだ。

「待てオラ。オラァ馬鹿お前……ブス。ブスがよ……!」

 ビッツィーは私へ云った。

理解わからせとく?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る