第60話 ビッツィー麺を食べる


「私はニンニクマシマシアブラカラメ」

「私も。フランソワは?」

「ゼンマシ、ゼンマシ」

「――でよろしく」

「食券買って下さい」

 ラーメン的な物を食べながら状況を整理した。


 まずはっきりしているのは、今回の仕事が明らかに失敗だった事。

 大抵の場合、私達が令嬢をいただくのは、国外へ逃げる準備を整えてからになる。

 カルベリィの時は例外で、山中の閉じた立地だったから、村ごとあんな風にしても、逃げ切れる計算だったと云う。村中を酩酊めいていさせておけば目撃者も出ず安全だと考えたらしいのだ。

 それで今回は如何どうだったかと云うと、お屋敷の周りに住宅が密集していたため、令嬢だけいただいて素早く立ち去るつもりだった。そのため、国を出る準備まではしていなかった。

 今から逃げようにも、こんな時間に稼働している外国船はなかった。

 この島国でフラウ=ナ=ヴエルの追跡を続けるという目的もあった。


醸造じょうぞうゾンビィも捕まっただろうし、魔術式のサンプルって云ってたヤツを採取されたんだろうね」

「そうねえ、もうの国では大人しくしてるしかないかもねえ。困った困った。すいません、お麦酒ビール下さあい」

「ゼンマシ、ゼンマシ」

「食券買って下さい」

 サンプルを取られても、追跡術を放たれる恐れはない。ビッツィーは以前そう云った。実際、今までは安全だった。

 そのため、今回も私達は事態を深刻には捉えていなかった。こんな島国の警察エイポまで、私達の手配が回っているとは、正直考えていなかった。今回の事件からカルベリィ事件に辿り着くにしても、それはもう少し先の事になるだろうと予想していた。


 ところが、翌日には港に検問が張られていた。あの普通令嬢を確保して一晩でカルベリィ事件との関連に気づいたと云う事になる。

 予想はしていたが、手際の良さには驚いてしまった。

 フランソワもすでに人質ではなく、強盗の一人として扱われていた。

「フランソワの事まで把握してるって事は、この国の警察、と云うより海外に捜査チームが在って、そいつらの方で、今回の事件に目を付けて来たんでしょうね。それにしても――似てねえわ」

 ビッツィーが新聞を放り投げる。

「ラア」

 と叫んで、フランソワが手刀で貫く。

 手配書には私達三人の似顔絵が掲載されているのだが、それが実に悪人っぽい顔つきで、私達に対する悪意が感じ取れた。


 この時点では想像もつかないし、存在を忘れていたのだが、捜査チームは、カルベリィで片目を潰された、あの下品な警官が取り仕切っていて、彼が実に執念深く私たちを追っていたのだった。

 もしかしたら、調査方面に関しては有能な人物だったのかもしれない。


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