第四章

第55話 悪女、花ひらく


「私たちの素晴らしい人生のために」

 それから私はタガが外れた様に全てを楽しみ始めた。


 移動して、新たな土地を楽しみ、令嬢を醸造しこみ、もはやきっする事を躊躇ためらわなかった。飲み干してしまえば土地を去る。次の街では、のんびり巣籠すごもりするのが常だった。警察エイポも、追跡の魔術も脅威にならなかった。

 逃亡生活の中で、ビッツィーは自由に生きるための色々な事を教えてくれた。

 彼女の行使する自由は、人生の喜びにあふれ、貪欲で、捨て鉢に見えるほど奔放ほんぽうだった。

 時には下手を打って、一つのベッドに三人知恵の輪のようになって眠る日もあったけれど、それでも何時いつも笑っていた。逃げることも、奪うことも、時に仲間割れする事さえ楽しくて仕方がなかった。


 間違いなく、この頃が私たちの絶頂期だった。

 お金は令嬢からいくらでも得られた。その事についてビッツィーは主張を持っているようだった。

 生態系なのだ、と彼女は云う。

 湖畔こはんほとりに城を持つ、お姫様みたいな令嬢をきっしている時だった。

「うん。うん。いかにも令嬢って感じの令嬢だわね。フランソワ。枕をカミカミするの止めてね」

「メイドさん達が略奪行為を始めてるんだけど」

 逃げ散っていく使用人たちの姿がバルコニーから見えた。倉庫を打ち壊して貯蓄を持ち出し、芸術品を盗み、必要もなくガラスを割ったりしている。

「ストレス溜まってるのねぇ~。るがままにしておきましょう。出すものは出しておいた方が良いからね」

「まあ、私達も同じような事してるもんね。フランソワ、お尻で体当たりして来るの止めて。強い。強い」

「あのねノリコ、これは生態系よ」

 ビッツィーはこう云った。

「例えばこんなに素敵な宝石を、城に閉じこめておいても仕方がないじゃない。もしこれが流出すれば、経済も動くし、この美しさが新しい誰かに感銘かんめいを与える事もあるでしょう。それを妨げているのは、此所ここに住んでいる人達の悪徳なわけ。だから私は、その悪徳を食べてあげる。その見返りとして、一寸ちょっとだけ豊かさを分けてもらうわけ。閉じこめられた美しい物達を放流してあげるついでにね」

 そう云うとビッツィーは眼球ほどもある宝石に魔術をかけてお酒に溶かして仕舞った。

「うん。うめえわ」と云う。

 れがビッツィーの主張である。

 私もれに従って、奪ったドレスを着、いかにも令嬢って感じのお酒をきっする。そしてまた一つ豊かになる。

 これが私たちの生活。

 フランソワ、這い上って来るの止めて。おんぶは無理。

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