第56話 夢の日々


 

 世界は美しい。何より楽しい。

 私たちは大陸中の令嬢を渡り歩き、悪徳を味わい、富を流出させていった。

 日に三度、ドレスを使い捨てにした。

 広間一杯にお菓子を並べて、気に入った一つだけを食べた。

 呪われた宝石を集めておはじきをした。

 気に入った靴を全て買い占め、気に入ってもいない服を、矢張り買い占めた。

 乱痴気らんちきさわぎの後で、お金をすべて盗まれているのに気づく様な事もあったけれど。その翌日には、カジノを破産させたりもした。

 社交界にデビューしたかと思うと、サーカスにも入団した。

 醸造術じょうぞうじゅつで強化されたフランソワのパワーは素晴らしい。カンフーごっこで盗賊団を壊滅させたりもした。

 気まぐれに狙い、我がままいただき、踊りながら逃走する。

 フラミンゴ色の飛竜と車で並走した。

 私達は声を張り上げて歌った。フランソワは歌をうたう時だけは、言葉が話せるのだった。

 夢のような日々が続いた。


「なんでだろう、三人で旅していると故郷の事を思い出してしまう」

 ある時、ビッツィーがぽろりと漏らした。

 れは確か、奴隷商人と、顧客の悪徳美青年を列べて、肛門に正拳突きしている最中の事だったのだが、多分ビッツィーはこの発言を一生の不覚のように思っている。

「ああ、止め止め。人生は儚い夢よ。思い出話なんてしてるうちに終わってしまうわ」

 結局、彼女は過去の事を話そうとはしなかった。

 いや、旅の間、私達は滅多に過去の話をしなかった。

 今日が目まぐるしく、明日が楽しみで仕様がなかったから。

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